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空飛ぶ広報室の見逃し動画まとめ

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<見逃し動画>最終回(第11話) 「2年後の再会〜二人で大空に描く未来」
 
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最終回(第11話)の公式あらすじ

2013年4月 ―― 震災から2年、ブルーインパルスが松島基地へ帰還するニュースを 藤枝 (桐山漣) が伝えていたころ、リカ (新垣結衣) はこの2年間の仕事ぶりから、公正な目で取材できるだろうと松島基地へ震災の取材に行かないかと 阿久津 (生瀬勝久) に薦められる。
 
震災当時を思い出すリカ。松島で被災した 空井 (綾野剛) を心配し、メールでのやり取りがしばらく続いていたが、空井が志願して松島基地に異動したことをきっかけに、一切連絡をとっていなかった…。
 
ある夜、藤枝と飲んでいたリカの元へ、柚木 (水野美紀) から呼び出しの電話が入る。いつもの居酒屋 「りん串」 に駆けつけると、元気そうな柚木・比嘉 (ムロツヨシ)、そして 片山 (要潤)・槙 (高橋努) まで昔の広報室のメンバーが集まった。
それぞれ新天地で勤務している面々だが、久しぶりに東京で集まりリカを呼んだのには訳があった。柚木たちは、リカ自身の目であの日の松島を見てきて欲しいと説得をしに来たのだが、リカの答えは…。
 
広報室の面々はどのような人生を歩んでいくのか…
 
リカと空井の選択は… !?
 
<出典>空飛ぶ広報室公式

最終回(第11話)のネタバレはここをクリック
前回、帝都テレビで流れた航空自衛隊に関するコメンテーターの発言問題を乗り越えたディレクーの稲葉リカと空幕広報室の空井大祐の二人。稲葉の空幕広報室の密着取材が帝都テレビで放送できることになった矢先、2011年3月11日の2時46分に東日本大震災は発生したのです。
 
 
松島へ
あの日から2年後の2013年4月。
帝都テレビのディレクター稲葉リカは、佐藤珠輝を連れて『街角グルメ』の撮影をしています。東京には何一つ変わらない日々がありました。
 
「ここから、ここまでパンでどうですか?」
「うん、まあ、ここはそうだな」
「お願いします」
 
スカイツリーから商店までワンカットで撮るように指示を出す稲葉に、カメラマンの坂手は素直に同意しました。煎餅屋の店頭では、カメラアシスタントの大津と見習いディレクターの佐藤が商品の展示について言い争っています。
 
「可愛いほうが良いにきまってます!」
「煎餅屋さんだから、地味でも主力の品を中心にもってくるべきっす」
「可愛くてキャッチーなほうが真ん中ですよ!」
 
そんな二人を見て、坂手は困惑顔です。
 
「あの嬢ちゃん、次から一人で大丈夫か?」
「任せることで生まれる責任感もあるかなって」
 
稲葉は苦笑いしました。
 
「コラ! 店先で揉めない! やるなら陰でやりなさい」
 
稲葉は二人に一喝すると店主に声をかけ、撮影に入るのでした。
 
撮影終了後、稲葉は藤枝がキャスターを務めるニュースを見ていました。松島基地に所属の飛行隊ブルーインパルスが2年ぶりに松島基地に帰還したことを伝えるニュースでした。
 
(ブルーインパルスが2年ぶりに松島基地へ帰還しました。航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」が昨日、故郷である松島基地に帰還し、記念式典が行われました。
 
2年前の東日本大震災の日、ブルーインパルスは九州新幹線開通記念イベントのため福岡を訪れており、被害を受けませんでした。以降、福岡県芦屋基地に拠点を移し、訓練を行っていましたが、松島基地の復旧工事が進んだことを受け、帰還。当日はあいにくの雪で予定されていた展示飛行は中止となりました)
 
「飛べなかったんですね」
 
ニュースを聞いた佐藤は稲葉のそばへ。
坂手も同じく声をかけます。
 
「あれから2年か。東京はそれ以前と変わんねえな」
「大津君の郡山の実家どうなった?」
「ああ、建て替えは終わったんですけど、借金てんこ盛りっす」
「大変だねえ」
「いや、俺なんて全然っすよ。地元の友だち、失業したやつたくさんいるんで。こっちで俺だけ平和に暮らしてんのが、なんか悪いみたいでーー」
「お前そんなよお、生きててごめんなさいみたいなこといってんじゃねえよ」
 
坂手が大津に叱咤しようとして、大津は坂手の帽子をとってはしゃぐのでした。
 
 
夕方、帝都テレビの情報局に戻ると部長の阿久津が稲葉を呼びました。
 
「稲葉! 見たか? ブルーインパルスの帰還のやつ」
「はい、一瞬でしたね」
「お前、松島基地へ取材に行かないか?」
 
稲葉は阿久津の申し出に目を見開きました。
 
「これ知ってるか?」
 
手渡されたネット記事のコピーには『東松島市、住人1万6千人がブルーインパルスの早期帰還を求める署名提出』と書かれていました。
 
「地元にとってブルーインパルスは復興の象徴。せっかく、帰還が叶ったんだ。これを期に、空自の側から語られる震災の記憶、そんな特集があってもいいんじゃないか」
「はい。でも、それを取材するのが私でいいんでしょうか」
「今のお前なら、公正な目で取材できるはずだ。周りも何も言わんだろう。この2年、お前はそれだけの仕事をしてきた」
 
 
自宅に戻った稲葉は、当時の携帯を取り出して思い返します。
 
2011年3月11日のあの日、稲葉は取材協力の挨拶のために空幕広報室の空井へ会いに行くことを約束していました。しかし、地震が発生し、すべての予定は消え去ってしまったのです。
 
地震発生直後、稲葉には空井から「自分は無事です」の一文だけのメールが届きます。「どうか、そのまま無事でいてください」と稲葉は返信しました。
 
そのまま帝都テレビでは緊急報道になり、局内で待機。震災の報道へ尽力することになるのでした。稲葉は報道局のフォローに回されます。
 
報道局との連携は3日間続き、震災の報道のために情報収集にあたった稲葉は、映像のチェックやナレーション作成で呆然とし、涙を流すこともあるのでした。
現地に派遣された自衛隊は10万人。報道することしかできない稲葉は、現地で任務にあたっている空幕広報室の人々を思いつつ、仕事に注力し続けます。
 
3月16日。5日ぶりにテレビ局から帰宅した稲葉は、「空井さんはその後大丈夫ですか?」とメールを送りますが、空井からの返信はありませんでした。
空幕広報室の人々のほとんども東北へ派遣され、状況を確認することができず、稲葉はただひたすら頑張りつづけるだけ。
 
テレビ局には「テレビの震災映像を見るのが辛い」という視聴者からの連絡が多く入るようになり、稲葉は報道する難しさに直面するのでした。
 
宮城県の航空自衛隊松島基地では、F-2戦闘機を含む全28機の戦闘機が水没する被害を受け、被害総額は2億円を超えました。3月21日のニュースや新聞記事では、『なぜ津波が到達するまでの30分以上の間に1機も飛び立たせられなかったのか』と疑問が投げかけられていました。
 
4月に入って、2011年3月11日の震災は「東日本大震災」と名称が統一されることとなります。その頃、稲葉のもとに空井からメールの返信が入ります。
 
(稲葉さん。ずっとメールできなくてごめんなさい。水が引いてからの松島基地は、救援活動の拠点として、24時間フル稼働しています。終わりはまるで見えませんが弱音を吐く奴はいません。災害派遣は勝利なき戦いである。その言葉の意味を、今噛み締めています)
 
それから2週間ほどして、稲葉は『街角グルメ』の撮影を再開し、通常の業務が少しずつ戻ってきました。しかし、稲葉の心境は複雑です。「こんなことをしていていいのか。他に伝えるべきことがあるんじゃないのか」と彼女はそればかり考えるのでした。
 
震災から2ヶ月がたつと自衛隊の災害派遣は段階的に縮小される方針になり、稲葉たちの仕事も少しずつ落ち着いていきます。稲葉は空井を心配するメールを何度か送りました。しかし、震災が起きて三ヶ月が過ぎた頃に彼からお別れのメールがきたのです。
 
(稲葉さん。ごめんなさい。僕は、松島基地に移動することになりました。自分から、志願しました。今までありがとうございました。もう、連絡しません。稲葉さん、どうか、幸せになってください)
 
それから2年後の現在まで、稲葉は頑張り続けてきたのでした。
 
 
翌日、懐かしい空幕広報室へ挨拶に向かうと、そこには比嘉がいました。
 
「稲葉さん。一年ぶりですね」
 
広報室に通される稲葉。
 
「すっかり変わっちゃいましたね」
 
空幕広報室を見渡して彼女は言いました。
 
「そうですね。あの頃いた人はもう誰も」
「電話で比嘉さんが出てほっとしました」
「相変わらずやってますか? ガツガツ」
「最近は小出しで」
 
コーヒーをすすめられ、稲葉は一口飲みます。
 
「松島基地の取材でしたよね?」
「はい。ブルーインパルスの帰還とその前段として基地での震災当時の状況を取材したいと思ってます」
「ぜひとも、お願いします」
 
少し思案して、稲葉は問いました。
 
「あのーー松島基地の広報にはまだーー」
「ええ、いますよ。空井二尉。今は一尉ですけど」
「そうですかーーいますか」
「いますねえ」
「正直、他の人に変わっててくれればと思ったんですけど」
 
そんな彼女を静かにほほえんで見つめる比嘉。それに気づいた稲葉はとっさに姿勢を正しました。
 
「あ、すいません」
「空井一尉が担当だと取材してくれませんか?」
「いえ、取材はします。ただーー私が行くか、他のディレクターが行くか。それだけのことです」
「そうですか」
 
比嘉は優しくほほえみます。
 
 
夜、稲葉はいつものバーで藤枝といました。
 
「よし、決めた。やっぱ断るわ」
 
お酒を飲みつつ、稲葉は決心します。
 
「公私混同」
「公私混同だから行かないの」
「つまり、まだ忘れられてないってことか。空は見上げりゃあどこにでもあるもんな」
「やめたやめた! 松島には行かない。空も見ない。それでおしまい」
「空見ないなんてかなり難しいぞ」
「見ないのだ! ビールおかわり!」
 
そう意気込んだ稲葉に電話が来ます。電話から聞こえた声は、元空幕広報室の柚木のものでした。
 
「稲葉、助けてーーう、生まれる!」
「だめ! ストップ!」
 
慌ててかけつけた居酒屋にはお腹の大きい柚木と比嘉がいました。
 
「「よ!」」
「はあ、おかしいと思った。なんで入間にいるはずの妊婦がこんなとこで倒れるんですか」
「ジュース飲みに来たのお」
 
「赤ちゃん、今何ヶ月なんですか?」
 
稲葉とともに来た藤枝は柚木に笑顔で問いました。
 
「七ヶ月! 腹ん中で暴れまくり」
「座ってください」
「呼ぶなら騙すんじゃなくて、普通に呼んでください。鷺坂さんじゃあるまいし」
「詐欺師鷺坂!」
「リスペクツです!」
「そこのリスペクツはいらないと思います」
 
そこへ片山と槙も合流しました。
 
「おす! いなぴょん!」
「お久しぶり!」
 
藤枝に気づいた片山は彼に声をかけました。
 
「あれ、藤枝さん!」
 
稲葉はそんな片山を見て気づきます。
 
「あれ、片山さんおしゃれしてます?」
「別に」
 
いつもより服装に力が入っている片山を稲葉は不思議に思いますが、片山ははぐらかすのでした。その傍らで槙は柚木に説教をしていました。
 
「なんで一人で来るかなあ? 電車何分乗ったの? 何かあったらどうするの」
「大丈夫だって!」
 
柚木の風紀委員だった槙は、グレードアップして今では過保護なママみたいになっているのです。
 
「お似合い」
 
稲葉は笑いました。
 
「槙さんは今どちらに?」
 
槙は十条の補給本部に所属していて、片山は芦屋にいるのでした。
 
「出張でこっちに?」
「別に」
 
片山がこっちに来ている理由を稲葉が聞いても答えないので比嘉がばらしてしまいます。
 
「撮影のです。婚活の写真の」
「婚活?」
「バラすな!」
 
片山は雑誌の婚活募集に載るので、そのための写真撮影に来ていたのです。婚活に苦戦している片山は真剣に藤枝に相談します。
 
「恋愛相談は他所でやれ!」
「うるせえ」
 
柚木は比嘉に真剣に話をふりました。
比嘉が話しだしたのは松島の取材の件でした。
 
「稲葉さん」
「はい」
「こちらからこんなことお願いできる立場じゃないんですけど。松島基地の取材、稲葉さんに行ってもらえませんか?」
 
稲葉は思い悩みます。
柚木は比嘉から引き継いで気持ちを伝えるのでした。
 
「別に空自びいきの取材をしてくれって言ってるんじゃないよ。そこは稲葉が思ったように公正な目で見てくれればいい。でも、私たちは稲葉に行ってほしいの。稲葉に見てきてほしいの。あの日の、松島を」
 
少し戸惑う稲葉に槙も片山も同じように伝えます。
 
「自分も同じ気持ちです」
「いなぴょんなら、自衛隊のことをヒーロー扱いしないだろうし。ありのままを伝えてくれる」
 
誰の目にも薄っすらと涙かあります。
 
「ずっと我々を見ててくれた稲葉さんだからお願いしたいんです」
「ねぇ、稲葉。行ってくれないかな?」
 
柚木はそっとお願いしました。
 
「はい」
 
涙を流しつつ、稲葉はうなずきました。
 
「よしっ! 空井に会ったらさ、殴るなり蹴るなり、フライングクロスチョップなりしてやればいいいじゃん!」
「やんないって!」
 
皆は稲葉が取材に行ってくれることに安堵して笑いました。
 
 
伝えたいあの日のこと
そうして後日。稲葉は松島基地にバスと電車で向かいます。
到着した矢本駅には迎えに来た空井が待っていました。
複雑な表情で見つめ合う二人に沈黙が流れます。
 
「お久しぶりです」
「お久しぶりです」
「この度は取材ありがとうございます」
「いえ、よろしくお願いします」
「では、行きましょう」
 
松島基地につくと、そこには津波の痛々しい傷跡がたくさん残っていました。津波が到達した地点には印がされおり、流されて破損したものもそのまま残されていました。
 
「あのときのまま、残しているんですね」
「はい。忘れてはいけないんです。僕たちは決して」
「聞かせてもらえますか? あの日の松島を」
 
基地の屋上にいくと、二人は基地の周辺を眺めながら当時の話を始めました。
 
「あの日は、雪が降っていて、下はあたり一面見渡すかぎり、真っ暗な水でした。目の前ではみるみるうちにF-2やT-4が流されて、ただ見ていることしかできませんでした」
「津波が来たのは警報から30分以上がたってから。でも、その間、1機の機体も飛び立たせることが出来ないまま、28機すべてが使用不能におちいった。どうしてそんなことになったんですか?」
「聞かれると思ってました。滑走路は全長2700メートル。地震の影響がないか、すべてを確認するには時間がかかります。ここにいたのが実戦部隊のアラート機なら、5分で離陸できるんでなんとかなったかもしれないですけど」
「あるのは教育隊ですよね」
「はい。あの日は雪で訓練も中止が決定していたので、飛行船点検も何も行われていませんでした。その状態から飛ばすには通常30分近くかかる。津波警報が出てすぐ、整備員もパイロットも飛ばすべく走りました。でも、全員退避の命令が出ました。間に合わないという基地司令の判断です。飛行機も隊員も失うくらいなら、隊員だけでも戻れと。悔しかったです。何も、できなかった」
 
空井は高台にあるハンガーを指差しました。
 
「あの高台。3メートルかさ上げしています。その上に、仮設のブルーのハンガーを作りました。松島に帰還してからずっと避難訓練を続けています」
「避難訓練ーー」
「はい。飛ぶ準備が出来ていない状態でもいかに早くエプロンからあそこまで退避できるか。もう二度と1機もムダにしないために」
 
高さをかさ上げしたハンガーには、ブルーインパルスのパイロットである島崎がいました。稲葉と空井はハンガーの中で話を聞きます。
 
「こいつらも流されていたら、ブルーインパルスは二度と復活できませんでした」
「新しく機体を用意することは?」
「新規調達となると莫大な予算がかかる。この先、何十年も復活できなかったと思います。こいつらが残ったことにはきっと意味がある。だから、できることは何でもやりたいと思っています」
 
帰還の際は、地元の人々を励ましたいといろんなことをしようと考えていたブルーインパルス隊でしたが、帰還の日の展示飛行も中止になってしまったので島崎はとても残念そうでした。
 
ほかの隊員の取材では女子隊員たちがお風呂に入れず大変だったことや生理用品の不足といった女性としての震災での苦労などを伝えてくれました。
 
稲葉と空井は、松島基地の空井の上官である山本3等空佐から当時の記録を見つつ話を聞きます。
 
「写真はさほど残ってないんです。広報の隊員も災害救助に必死でした。あまりに被害が大きすぎました。活動範囲の線引きでも悩まされました」
「線引きというと?」
「たとえば、被害にあった家屋の瓦礫の撤去や泥かきも本来はしてはいけない」
「え!?」
「自衛官は救助活動以外で私有地に入ることを禁じられているんです。石ころ一つ拾えない」
「非常時なのにーー」
「しかし、私たちにとっても馴染みの街です。泥をかぶったままの家々を前に手をこまねいていることはできなかった」
「ではーー「
 
これに空井は答えます。
 
「地元の了解を得てから、基地司令からの命令が下されました。『基地から流された流出物を捜索せよ』」
 
引き続き、山本が口を開きました。
 
「無理矢理の名目です。でも、他に方法がなかった。問題になったら基地司令の首が飛ぶ。それでもそういう命令を出してくださった」
 
また空井。
 
「この件については報道対応に気を使いました。取材に来た記者の方たちに事情を説明して、もし問題になったら活動を打ち切りざる終えないと。でも、各社とも好意的な報道をしてくれました。おかげで活動を続けることが出来た」
 
当時の隊員を思いつつ、山本は言葉を振り絞ります。
 
「隊員たちはよく頑張ってくれました。辛い光景もたくさん見たと思います。隊員の中には自分の家族が行方不明のままの者もいました。それでも皆少し休むとすぐにまた出ていこうとするんです。打ちのめされているだろうにーーそれでも」
 
そのまま言葉に詰まってしまう山本はただひたすら涙を堪えるのでした。
 
 
山本3等空佐とのインタビューを終えて、稲葉と空井は基地構内を歩いていました。
 
「皆さん同じですね。震災から1年たったころ、比嘉さんに会ったんです。そのとき、少しだけ話しを聞いたんですけどーー」
 
稲葉は当時の比嘉を思い出します。当時の比嘉は、災害派遣で避難所の子どものケアを任され、子どもたちの面倒を見たりしていました。
 
その話をしてくれる比嘉は笑顔で稲葉の質問に答えてくれていましたが、「少しでも役にーーもっと、何かもっと、出来たのかもしれません」と突然せきが切れたように涙を流すのでした。
 
「テレビの映像を見ただけで不安定になった視聴者が大勢いました。実際に現場にあたっていた隊員の人たちが何も感じないわけないですよね」
 
基地の屋上にたどり着いた二人。
 
「現場では何も考えないよう、スイッチを切って動けるんですけどーー基地に帰ってーー」
 
空井は涙で言葉に詰まりました。
 
「こうふとした瞬間に、あれなんでですかね。たまらなくなることがあります。情けないですね」
「私は空井さんの泣き顔ならたくさん見てるんで今更です」
「あはは、酷いなあーーあそこのお風呂。地震でボイラーが壊れたのを新品に交換して、被災者の皆さんに開放したんです。こんなときに風呂なんか直してる場合かって意見もあったんですけど、1万6千人の人に使ってもらってすごく喜んでもらえました。あと、あっちの体育館、全国から集まった自衛官の千人がーー」
 
空井が振り返ると稲葉は泣いていました。
 
「ごめんなさい。私、何も伝えられてません」
「いいんです。何かできることがあるって、楽なんです。有事において果たすべき義務がある。それだけでも心の拠り所になります。だから、気にしなくていいんです。稲葉さんが泣くようなことじゃないんです」
 
稲葉は涙を堪えきれず、うずくまります。
空井は稲葉の頭をそっと撫でました。
 
「余計に泣けるんで止めてください」
「僕が稲葉さんにできることは他にもうないんです」
 
そっと彼は稲葉の肩に手を添えました。
こうして最初の取材は終了し、二人は駅で別れました。明日は、カメラマンの坂手たちも交えての基地での撮影になります。
 
「いなぴょーん!」
 
ふと、鷺坂の声が駅の駐車場に響きわたりました。
 
 
鷺坂と稲葉は高台にやってきました。眼下には宮城の風景が広がっています。
 
「昨日からちょうど石巻に来てて『いなぴょんがそちらに向かいました!』って比嘉から連絡もらったもんだから」
「ずっと東京と東北を行き来してるんですか?」
「そう。各地の小学校や仮設住宅を訪問して、避難訓練のレクチャーしたり、他にもいろいろと」
「鷺坂さんたちOBも震災直後から東北に?」
「隊員たちの代わりに彼らの家族の捜索にあたってました。少しでも安心して任務に励めるように。空井、元気にしてた?」
「元気でしたよ」
「そうーー」
「私ずっとこの2年間空井さんからのメールの意味を『幸せになってください』って言葉の意味をずっと考えていたんです。でも今日、よくわかりました。空井さんはたくさんのものを抱えてて、抱えきれないくらいで。でもきっと私には抱えてほしくなくてーー」
 
空井は自衛官である自分を選んで、稲葉に大変な人生を歩んでほしくないと考えていました。だから、彼は稲葉に気持ちを伝えずに、自分とは違う別々の道に進んでほしいと願っているのです。
 
「自分がどんなに辛くても、あの人は私には笑っていてほしい。そう思っているんです。もう決めてるんです、空井さんは。だから、私も自分の人生を歩こうと思います」
 
鷺坂は険しい顔をしました。
帰りの車の中、海辺にはたくさんの瓦礫が存在していました。
 
「まだこんなにーー」
「東松島市だけで百年分の瓦礫が出ました。でも、急ピッチで処理が進んでいます。毎日、地元の人たちが分別にあたっています」
 
夜は仮設住宅の人々のもとに寄りました。
そこには可愛い『おのくん』という人形がありました。
 
「可愛い。『おのくん』?」
「ここ小野の仮設住宅で生まれたから『おのくん』」
「手作りだからいっぱいは作れないんだけどね」
 
仮設住宅の人々は、自分たちでできることを探し、要らない布で『おのくん』という人形づくりを始めました。それは口コミで人気になり、全国から買いに来る人がいるほど。今では予約待ちとなっています。
 
「すごい。いつから作り始めたんですか?」
「ちょうど一年前。めんどくせえってなってな」
 
お茶を出してくれた仮設住宅の女性は稲葉に問います。
 
「東京からですか?」
「あ、はい。申し遅れました。私、帝都テレビの稲葉リカです」
「ブルーインパルス帰ってきたでしょ。その取材」
 
鷺坂は彼女の訪問理由を説明しました。
 
「展示飛行、中止で残念だったなあ」
「ブルーの人たちも残念がっていました」
「いなぴょん、明日は?」
「明日はカメラマンの人たちも来て、飛行訓練をーー」
 
そこで稲葉はあることに気づき、鷺坂に問いかけるのでした。
 
 
空は明日へ続いてく
翌日、稲葉は駅前など各地でチラシを配っていました。
基地での撮影時間になっても現れない稲葉のことを心配する空井。
ブルーインパルスの飛行訓練開始はもう目前に迫っています。そこへ電話がかかってきたのでした。かけてきたのは鷺坂です。
 
「そらぴょーん。いなぴょんからそらぴょんに伝言。『今日のブルーの飛行訓練は基地の外から撮影するのでそちらには伺いません』とのことです」
「え、外からですか?」
「空井、外に出てごらん」
 
空井が目にしたのは基地の周りに集まる一般の方々と鷺坂の姿でした。
 
「室長! 室長、これはーー」
 
駆けつけた空井に鷺坂は青いチラシを渡します。
 
「昨夜、いなぴょんがさーー」
 
これは稲葉の案でした。ブルーインパルスの飛行訓練を見ることができるよう一般の人々にチラシを配り、ブルーインパルスの飛行訓練を告知したのでした。
 
 
飛行訓練が始まったと同時にたくさんの人々の歓声が上がりました。さまざまなアクロバット飛行を行うブルーインパルスに皆が手を振ります。飛行訓練を知った地元の人々はさまざまな場所で飛行訓練を見ていました。
 
それの光景を見る空井。鷺坂は空井に語りかけます。
 
「いなぴょん、お前に会わないで帰るつもりだよ。詐欺師鷺坂としては仮病使って電話してでも、いなぴょん呼び戻してなんとかしてやりたかったけど、お前ら二人とも散々苦しんだから。でも、何にも思いつかなくて詐欺師としてはお手上げだ」
 
ブルーインパルスは優雅に空に舞い上がり、青い空にキレイな白い線を描いていきました。鷺坂は空に向かって大きな声で呼びかけます。
 
「空井大祐! 稲葉リカ! あの日から、時計の針が止まってしまった人がたくさんいる。でも、それでも前に進もとしている人たちがたくさんにいる。勝手な願いだが、俺はお前たちに諦めてほしくない!」
 
鷺坂の姿を見て、空井は涙を流します。
地元の人たちは空に描かれたブルーインパルスのハートに拍手喝采。稲葉はそれを見て、昔空井と一緒に見たブルーインパルスの姿を思い出し、駆け出しました。それと同時に空井も駆け出します。
 
二人は大空の下で駆け寄り、向かい合うと、空井は彼女に言うのでした。
 
「稲葉リカさん。自分、僕は、稲葉さんのこと幸せにできるかどうかわからないけどーー」
「私の幸せは私が決めます!」
「はい!」
 
空井は稲葉を抱き上げたのでした。
その姿は空幕広報室の皆だけでなく、帝都テレビの阿久津の元にも写真付きでメールされました。もちろん、鷺坂のしわざです。
 
数カ月後、空井と稲葉は無事に結婚していました。
 
「離れてて、寂しくないのか?」
 
と問う阿久津に稲葉は答えます。
 
「空は繋がっています」
 
東京と宮城と遠く離れている二人ですが、青い空の下で幸せに暮らしているのでした。
最終回(第11話)の感想はここをクリック
あの日のことを思い出すと今でも恐怖に体が震えるほどの人々もいらっしゃるでしょう。とても長い時間、凄まじい揺れがありました。立っていられないほどの揺れになすすべもなく、ほんろうされたあの日。
 
地震の報道に関する問題は多々あったことを覚えています。テレビ局の人々も大変だったことでしょう。ブルーインパルスが震災を免れた話は本当に嬉しく、偶然だとしても当時松島にブルーインパルスがいなかったことは奇跡だったと思えました。
 
このドラマで当時を追体験し、改めて自衛隊の方々の仕事の素晴らしさや震災の恐ろしさを実感しました。稲葉と空井が震災に負けずに前に進もうとする姿に励まされ、二人が幸せを掴んだことはとても嬉しかったです。震災史として良いドラマでした。
<見逃し動画>第10話 「君の隣で見えた景色」
 
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第10話の公式あらすじ

2011年2月 ――
 
リカ (新垣結衣) が空自担当を外れて半年が過ぎた。リカは今まで以上にガツガツと新企画の立ち上げなど仕事に打ち込み、空幕広報室のメンバーもそれぞれ頑張って仕事をしていた。
 
ある日、芸能事務所に企画の売り込みに行った 空井 (綾野剛) は、以前ドラマの撮影で出会った人気俳優・キリー (桐谷健太) と再会する。ドラマの撮影がきっかけで空自の大ファンになったというキリーから、ブルーインパルスに乗せてもらいたいと言われる。早速、鷺坂室長 (柴田恭兵) はじめ広報室メンバーが動き出した。一方で、リカは 阿久津 (生瀬勝久) から鷺坂が3月に退官することを知らされる…。
いよいよキリーが松島基地でブルーインパルスに乗る日がやってくる。そこには、鷺坂が… さらには、リカの姿も… !?
 
<出典>空飛ぶ広報室公式

第10話のネタバレはここをクリック
帝都テレビで放送された番組内でのコメンテーターの発言をめぐり、帝都テレビと空幕広報室とで対立してしまう問題が起きました。自分の立場ではなく、空幕広報室を守ろうとしてしまった稲葉は局内で危うい立場になり、空幕広報室の担当を外されてしまったのでした。
 
 
離れていても走る二人
2011年2月。稲葉が空幕広報室の担当を外れてから半年後。空井は変わらず空幕広報室の仕事に邁進していました。空幕広報室のPVに関する問い合わせや反響も収まり、皆は以前と変わらない日々を過ごしています。
 
そんな中、自衛隊をモデルにした碓水リュウ最新作の連載が始まったり、人気ドラマ『報道記者、走る』のシーズン4が決まったりと、たくさんのニュースで空幕広報室の皆は盛り上がっていました。
 
「前に『報道記者、走る』にうちのヘリ飛ばしたときは盛り上がったねえ」
 
当時のことを鷺坂室長はニコニコと話します。
空自のヘリをドラマ内で飛ばすという企画のときは、稲葉も撮影に同行していました。
 
「ドラマの撮影のとき、稲葉さんかっこよかったんですよ。無茶なこと言った帝都テレビのディレクターさんに『なにぬかしてんですか?! 話が繋がらなくたって、今ここで撮るのが筋でしょ!』。空井二尉はポカーンとしちゃってーー正直言っておもしろかったです」
 
比嘉は笑います。
感慨にふける柚木は遠い目でつぶやきました。
 
「私、稲葉のこと好きだったなあ」
「柚木三佐はあれからーー」
「空井が会ってないのに、会えないでしょ」
「今頃また、ガツガツやってんのかなあ、いなぴょん」
 
その頃の稲葉は、帝都テレビの情報局で新企画のプレゼンをしていました。しかし、視聴率の点でつまづいてしまうのでした。
 
稲葉は阿久津チーフに指摘されます。
 
「あそこで弱気になるな」
「内容に自信があっても、それとこれとはーー」
「バカ正直もいいが、ハッタリも覚えろ!」
「はいーー」
 
ふと思い出す阿久津チーフ。
 
「ああ、そうだ。稲葉、お前聞いたか? 空幕広報室の鷺坂さん。3月の頭で退官だそうだ。誕生日の前日が任期の終わり。1等空佐の場合、56が定年だそうだ」
 
あと1ヶ月なくして鷺坂室長が退官することを受けて、稲葉は当時していた空幕広報室の密着取材の録画ビデオを取り出したのでした。
 
 
空井は、室長の退官前に自分のテレビ企画をなんとか作り上げようとさまざま営業していましたが、なかなか話が決まりません。
 
しかし、営業を終えた先で偶然にも『報道記者、走る』に出演している桐谷隆史を見かけました。
 
声をかけようかと思う空井でしたが、間が悪かったので断念してしまいました。しかし、桐谷のマネージャーが慌てて空井を呼び止めたのでした。
 
「空自の空井さんですよね?!」
「はい、その節はーー」
 
応接室のような場所に案内されるとそこには桐谷隆史がいました。
 
「やっぱり、ヘルメット探してくれた方ですよね?!」
「はい!」
「お久しぶりです! 去年、航空祭に行ったんですよ! 11月の入間! 変装してこっそりーー」
「そうなんですか?!」
「ドラマのヘリの迫力にやられちゃって。あれから空自さんのホームページーー」
 
航空自衛隊の話で盛り上がる桐谷をマネージャーが落ち着かせました。
 
「キリー!」
「あ、それで、乗せてくれませんか? ブルーインパルス」
「ブブブ、ブルーインパルス!?」
 
桐谷の申し出に空井は驚いのでした。
 
 
空幕広報室に戻った空井の報告に皆は歓声をあげました。
 
「『あなたの夢、かなえちゃったりしちゃおうかな、どうしようかなスペシャル』ってこれ、大人気特番じゃないの!」
「『報道記者、走る4』の番宣も兼ねてキリーが出演するらしいんです」
 
もともと、番組のディレクターから提案があったのは海でイルカと戯れるものでしたが、桐谷は空のドルフィンことブルーインパルスに乗りたいということで空井に声をかけたのです。
 
「ブルーインパルス! ただ、急な話なので突貫工事になっちゃいますけどーー」
「なんのなんの、ゴールデン大人気特番、大人気俳優。これを取らずして何が空幕広報室か。勇猛果敢、支離滅裂の名に恥じぬように何が何でもブルーインパルス飛ばすぞ!」
 
こうして鷺坂室長は、自慢の話術で空幕長の承認を頂きに向かい、空井は松島の飛行隊に撮影協力の依頼のためにアポをとるのでした。
 
 
その夜、稲葉は藤枝といつものバーにいました。
 
「チョコレート、ちょっと早いけど」
「わお! 稲葉もついに俺の魅力に気づいちゃった?」
 
稲葉は藤枝に微笑むとバーの店長にも同じチョコレートを渡します。
 
「これ、どうぞ」
「ありがとうございます」
「いつもありがとうございます」
 
藤枝は苦笑いしました。
 
「あはは。だよね」
「だよねえ」
 
「街角グルメの余り物です」といったのは一緒に飲んでいた佐藤でした。
藤枝はそのまま稲葉に問います。
 
「入ってないの? 本命」
「ないにきまってんでしょ。誰にあげんの」
「そっか」
「当分いいかな。そういうのは」
 
二人の会話を聞いていた佐藤は彼女に聞きました。
 
「当分ってどのくらい?」
「空を見ても何も思わなくなるくらいーーなんてな」
 
 
翌日、空井は宮城県の松島基地にいました。
ブルーインパルスの飛行隊との打ち合わせのためです。
基地のブルーインパルスを眺めていると空井は声をかけられます。
 
「スカイ!」
「島崎三佐!」
「元気そうじゃねぇか、スカイ!」
「空井でいいです。ウイングマークはとっくに返したんで」
「TACネームまで返したわけじゃねえだろ」
「乗りたくなって困っちゃいますから」
「残念だったな。お前は本当にセンスがあった。30手前でブルーに抜擢されるなんてめったに無い話だぞ」
「せめて一度くらいは乗りたかったですけど、もうだいぶ吹っ切れました」
 
その後、打ち合わせでブルーインパルスへの熱い思いを伝えた空井に島崎三佐も同意してくれ、話はスームズに進みました。
 
 
約束の企画
とうとう、帝都テレビでの打ち合わせです。半年ぶりの帝都テレビに空井と比嘉と片山は少し身構えます。
 
「ついに来た! 魔境魔境魔境! 帝都帝都帝都!」
 
片山は気合を入れるために変な単語を連呼します。
諌める比嘉。
 
「失礼を連呼しない!」
「それくらいの気合が必要なんだよ!」
「行きましょう!」
 
空井は意気込んで帝都に入りました。
 
打ち合わせの議題は、一日を要する低圧訓練チャンバーを省けないのかという話でした。しかし、これは飛行のために必要な最低限の訓練のために省くことはできません。
 
「貸し切りでやってもらえませんか? キリーの事務所サイドが、『そんな長時間、桐谷を一般人と一緒にいさせるのは困る』と言ってきているんです」
「しかし、物理的にチャンバーは全国でたった5つ。隊員だけじゃなく、航空科学や医療関係の実験も受け入れてるので、常にフル回転で。それを一人のために貸し切るのはーー」
「よし、わかった。のみましょう、その条件。ただし、日程は譲歩して頂きます」
 
比嘉はそういう片山を止めようとします。「予定外で動かすってなったらそれ相応の理由がないとーー」「それはお前の仕事だろ!」言い合う二人の脇で空井は思いつきました。
 
「あの、訓練風景も番組で紹介してもらえませんか? チャンバーに撮影が入れば、入間の方も訓練生がいない日のほうが都合がいいはずです。それしか方法がございません」
 
この条件で話はまとまり、三人は打ち合わせのあとの廊下で大喜び。
そこへディレクターの人が挨拶に出てきました。
 
「お疲れさまです。いや、助かりました」
「いや、こちらこそ助かりました。帝都さんとはもう半年も仕事してなかったのにーー」
「いや、テレビ局って一口にいっても、部署も人もいろいろですし、いろんな考えの人間が働いています。個人だとうまくいくのに、どうして大きな単位になると対立したり、争ったりしちゃうんでしょうねえ」
 
 
数日後、チャンバーの撮影の日が来ました。その撮影のカメラマンに推薦されてきたのは坂手と大津でした。空井が半年前の約束を覚えていて坂手を指名したのです。
 
「帰ってきたぞー! アイル・ビー・バック!」
「坂手さん! 坂手さん! お久しぶりです」
「お久しぶり! 推薦ありがとうな、空井くん」
「うちを一番よく撮れるの坂手さんですから!」
 
チャンバーでの訓練は無事に終了し、空井たちは空幕広報室に戻ってきました。そのとき、鷺坂室長は自身が記した「宣誓の書」を見つめていました。そこには自衛隊員としての志が記されていました。
 
「只今戻りました!」
「おかえり」
「おう! どうだった!」
 
戻ってきた三人に柚木は問います。
 
「キリーすごくよかったです」
「サービス精神旺盛」
「隊員ともたくさん絡んでくれました」
「そうか! さすが人気俳優は違うね。ケツもいいしね!」
「ケツは関係ないでしょ」
 
尻にこだわる柚木に槙はツッコみます。
室長が自分たちを見つめていることに気づいた空井は駆け寄りました。
 
「室長!」
「おつかれさん」
「残るは、ブルーインパルスを飛ばすだけです」
「いよいよかーー」
 
柚木は皆に声をかけます。
 
「はい、その前に。室長の退官日を前に、明日、送別パーティを行います!」
「りん串かよ」
りん串は空幕広報室がいつも使う居酒屋なのです。
 
「室長たっての希望なんです」
「ま、いつもどおり飲み会程度で」
 
鷺坂室長は微笑みました。
 
その頃、帝都テレビに戻った坂手と大津は稲葉と会いました。
 
「おお、いなぴょーん!」
「テンション高」
「明後日、ブルーインパルスだからな!」
「え?!」
「初めてのブルーインパルス!」
「は?!」
「あれ、聞いてない? 特番、キリーが乗るの」
 
大津は坂手に引き続いていいました。
 
「空井さんの企画です」
「密着取材、できてたらよかったのにな」
 
坂手の言葉に稲葉はほほえんでうなずくだけ。
そのまま、坂手と大津は打ち合わせに去っていきました。
 
稲葉は、以前に空井と約束した言葉や彼との日々を思い出します。稲葉は空井のテレビ企画が叶ったときは、隣で見てるからと約束したのでした。
 
 
鷺坂室長の送別パーティの当日。空幕広報室の柚木の元に宅配が届きました。差出人を見て、彼女は目を見開きます。
 
その夜、送別パーティは何事もなく、鷺坂室長の挨拶で始まりました。
いつもの居酒屋ですが、料理の内容はいつもにもまして豪華なお刺身の盛り合わせが振る舞われます。
 
「あ、はい!」
「はい、片山」
「俺は今日、全員が驚愕するとんでもない事実をつまびらかにさせようと思います。先月のある夜更けの話です」
 
ある日の夜に、片山は行き先も期間も同じように休みをとっている柚木と槙に気づいたのです。
 
「導き出される真実はただ一つ。柚木三佐と槙三佐はできている。それが俺様の推理だ!」
 
話をかっこよく決めた片山でしたが、皆はそんな彼をただ見つめたあと、ワイワイと飲み会に戻りました。なぜなら、槙と柚木の関係は皆が知る話だったからです。
 
「え、全員知ってた? 空井も?」
 
その事実に落ち込んでしまう片山。
 
「教えてあげればよかったのにーー」
「宣言するのも変でしょ」
「さすがに気づいてると思ってーー」
「さ、片山のことはほっといて」
 
そういって柚木はテーブルにノートパソコンを取り出しました。
 
「鷺坂室長にって」
 
彼女が取り出したのは一枚のCD-ROMです。
 
「俺に?」
「なにか作ったんですか?」
「私じゃない」
 
パソコンに映し出されたのは、空幕広報室のいつもの仕事風景でした。空井と比嘉と片山がPVの撮影に奔走した日々も映っていました。懐かしい風景に皆がほほえむ中、空井と室長の目にはうっすら涙がありました。
 
柚木は朝に届いた宅配の差出人を室長に見せます。そこには『稲葉の白兎』と記されていました。
 
「稲葉の白兎ーー」
「いなぴょんって室長がつけたあだ名だもんな」
「最初怒ってたなあ」
「『稲葉! でお願いします』」
「そうそう、ぷりぷり怒ってた」
「因幡の白兎なんて、この期に及んで立場を気にして仮名使って、ほんと馬鹿なんだからーー」
 
柚木は涙を流しました。
槙はおもむろにハンカチを渡します。
 
「お前が泣いてどうすんのよ」
「いや、稲葉どんな気持ちでこれ見ながら編集してたのかなって思ったらーー」
 
同じ時、帝都テレビの情報局に一人でいる稲葉のもとには宅配が届いていました。差出人はSKY。それは空井の元TACネームです。中には空井のテレビ企画の企画書と当日の新幹線のチケットが入っています。
 
手紙には「見に来てください。約束です」と記されているのでした。
 
 
あなたの隣でよかった
撮影の日。松島基地に到着した稲葉を迎えたのは鷺坂室長でした。元気いっぱいに稲葉を呼ぶ室長は自転車でさっそうと現れたのです。
 
「いなぴょーん! お久しぶり」
 
二人は基地の中まで歩きながら語ります。
 
「もう最後だからって、空井が」
「退官後はどうされるんですか?」
「しばらくのんびり、ワイフが行きたがってたとこに行こうかなって。『何一人で楽しんでるの』って怒られちゃいそうだけどーー稲葉の白兎」
「すみません。いきなり送りつけるようなまねして」
「ミステリアスな演出だったなあ」
「単なる気まずさです。あのときはちゃんとご挨拶せずに担当を外れてしまったんで」
「嬉しかった。贈り物をありがとう。愛しいものがたくさん映ってた。いなぴょん、あれからどうしてた?」
「変わらず『街角グルメ』とか『明日キラリ』とか。あと、最近新しいコーナーを立ち上げました」
「へえ、頑張ってたんだね。空井も頑張ってたよお。いなぴょんが走ってるのを感じて、空井も一緒に走ってたんだと思う」
 
稲葉は空井のもとへたどり着きました。
見つめ合う二人。稲葉はゆっくり空井のそばに立ちます。
 
「飛びます!」
 
ブルーインパルスは桐谷とともに飛び立ちました。
青と白のキレイな機体で飛ぶブルーインパルスは優雅に舞い、美しい曲線を描きました。
 
「きれい」
「美しいから飛べるんです、飛行機は」
 
青空に伸びる飛行機雲はとても白く、どこまでも自由に伸びます。
空井と稲葉はならんで、ブルーインパルスの美しい姿を見続けました。
 
「空井さんの夢がたくさんの人に伝わりますね」
「はい。もうあの空にはいられないけど、広報は飛ばすことができる。この景色を世間の風に」
 
空井は彼女を見つめます。
 
「ありがとう。来てくれて。稲葉さんと一緒に見られて、ほんとに。本当によかった」
「私も空井さんの隣で見られてよかった」
 
 
後日、3月5日。
鷺坂室長は、空幕長室で定年退職を命じられていました。
 
「一等空佐、鷺坂正司。3月5日をもって、定年退職を命ず」
「一等空佐、鷺坂正司。3月5日をもって、定年退職を拝命いたします」
 
一刻一刻と過ぎていく一日に誰もが時間を気にしていました。
 
その日の終わり、鷺坂は室長室を見回して退室しました。
空井は鷺坂室長に一人で花束を贈呈します。
 
「お疲れ様でした」
「ありがとう」
 
誰もいない空幕広報室を見つめ、鷺坂は指を鳴らしました。
空井とともに防衛省を出ると、そこには空幕広報の隊員の皆が整列して鷺坂を待っていました。
 
「航空自衛隊、航空幕僚監部広報室、鷺坂室長に敬礼!」
 
皆に敬礼し、挨拶を終えると鷺坂は車に乗車して去っていきます。
鷺坂は涙を堪えています。隊員の中には涙を流す者もいるのでした。
 
その頃、帝都テレビの情報局では稲葉が防衛省の方角に向かって「ありがとうございました」とお辞儀をしていました。
 
 
その後、『あなたの夢、かなえちゃったりしちゃおうかな、どうしようかなスペシャル』の放送は大成功を収め、最高視聴率は22%を出しました。空幕広報室では嬉しい問い合わせの電話が舞い込むほど。
 
その頃、稲葉は情報局で阿久津チーフに呼び出されていました。
 
「稲葉、以前撮った例の空幕広報室の密着取材。あの素材のことなんだけどさ」
「横流しなんてことは決してーー」
「あ?!」
「え!?」
「あれ、放送用に30分程度にまとめろ」
「え!?」
「キリーのブルーインパルス特番が当たったもんでな。上が、空自の特集何かないかって。まあ、来週の頭を目処にざっくりまとめて俺んとこに持ってきてくださーい!」
 
これを聞いて喜んだ稲葉は満面の笑み、空幕広報室に挨拶に向かおうと阿久津チーフの話はそこそこに駆け出していました。すぐさま空井に電話をかける稲葉。
 
「空井さん! 放送できます! お蔵入りになってた広報室の密着取材、放送できることになったんです。帝都イブニングで! 今から挨拶に伺います!」
「だめです。来ないでください。止めてください」
「あのーー」
「いま松島なんで。松島基地に来てるんで。なので、来るなら明日で。明日には帰るんで」
「もう、空井さん。空井さんはどうしてそう話の順番を」
「今日来られちゃったら、僕が稲葉さんに会えないじゃないですか。だから、明日来てください」
「明日行けばいいんですね」
「はい、待ってます」
「じゃあ、明日」
「明日」
 
そう言って、二人の会話は終了したのでした。
その日は2011年の3月11日。
2時46分、それは突然始まりました。
第10話の感想はここをクリック
離れていた時間があっても二人は互いを思い、自身の仕事を全うしていました。
 
なくなってしまうものがあっても、続いていくこともたくさんあります。空井は稲葉と約束した自身のテレビ企画をとうとう成功させ、稲葉と再会することができました。
 
そんな二人を見守ってきた鷺坂室長の退職には感慨深いものがあり、寂しい思いでいっぱいです。次は最終話。
 
衝撃が走った2011年3月11日が舞台となっており、二人がどのような終わりを迎えるのか想像がつきません。
 
最後、皆が幸せになっていることを祈っています。
<見逃し動画>第9話 「つのる想い・あふれる涙」
 
TVerでの無料配信は終了しました
 
第9話の公式あらすじ

ドキュメンタリー風の新 PV の評判がよく、鷺坂 (柴田恭兵) はじめ広報室メンバーは上機嫌だった。そして、リカ (新垣結衣) が自信作だと言った 「あしたキラリ」 の放送も決まっていた。「父への想いを胸に~輸送機に乗せた夢/26歳・航空自衛隊整備員」 と題したミニ番組は、空自の PV 同様みんな期待して放送されるのを待ち構えていた。ところが、就職説明会や自衛隊ホームページで流した空自の PV が、新聞や帝都テレビの報道番組でねつ造した作り物のように批判され、リカをはじめ関わった人たちは愕然とする。
 
空自広報室から帝都テレビへ抗議の申し入れがあり、局側は上層部で話し合うものの、番組内での謝罪や訂正も行わない決定が出た。それを知ったリカは抗議をするが、そのことが思わぬ方向に向かい…。
 
一方、誰がなんと言おうとリカが必ずフォローしてくれるはずと信じている 空井 (綾野剛) は、直接リカと話がしたくて連絡をしていたが、リカは今の状態では空井に会えないと思い、会うことを拒んでいた。そんなとき、追い討ちをかけるように、リカが空幕広報室の男に入れあげているから自衛隊を庇うんだと言う噂が流れていることを知らされ…。
 
<出典>空飛ぶ広報室公式

第9話のネタバレはここをクリック
前回、航空自衛隊のプロモーションビデオを無事に完成させた空井、片山、比嘉の三人。無事に入隊説明会で上映されたプロモーションビデオは大反響を呼びました。プロモーションビデオの製作をきっかけに稲葉と空井の関係性も大きく発展したのでした。
 
 
嘘か真かに意味はない
空幕広報室ではできあがったプロモーションビデオを視聴していました。皆が完成度の高さに感激。航空自衛隊のホームページ上のビデオの再生数は2万回を超え、入隊説明会でも大好評を収めました。
 
稲葉が担当した『明日キラリ』というミニ番組も航空自衛隊のプロモーションビデオと同じ自衛隊員を取り上げたものになっています。帝都テレビで来週日曜に放送されるということで、皆はその放送も良い反響を呼ぶと期待しているのでした。
 
片山は稲葉の企画書を手に読み上げました。
 
「父への思いを胸に輸送機に乗せた夢。26歳、航空自衛隊、整備員! PVといい、ミニ番組といい、秋恵は大活躍だなあ、おい」
「なんていうんですか、可愛いですよねえ」
「そう、可愛いんだよね」
 
比嘉も大絶賛します。
そんな彼らを見て柚木は笑いつつも呆れた声。
 
「本当うざい」
「柚木三佐も可愛いですよ」
 
隙かさず褒める槙に彼女は驚いて目を見開きます。
この会話に気づいた比嘉は思わず立ち上がったのでした。
 
「そんなあ!」
 
他に気づかれる前に場を収めようと柚木は比嘉を見つめて首を横に振ります。そのまま、「仕事しよう! 仕事!」と夕刊をとりに行きました。
 
「なんか、そこかしこで色めきだってる?」
 
周りの慌ただしさに鷺坂室長はニコニコしながら言います。
「色めき?」と槙。
 
「トキメキ? 空井?」
「え? ままま、まさか北海道の?」
 
鷺坂室長に見つめられて慌てた空井は墓穴を掘ってしまいました。
 
「北海道!?」
「いなぴょんと何があった?」
「いえ!」
「北の大地で何があった?! 吐け!」
 
そんな中、夕刊を見ていた柚木が大きな声をあげます。
 
「なにこれーー室長! 今日の夕刊です」
 
そこには『戦争賛美に他ならぬ、姑息なイメージ戦略に疑問符』という衝撃的なタイトルの文字が並んでいました。空幕広報室の皆は鷺坂室長の周りに集まり、記事を見つめました。鷺坂室長は読み上げます。
 
「就職説明会に持ち込まれた航空自衛隊のPRビデオを見て、愕然とした。若い女性を主人公にその入隊の経緯がまるで父と娘の感動的な話であるかのように紹介されていた。しかし、やっていることは戦争賛美である。今にも世間に軍靴の音が聞こえてきそうだ。経済の疲弊は就職難にあえぐ若者を搾取する構造を作り上げる」
 
「どうして、どうしてこんなーー」
「あのビデオから戦争賛美って、かなり無茶だよな」
「よっぽど自衛隊が嫌いなんでしょ」
「つつこうと思えばどこからでもつつけるからな」
「芳川士長になんてーー」
 
芳川を心配する空井は肩を落としました。
 
「こんな楽しくもない記事伝えてもしょうがないだろ」
「目に触れないことを祈るだけですね」
 
同じ時、稲葉もこの記事をカメラマンの坂手に伝えられたのでした。
 
 
その日の午後、比嘉は広報室のテレビをつけていました。映ったのは帝都テレビのニュース『NEWSピープル』での「就職氷河期が示す、日本の未来は」のコーナーです。 
 
(本日は経済評論家の津川隆志さんとホームレスの就職支援を行っている法人主催の小日向耕三さんにおいで頂いております)
 
コメンテーターの紹介が耳に入った空井は、慌てて今日の夕刊をとりました。朝の記事の筆者は、小日向耕三でした。
 
(小日向耕三さんはホームレスの就職支援団体『はたらく市民の会』を設立し、日本経済の疲弊は就職難にあえぐ若者を搾取する構造を作り上げているという考えを発表してーー)
 
空井はテレビのボリュームをあげました。
小日向耕三は司会の質問に持論を答えます。
 
(あの『はたらく市民の会』での求人は昨年度と比べていかがですか?)
(まあ、若干増えてはいますが、まともな求人なら良いですが、先日は自衛隊が来まして。そのPRビデオが父と娘の美談。さも、いい話かのように作ってるわけですよ。ドキュメンタリー風に。まあ、ああゆう手法ってのは便利なもんで、創作でも本当のことかのように見える)
 
「創作じゃねえよ」
 
片山は怒りの表情です。
テレビではもう一人のコメンテーターである津川隆志が反論しました。
 
(いや、自衛隊が求人を出すのは違法じゃありませんから)
(私はね、資格が取れる、安定してるという美辞麗句や感動をあおる姑息なイメージ戦略で職がない人を徴用するようなマネが問題だと言ってるんですよ。これは就職難にあえぐ若者や派遣切りにあった失業者をたぶらかしてる。経済的弱者の搾取はなんとしても阻止しなければならないんです)
 
コーナーはここでCMが入るのでした。
 
「個人の主義主張としては何を言っても自由だけど、ちょっと一方的すぎたな」
「司会のフォローがほしかったな」
「印象悪いまま終わっちゃいましたね」
 
皆が落胆する中、空井は笑って皆を励まします。
 
「まだ番組は終わってません。帝都テレビですよ。稲葉さんのいる帝都テレビですよ。大丈夫ですよ。必ずフォローしてくれます」
「フォローがあったとしても、帝都テレビに抗議の申し入れ。要点は二箇所。1つ目はうちのPVが捏造であるかのような印象を視聴者に与えたこと。もう一つは、我々の隊員募集活動が経済的弱者の搾取であるという極めて一方的な意見で語られたこと。でき次第持ってきて」
 
広報室に電話が入ります。それは航空自衛隊のPVに関する問い合わせの電話でした。それは減るどころか、どんどん増えていきます。
空井はテレビ番組が終わるまで見ていましたが、『NEWSピープル』でのフォローは一度もありませんでした。
 
その頃、稲葉は担当企画『街角グルメ』の撮影を終えたところでした。稲葉はふと携帯を確認します。空井からの留守電が入っていました。
 
(空井です。ついさっき、帝都テレビさんの『NEWSピープル』に抗議の申し入れをしました。すいません。一応、お伝えしておきます)
 
 
情報局に戻った稲葉は、まっすぐに阿久津チーフのデスクに向かいましたが彼の姿はありません。
 
「阿久津さんは?」
「上の人みんな、編成局に呼ばれてます」
 
稲葉は例の番組の録画を確認しています。そこへ阿久津チーフが戻ってきました。
 
「ちょっとみんないいか! 今日の『NEWSピープル』でゲストの発言に対して防衛省の空幕広報室から抗議の申し入れがあった。先方の要求は『番組内での謝罪と、同様の謝罪文を公式サイトに提示すること。並びに今後の再発防止』。これを受けて、編成と報道で会議を行った。結果、帝都テレビとしては謝罪も訂正も行わない」
 
帝都テレビの決定は、すぐさま空幕広報室にも伝わっていました。
 
「それだけですか? 謝罪や訂正もなし?」
 
空井は怒りを抑えきれない様子です。
しかし、鷺坂室長は冷静でした。
 
「ま、予想通りだね」
「抗議した意味がないじゃないですか」
「抗議を表明することに意味がある」
 
空幕広報室にはたくさんの問い合わせの電話が鳴り響き続けました。
 
その頃、稲葉は情報局で一人「『ニュースピープル』の出演者による事実誤認発言について』の意見文を作成するのでした。
 
 
あなたの守るべきもの
翌日、空井と片山は検査隊の芳川士長のところへ謝罪にむかいました。検査隊ではいつもと変わらず整備の仕事をする芳川の姿がありました。
 
「この度は誠に申し訳ありませんでした」
「いえいえ、そんなそんな。だってお二人のせいじゃないんですし」
 
頭を下げる二人に慌てる芳川。
 
「PVに所属部隊名を入れたり、もっと事実であることを強調する作り方もあったのかもしれません。不本意ながら、こうゆう形で騒ぎになった以上、掲載を取りやめるという判断も可能です」
「でも、今年のPVはどうするんですか」
「昨年のもので代用します」
「ああ、そういう話もあって始めから。だから、芳川さんは気にすることなくて、本当に」
 
空井は彼女を気遣います。
 
「いえ、いいです。そのまま使ってください、あのPV。ここで引き上げちゃったら、まるで本当にやらせみたい。大丈夫です、私は。使ってください」
 
芳川士長は笑顔で気丈にふるまっていました。
 
謝罪後、空井は芳川の仕事が終了してから飲みに誘いました。片山は「二人で美味しいものを食べるように」と空井にお金を渡していたのです。
 
「いい先輩ですね」
「まあ、ときどき面倒くさいんだけどね」
 
過去の話で盛り上がる二人。
 
「懐かしいなあ」
「ねえ」
「私、あれからずっと周りの人に恵まれてきて。仕事で大変なことはあったけど、好きでやってることだし。私は自分の仕事に誇りを持っています。職場の人を尊敬してます。でも、世の中には私たちのことを認めてくれない人もいるんですよね。これが他の仕事だったら、こんなふうに言われなかった。あれは、あのPVは私のお父さんの話です。お父さんの、話ですーー」
 
芳川の目からは涙が伝い落ちました。
 
 
その日の仕事を終えた稲葉は、作成した意見文を持って情報局長に面会していました。
 
「お忙しいところ、お時間を頂きありがとうございます」
「いやいやいや、久しぶりですねえ。情報局でご活躍と聞いてますよ」
「報道にいたときは、ご迷惑をおかけしました」
「いやいや、ささ、どうぞどうぞ」
 
情報局長は稲葉をソファに促しましたが、彼女は立ったまま話し始めます。
 
「今日はこれを」
 
稲葉は局長に『明日キラリ』のビデオを手渡しました。
 
「私がディレクションした番組です。今回、話に上がった空自のPVと同じ女性を取り上げています。見ていただければ、創作ではないとはっきりわかります。今回の件は、帝都テレビのマスコミとしての責任が問われる問題ではないでしょうか。
 
彼女は亡くなった父親のことを大切に思っているごく普通の女性です。それが放送のせいで捏造だと非難される事態に陥っています。ゲストの発言は徴用だとか搾取だとか偏見に満ちていました。そういう極端な意見を出す場合、その反対の意見も取り上げなければフェアではありません。
 
帝都テレビはあの発言に直接関わりはないかもしれませんが、結果、一方的な意見を放送に乗せたという背金はあると思います。ニュースピープルの中で謝罪なり、フォローするなりそういった対応があって叱るべきだと思います」
 
稲葉の話の間、局長はずっと眉間にシワを寄せていました。しかし、稲葉の話が終わると笑顔で答えます。
 
「あなたの意見はわかりました。よく読ませていただきますよ」
 
局長室から退室すると稲葉は深く息をつきました。そのとき、空井から着信が入りましたが、彼女は電話をとることはしませんでした。
 
 
広報室の皆は、いつもの居酒屋で今回の件と空井について話をしています。
 
「真面目だからな、空井は。今頃罪悪感でいっぱいだろうな。目立つということは得てして反発を引き起こす」
「かといって平凡なものを作っても効果は薄い」
「広報、永遠の課題です」
 
広報班の片山と比嘉に柚木は応えます。
 
「いいよ! 広報班は好きにやんなよ。うちら報道班がカバーすりゃいいでしょ」
「そうそう、空井にもそういってやろ」
 
槙もうなずき、広報班を励ましました。
 
「だな! 俺たちの道に困難はつきもの」
「しばらくすれば、ほとぼりも冷めます」
「当分、電話対応、・メール対応全力で行くぞ!」
 
 
翌日、空井は広報室で一番に営業へと向おうとしていました。
 
「なんだなんだ、朝もはよから」
「攻めの営業だってさ」
「この渦中に?!」
「でも、今行ってもねえ」
「それも世間の風。頑張れ空井!」
 
 
『街角グルメ』の撮影を終えて戻った稲葉は、凄まじい形相の阿久津チーフに別室へと呼び出されました。
 
「なんだこれは」
 
阿久津チーフが出したのは、稲葉が報道局長に渡した意見書でした。
 
「報道局長はなんて?」
「会議の決定が一社員のこんなもんで覆るはずないだろう」
「なら、編成局長に出します」
「稲葉、お前を空自の担当から外す。密着取材も中止だ」
「何かの圧力ですか?」
「違う! 俺の判断だ! 局長はこれをきちんと読んで、報道局内で訴状に載せてくれた。お前のこの一方的な意見書をな」
「一方的って!」
「お前の視点は空自に立ちすぎだ! 一方的な批判を展開したゲストの意見も、一方的にかばうお前の意見も、極端なことに変わりはない!「
「違います! 私は!」
「この話はこれで終わりだ。空幕広報室には一度きちんと挨拶してこい。それから、お前の作った『明日キラリ』お蔵入りになるかもしれん」
「納得できません!」
「できなくてもやれ!」
 
阿久津チーフはそう怒鳴ると会議室を後にしました。
その後、休憩スペースで落ち込んでいた稲葉の後ろを報道局の社員と元同期だった香塚が話しながら通りました。話題は稲葉のことでした。
 
「ほんと、ガツガツだよな」
「というか、真っ直ぐなんですよ」
「俺らすっ飛ばして、いきなり報道局長に直談判なんて、非常識もいいところだよ」
「それはそうなんですけどーー」
「終わった話ほじくり返して、しかも自衛隊の連中なんかの肩もってーーあの女、マスコミの自覚あんのかねえ」
「いや、それは言いすぎなんじゃーー」
 
そこまで話を聞いていた稲葉は、我慢できずに駆けよりました。
 
「自衛隊の連中なんかってどういう意味ですか!」
 
「ん?」
「マスコミの自覚とおっしゃいましたよね。それならどうして組織のくくりでしか見ないんですか? あそこで働いてるのは普通の人たちです。誇りを持って働いてる人たちです。つらい過去があっても笑ってそれが仕事だって言う人もいます。皆ただそこで働いてるだけの人たちなんです」
「だから? だから何。いい人たちだから認めろっていうの? いい人たちだから謝罪しろっていうの? 俺は別に自衛隊に対してなんともおもっちゃいないよ。お前なんなの。自分の意見どおりに世の中が動かないと我慢ならないわけ? 肯定する人もいる否定する人もいる。それじゃいけないわけ? お前は一体どの立場で物言ってるの?」
「私は私が取材した女子隊員の話がヤラセだって思われることがーー」
「本当にそれだけか?!」
「どういう意味ですか?」
 
「おい! 稲葉!」
 
藤枝は当然現れて、稲葉を止めて引っ張っていきました。
 
「ちょっとまだ話がーー」
 
中庭のテラスまで引っ張られてきた稲葉は、藤枝の手を振りほどきました。
 
「ちょっとなんなの!」
「噂になってるんだよ。お前が空幕広報室の男に入れあげてるって。だから、自衛隊をかばうんだって」
「それとこれとはーー」
「関係ない。でも、空井くん好きなのは事実だろう。お前、今度異動になったら、もう二度と番組制作に戻れないぞ」
「それでもいいーー」
「おい!」
「あのPVは嘘なんかじゃないし。あの発言は行き過ぎてた。本当のことを伝えられないなら、この仕事をしてる意味ない」
 
稲葉たちの後を追って、後ろから話をうかがっていた香塚は稲葉の発言に我慢できなくなりました。
 
「いい加減にしなさいよ! 実際に今朝、外されるとこだったんだから」
「まじで?!」
「この状況でリカの上の情報局長が黙ってるわけないでしょ。阿久津さんが抑えた。阿久津さんにまでドロを被せるつもり? リカに非がないって言えるの? 噂がたった落ち度はリカにもある。実際にそういう関係になっちゃってるなら、リカがなにいったって聞いてなんてもらえない」
 
そこへ佐藤が駆けつけました。
 
「ちょっとまずい状況なんですけど、空井さん来てますーー」
 
 
それぞれの立場が守るべきもの
テレビ局の受付には何も知らずに立っている空井がいました。稲葉は外に向かって歩きながら、「出ましょう」と彼に声をかけました。
 
「え!?」
 
外のベンチに行くと空井は笑顔で稲葉に話しかけます。
 
「稲葉さん?」
「今日はどうしてーー」
「あの、今日は朝から営業周りしてたんです。あけぼのテレビさん、雑誌社、音楽事務所、あとほかにも。それで近くまで来たので。あと、何度か留守電入れたんですけど、連絡なかったので、どうしたのかなって。やっぱり、ニュースピープルの件、気にしてますか? うちも稲葉さんの帝都テレビに抗議なんてしたくなかったんですけど」
「仕方ないです。そちらの立場なら当然です」
「稲葉さんはあれ、どう思いました? その話、ずっとしたかったんですよね、稲葉さんと。あれは、あの発言ってちょっと酷かったですよね」
「いちゲストのいち発言です」
 
稲葉のその発言に空井は目を見開きました。
 
「どんな意見であろうとゲストの発言を封じれば言論統制になります」
「それは帝都テレビの見解ですよね。稲葉さんは? 稲葉さんどう思ったんですか? うちをずっと取材してくれてる稲葉さんならーー」
「私は担当を外れました。密着取材も白紙です。申し訳ありません。だから、もう関係ないんです」
 
空井は稲葉を見つめたまま。
 
「本来ならご挨拶に伺うところだったんですがーー今までありがとうございました」
 
稲葉は空井に向かって頭を下げました。
 
「鷺坂さんや皆さんにもよろしくお伝えください。新しい担当については、うちの阿久津がおって連絡します。失礼します」
「待って!」
 
去ろうとする稲葉を空井は両手で肩を抱くように止めました。空井は彼女を必死に見つめました。真っ直ぐに見つめられない稲葉。
 
「何でも先に行かないでください。説明してください。聞きますから」
「間違えたんです」
「間違い?」
「間違えました。間違いでした」
 
そっと彼女の肩から両手を話した空井。
それとともに稲葉は空井の目を一瞬見つめ、「間違いだったんです」というと空井の横をすり抜けて去っていったのでした。
 
 
空幕候補室の前まで戻ってきた空井は、中に入る前に笑顔を作りました。
 
「只今、戻りました!」
「おかえりー」
「おかえりなさい。どうでした? 営業」
 
比嘉は空井に営業の成果を問いました。
 
「なかなか難しいですね。また行ってみます」
「こっちはだいぶ落ち着いてきたぞ」
「ネットではまだまだ書かれていますけどねえ」
 
片山と比嘉は問い合わせ対応が落ち着いてきたことを彼に伝えます。空井はそのまま鷺坂室長の前まで行くと、稲葉のことを伝えるのでした。
 
「室長」
「おつかれ」
「帰りに帝都テレビによって稲葉さんと話してきました。稲葉さん空自の担当じゃなくなるそうです」
 
「は!?」
「どういうこと?」
 
片山と柚木が声を上げました。
 
「密着取材も中止だそうです。鷺坂室長と皆さんによろしくお伝えくださいと言われました。以上です」
 
伝え終えた空井は、「メールの対応まだ残っていますよね。手伝います」と気丈にふるまうのでした。
 
 
仕事を終えた空幕広報室の皆は、居酒屋で今日の顛末を語ります。稲葉に電話する柚木でしたが、稲葉は電話に出ません。
 
「だめだ。稲葉出ない」
「こうなったら帝都に乗り込むか!? いざ、帝都!」
「行きません。行きません」
「室長は?」
「わからん、どこかいった」
「室長って55歳だよな」
「次の誕生日で56歳」
「一番にいなくなるのは室長なんだよなーー」
 
 
その頃、鷺坂室長は帝都テレビで阿久津チーフと面会していました。
 
「お待たせしました」
「あ、どうぞ、おかまいなく」
「ゴンドーフ。どこの豆腐かと思いました。ポール・ニューマンですね」
「はい。『スティング』伝説の詐欺師。あの映画、大好きでして」
「ふざけた方だと聞いておりましたが、ここまでふざけているとは」
「いや、帝都テレビさんで今自衛隊を名乗ってアポをとるのは野暮かと思いまして。改めまして、空幕広報室室長、鷺坂と申します」
「帝都イブニング、チーフの阿久津です」
 
二人は名刺交換を済ませると席に座りました。
 
「わざわざご足労を頂いて、申し訳ありませんが。ニュースピープルの件に関しましては情報局としては何も申し上げることはありません」
「わかっておりますーー稲葉さん、大丈夫ですか?」
「はい?」
「あの人のことだ。何かマズい立場になってるんじゃありませんか」
「そのことでいらしたんですか」
「いなぴょんには大変お世話になりましたから」
「いなぴょん?!」
「いなぴょん」
「いなぴょん」
「でも、そんなふうに私どもが近づきすぎたせいで、稲葉さんが困った立場になったのだとしたらーー」
「いやあーーそれは稲葉自身の問題です。むしろ、上司として、お礼申し上げます。稲葉は良いものを作るようになりました」
 
その言葉を聞いた鷺坂は少し感極まったように目を赤くして言います。
 
「だとしたらーーそれは空井の力です」
 
 
鷺坂との面会を終えた阿久津は、情報局に戻ってくると帰り際に稲葉に声をかけました。
 
「稲葉。例のお前が作った『明日キラリ』。予定通り放送されることになった。どれだけの人が見てくれるかはわからんが、少しは火消しに役立つだろう。俺たちにできることは番組を作って流すことだけだ。お前も今日はもう帰れ」
 
 
防衛省の前では、カメラマンの坂手が空井に会っていました。
 
「坂手さん! どうしたんですか。こんなとこまで」
「ん、自慢の飛行機またいつか撮らしてくれ」
「あ、はい」
 
坂手は多くを語らず、空井に一つのビデオを渡すと去っていきました。
 
空幕広報室で一人、坂手が渡したビデオを見ている空井。そこには報道局の社員に自分の考えを必死に訴えている稲葉が映っていました。
 
稲葉のもとに向かおうと思いつつ、無力感に崩れ落ちる空井。
その頃、稲葉は空井を思い浮かべ、情報局で一人泣き崩れているのでした。
第9話の感想はここをクリック
今回の話は、個人の気持ちだけではなく、組織にいることによって組織の一員としての立場で物事を考えなければならないという責任について教えられる話でした。
 
組織が大きければ大きいほど、大切にしなければならないことは複雑化して難しいです。しかし、個人として守るべきものと組織として守るべきものがある点は、自衛隊でも、他の民間の仕事でも同じであるとわかりました。それでも挫けることなく、空井と稲葉たちが新しい日々に向かって歩んでいってくれることを願うばかりです。
 
次回は皆にもっと平和が訪れていることを期待しています。
<見逃し動画>第8話 「運命が変わる2秒間」
 
TVerでの無料配信は終了しました
 
第8話の公式あらすじ

空井 (綾野剛) たち空幕広報室の面々は、出来上がった PV がボツになり新しく作り直すことに。予算がなく前年度のものを使いまわすという話が出ていた矢先、リカ (新垣結衣) の密着取材がヒントになり、ドキュメンタリー風 PV を自分たちの手で撮影して作ることになった。テーマは 「入隊の理由」。入隊してから働くまでをイメージできるような PV だ。同じ頃、リカは 阿久津 (生瀬勝久) から新番組が立ち上がることを知らされ、ネタが足りないので余っている企画がないか聞かれていた。
 
PV の主役になる隊員を募集した中で、亡くなった父親が C1 輸送機のパイロットだったので、その同じ輸送機の整備員になろうと空自に入隊した 芳川秋恵 (南明奈) という女性整備員が選ばれた。さらに秋恵は浜松基地で基礎課程を空井と一緒に受けていたようだ。PV 制作と一緒に新番組の企画として秋恵を取材することになったリカ。取材をしている中で秋恵から基礎課程時代の空井との思い出話を聞き…。
 
ある夜、リカが 柚木 (水野美紀) といつものバーにいると、同期の ともみ (三倉茉奈) と偶然会った。ともみの話だと、藤枝 (桐山漣) が報道番組のキャスターに志願し登板したのはいいが、トラブルの処理ができず失敗に終わったらしい。そして、藤枝が報道を志願したのはリカが変な影響を与えたからだと非難される。藤枝が心配になったリカは直接話を聞いてみるが、話をはぐらかすばかりで真意を聞いだすことが出来なかった。
 
<出典>空飛ぶ広報室公式

第8話のネタバレはここをクリック
前回、空幕広報室の空井と片山と比嘉の三人は、空自のプロモーションビデオ作成のために航空救難団のメディックと撮影に挑みました。しかし、撮影場所がバーだったことを理由にお蔵入りとなってしまう大失敗をしてしまったのです。
 
自衛隊の過酷な状況や体験を通して、隊員の思いを伝えたいと思う稲葉リカ。彼女は鷺坂室長に妻を亡くした際の気持ちを聞くために意を決してインタビューを行いました。
 
このインタビューをへて、稲葉は記者として自衛隊の皆に何を返すことができるのかと考えるようになったのでした。
 
 
始まりはなんであれ
空幕広報室の空井と比嘉と片山は、プロモーションビデオの予算を何度も計算し直しては肩を落としていました。最初のプロモーションビデオの撮影が失敗してしまったので、彼らにはもう予算があまり残っていないのです。密着取材をする稲葉は、彼らを後ろから見守っていました。すると、鷺坂室長は彼女に声をかけます。
 
「この前の晩のことなんだけど、空井と朝帰りだったんだって?」
「はあ!? 違います! 捏造です。デマです。誰がそんなこと!」
 
大慌てで詰め寄る稲葉ですが、鷺坂は笑顔で自分を指差しました。
 
「カマかけてみたの! あの後、いなぴょんとどうなったのか空井に聞いてみたらさ」
 
空井は広報室の誰にも稲葉との出来事を話さずに「内緒です」と言っただけだったので、鷺坂室長は稲葉にカマをかけたのでした。
 
「待ってください。あの日は、ただーー」
 
稲葉と空井は終電ギリギリまで二人で飲んだだけで、他には何もありませでした。空井は終電を逃さないように稲葉をしっかり駅まで送るといった紳士ぶり。
 
「何やってんの、二人して。そこで『お疲れ様』はマズい。それはマズいって」
 
そこへ陸海のプロモーションビデオの情報が入ってきました。どうやら他の部署のプロモーションビデオの出来がとても良いらしく、三人はますます落胆しました。
 
稲葉は隙かさず、彼らの落胆状況を収めようとカメラを向けます。
 
「ものすごーく撮ってますね」
「あ、すいません」
「ドキュメンタリーとしては美味しい場面だもんね」
 
ふと空井は稲葉のホームカメラを見て、疑問を投げかけました。
 
「あ、そうやって稲葉さんが撮ってるときと、カメラマンの坂手さんが来てるときがありますよね」
「基地での撮影や動きがある撮影の場合はプロに任せたほうが確実なんで。ちょっとした雑貨はこれで」
「雑貨ーー」
「いや、取材が長期にわたるドキュメンタリーはこういう形が多いんです。低予算で作れますから」
 
稲葉の話に三人は食いつきました。
 
「「「それだ!」」」
「ドキュメンタリー風のPV」
「撮影は自分たちで」
「いいですね。隊員のインタビューで構成して」
 
突然にノリノリになる三人に鷺坂はテーマをたずねます。
 
「ちょいちょいちょい、テーマは? PVのテーマ大事よ」
 
三人は首を傾げますが、思いついたのは稲葉でした。
 
「入隊の理由どうですか。入隊説明会でも使うなら、入隊してから働くまでをイメージできるような」
「おお!」
「それでいこう!」
「異議なし!」
 
興奮したように空井は「稲葉さん、ありがとうございます!」と感謝しつつ、彼女の手を握りました。周りはそんな二人を意味ありげに見つめるのでした。
 
 
後日、帝都テレビの情報局では新人教育に悩む稲葉がいました。教育するように言われた佐藤のやる気がまったくないからです。阿久津チーフに他局の新番組『明日キラリ』の企画にネタを提供するように言われた稲葉。それを佐藤に任せようとしますが、断られてしましました。
 
「若い子は淡白だよねえ」
 
とそんな佐藤を見て藤枝も言います。
 
「人のこと言えんの?」
「まあね」
 
佐藤について思案する稲葉はつぶやきました。
 
「ジュエル(佐藤)ってなんでうちに入ったんだろ」
「さあ、コネとか?」
「藤枝はなんでだっけ?」
「モテそうだから」
「あのねえ、空自を見習いなさいよ。みんな崇高な使命と目的をもってーー」
 
そういった稲葉でしたが、いざ空幕広報室の皆に入隊の理由を聞いてみると皆それぞれの都合による理由ばかりでした。片山は好きな人が防大の教授の娘だったから。柚木は貧乏を理由に防大を受け、比嘉は就職活動の滑り止めといったなし崩しな理由も多数です。
 
「そんなもんよ。理由なんて人それぞれ。仕事に対する意識が最初っから高いやつなんてそうはいないんだ。意識ってのは場。場が育てる」
「場が育てるーー」
 
「なかなか、いないですねえ」
 
そういった比嘉は、プロモーションビデオにメインで出演してくれる人を募集したアンケートを見ていました。
 
「素晴らしい入隊理由で、なおかつ、可愛い隊員を探してるんだけど、なかなかねえ」
「女性隊員って決まったわけじゃ」
 
片山の勝手な希望に比嘉は反論しました。
そんな二人は置いといて、空井は稲葉に聞きます。
 
「あ、稲葉さん、子どもの頃から報道記者になりたかったんですよね」
「はい。なれませんでしたけど」
「きっかけはなんだったんですか?」
「父が新聞の記者をしていて」
「あ、そうだったんですか」
 
しかし、稲葉の父は彼女が幼いときにバイクの自損事故で亡くなっていました。それを知った空幕広報室は静まり返ります。それでも稲葉は明るく話しました。そんな中で比嘉はある隊員のアンケートに目を留めます。
 
「あ! この人稲葉さんに似ていますね。亡くなった父がC-1輸送機のパイロットだったので、C-1輸送機の整備員になろうと思いました」
 
アンケートの女性が可愛い女性であることに食いつき、片山はPVのメインにこの女性を指名します。芳川秋恵というアンケートにある名前を聞いて、空井は航空自衛隊の基礎課程で仲良くしていた女性であることを思い出します。
 
基地で働く整備士の所に空井と片山、稲葉は撮影の依頼に行きました。整備する輸送機から下りてきた小さな女性は、三人の前に来るとすぐに空井に気づいて声をかけました。
 
「整備検査隊の芳川士長ですーー空井さん?!」
「久しぶり」
「嘘! ええええ、信じらんない。いま、空幕なんですか?」
「うん。夢、叶ったんだね」
「覚えててくれたんですか」
「約束したよね。お互い頑張ろって。今は別の夢があるから」
 
と空井は空幕広報室の腕章を見せました。その後、片山が挨拶をして、空井は稲葉を紹介したのでした。
 
「隊内の皆さんからの推薦ですが、PVの出演問題ないですか?」
「私でお役に立てれば」
「入隊理由を軸にするから、亡くなったお父さんの話聞かしてもらうことになるけど」
「はい、父も喜ぶと思います」
 
整備の事務室で打ち合わせをする中、稲葉は芳川にテレビ取材のお願いをします。芳川の仲間たちは「命令だ!」と出演に関して冷やかすのでした。
 
整備の仕事に対して語る芳川はとても楽しそうです。今後は検査士になるためにあと20年頑張ると彼女は稲葉に伝えます。
 
「今は何年目なんですか?」
「入間は7年です。それまでは浜松で。そこで空井さんと会ったんです。空井さんとは友だちとダブルデートしたりしました。空井さんってちょっと面白いんですよ。話す順番が変だったり」
「昔から?」
「今もですか?」
「はい」
「内緒ですけど、空井さんって私のことが好きなんじゃないかなって思ったことがあって。全然勘違いだったんですけど」
「勘違い?」
「仲良くなると人懐っこくて。あの頃はまったくお金がなくて、ファミレスで6時間話してても飽きなくて」
 
 
意識は場がつくる
提出した『明日キラリ』の企画書は後日に阿久津チーフのもとに戻ってきていました。驚く稲葉に阿久津チーフは言います。
 
「お前にディレクションを任せたいって。番組立ち上げで人手がないし、空自に詳しいお前に預けたほうが早いんじゃないかって。密着取材と並行してできないこともないだろう」
「せっかくの指名ならやらせていただきます」
 
その企画書を佐藤に任せようとしますが、彼女は命令でないことを理由に断るのです。稲葉は彼女の気持ちに訴えかけるような戦法をとりますが、「私、稲葉さんみたいな負けず嫌いじゃないんでムダですよ」と言われてしまうのでした。
 
あまりの状態に困った稲葉は阿久津チーフに問います。
 
「場ってどうやったら作れるんですか?」
「場?!」
 
 
基地でのプロモーションビデオ撮影は順調にスタートしたようでしたが、初めての自主撮影に空井と片山は戸惑いました。
 
場面は芳川士長が飛行機の整備をしているところです。
空井はインタビューする際の立ち位置を間違ってしまい画面に入ってしまっていました。
 
「あの位置だめだよ」
「かぶっちゃだめでしょう」
 
カメラマンの坂手とカメラアシスタントの大津は指摘します。片山は撮影をいったん止めると皆に確認させました。水銀灯の下で行う撮影のカメラの設定がなっていなかったのです。
 
カメラの設定は坂手さんが指導して、空井の立ち位置やインタビューについては稲葉が一から指導しました。
 
 
その夜のこと、稲葉と柚木はまたいつものバーで恋バナをしていました。
 
「ただそこに可愛らしく存在するってどうしたらできるんですかね」
「私に聞くか?」
「間違えました」
「稲葉だいぶ可愛くなったけどね」
「全然ですよ。ああいう子が好きだったんだなって思うと何万光年の隔たりに気が遠くなりまーす」
「おーい、地球に戻ってこーい!」
「いいな、柚木さんは。柚木さんがどんなにおっさんでも蹴り入れても女として見るって言ってもらえて。槙さんとデートしたんですか? 何黙ってんですか」
 
柚木は一口お酒を飲むと黙り、虚空を見つめます。
その手元には割り箸の袋で折ったダックスフンドがありました。それは槙がいつも作るものです。稲葉はダックスフンドに気づきました。
 
「あ、それ! 槙さんもしてた。したんだデート。どうだったんですか」
「言えない。言えない! とても言えない! 恥ずかしくて死ぬ!」
「めちゃくちゃ気になるんですけど!」
「何があったんですか!」
 
柚木はそのままトイレに消えていきました。そこへ、報道局の香塚が入店してきます。
 
「あれ、リカ。藤枝とじゃないんだ。とうとう別れたの?」
「だから付き合ってないって」
「リカが変な影響与えたせいで株下げたよねえ、藤枝。どうせ熱く説教でもしたんでしょ。そういうのどうかと思うよ。人は人なんだから」
「ちょっと待った、何の話?」
 
香塚の話によると、藤枝はニュースのキャスターに志願したのです。報道局の休暇中のサブキャスターの代わりに登壇した藤枝でしたが、臨時ニュースが入ってしまいニュースをすべて噛んでしまったのです。
 
 
翌日、落ちこんで肩を落としている藤枝の姿をテレビ局内のテラスで稲葉は見つけました。藤枝は飲み終わったコーヒーのカップを固く握りしめています。
 
「よう、稲葉」
 
稲葉がそばに立っていることに気づいた藤枝は笑顔で声をかけました。
 
「ニュースピープルーー」
 
苦しげに稲葉は例の件を話します。
 
「ああ、その話。やめやめ。すげえ怒られてさ。ネットでもチャラ男はバラエティだけやってろって叩かれまくるし。良いことなし」
「ごめん。知らなくて」
「なんで稲葉が謝るんだよ」
「私が異動になったとき、藤枝が話聞いてくれた」
「あんときと今とは違うだろ。お前最近忙しそうだし。ま、今まで通り、バラエティの藤枝で行きますよ。どのみち気まぐれで志願しただけだし」
 
立ち去ろうとする藤枝の背中に稲葉は語りかけます。
 
「報道のキャスターやりたいなんて藤枝が気まぐれで言うわけない。本気でやりたかったんじゃないの」
「俺向いてないし。真面目にやるとか一生懸命とか。何やったってだめなときはだめだし。最初から余計なことしないほうが良いんだって」
「それ本気で言ってる? なりたいものがあるならーー」
 
辛くなった藤枝は稲葉に向き直り、怒りをぶつけてしまいました。
 
「お前だってなれてねえじゃん! 報道記者になるのが夢で一生懸命頑張って、それでもなれてねえじゃん!」
 
稲葉の表情は固まりました。
それに気づいた藤枝は謝ります。
 
「ごめん」
 
首を振る稲葉を見て、彼は苦しげに去っていくのでした。
 
 
空自のプロモーションビデオ撮影は順調に進み、基地内での撮影がとうとう終了しました。あとは後日にするお墓参りの撮影だけです。
 
「じゃあ、『明日キラリ』のインタビューお願いします」
「はい」
 
撮影後、稲葉の撮影チームと空幕広報の空井、片山、比嘉は撮影の仕方の話になりました。
 
「撮影って集中力いるね」
「あまり集中しないほうが良いのよ。ドキュメンタリーの場合、いつどこで何が起こるかわかんないから、周りにもね、気を配ってないと」
 
片山に坂手はそうアドバイスしました。
 
「戦闘機のパイロットに似てます」
 
空井は坂手の話にそう言います。
 
「集中しないんですか?」
「いや、計器を見つつも、いつどこから敵機が来るかわからないので常に全方位に意識をちらしています。集中するのはロックオンの瞬間の2秒。いや、長いですよ。音速の世界の中では」
「音速ーー」
 
芳川はその隣で感激していました。
 
「乗ってみたいなあ、音速」
「あれ、C-1は時速800キロくらい?」
「イーグルのマッハ2.5とは段違いです」
「ライトニング2だとそこまで出ないけどね」
「でも、ステルスです」
 
 
次の日、稲葉たちの撮影班は芳川のインタビューをしていました。空井も稲葉たちに同行しています。
 
「お父さんがパイロットだったんですか」
「はい。航空自衛隊のC-1輸送機のパイロットをしてました」
「どんな方でしたか?」
「おもしろくて、くっだらない一発ギャグとかが得意でいっつも笑わせてくれて。休みの度にいろんなところに連れてってくれて。楽しい思い出しかないです。でも、基地のふれあいイベントに行ったときにC-1の説明をしている父がピシッとしていてかっこよくて、C-1を見たのも初めてだったから、あんな大きい飛行機を操縦してるんだって思ったらそれもびっくりで」
「いつ整備員になることを決意されたんですか」
「高校で進路に迷って、そのときに病気で死んだ父のことが思い浮かんで。父が好きだった飛行機に携わるそんな仕事がしたいなと思いました」
「お父さんきっと喜んでますね」
「だと良いんですけどね」
 
 
インタビュー後、空井は屋上にいる稲葉を見つけます。
 
「思い出してましたか? 記者だったお父さんのこと。どんな人だったんですか」
「母いわく、正義のスッポン」
「正義のスッポン!?」
「食らいついたら離れない」
「親子ですね」
「子ども心に憧れてたんですよね、たぶんずっと。うちの父、遊園地とか動物園とかちっとも連れてってくれなかったんです。でも一度だけ、私が田んぼを見たことがないって言ったら『そりゃいかん! これから見に行こう』って車に乗せられて。
 
きれいな山があって、大きな湖があって、周りには水田が広がってて、陽の光がキラキラ湖と田んぼの水に光ってて『キレイだね』って私が言ったら、嬉しそうに笑ってくれました。
 
父は私に私が住んでる国を教えてくれようとしたんだと思います。あのときはわからなかったけど。あの湖どこだったのかなーー」
 
稲葉は遠くを見つめていました。
 
お墓参りの撮影の日、残念なことに土砂降りの雨で撮影は延期になりました。金曜日に延期という連絡が皆に入ります。誰もが晴れることを期待して待ち続けましたが、金曜日も土砂降りの雨が続いたのです。
 
稲葉も打ち合わせに来ていて、空幕広報室にはいつものメンバーが揃っていました。
 
「雨男は誰だ! お前か? お前か?」
 
と皆を指差し、犯人探しをする片山に空井と比嘉と稲葉は否定しました。そこを空井は片山が雨男ではないかと疑うのでした。
 
「このままだと機材費だけで赤字。さらに今年最初の入隊説明会に間に合わなくなります」
 
愕然とする三人に鷺坂室長は提案します。
 
「天気といえば、いるじゃないの強い味方が!」
 
そうして頼った先は、入間気象隊です。
 
「絶対に晴れる日ですか?」
「この一週間の一日だけでいいんです」
「次の水曜日は比較的晴れると思います」
「こら、コンピューターに頼るな。このあたりだと、北東気流の影響で水曜にはまだ気圧の谷が残る。前線が途切れているように見えるが、潜在的には繋がっていると見たほうが良い。同じ天気は2つと無いんだ」
「じゃあ、いつ晴れますかね?」
 
片山と空井は検査隊の方に頭を下げに行き、木曜の芳川士長のスケジュールもおさえました。それでも水曜の夜は土砂降りの雨で、空幕広報室では雨乞いも行われました。
 
「けっきょく、神頼みですか?」
 
てるてる坊主を作っている稲葉を見た佐藤は声をかけました。
 
「頑張ってる人たちのために、祈りたくなるときもあるの。場が人を育てるんだって。上司や先輩や同僚が真剣に仕事してるのを見て、自分も頑張っちゃうようなーー人の思いが人を動かす!」
 
稲葉のてるてる坊主が可愛くなさすぎたので、佐藤は代わりにてるてる坊主を可愛く作り上げて、共に空に祈ったのでした。
 
 
皆が呼んだC-1輸送機
撮影当日、見事に晴れ上がった空の下で墓参りの撮影は始まりました。今回は鷺坂室長も同行しています。
 
「空幕広報室室長の鷺坂です」
「芳川です」
「今日は線香をあげさせてもらいに来ました」
「ありがとうございます」
「お父さんとは何度かお会いしたことがあります。愉快な方でいつも隊を盛り上げていました。私と一発ギャグ対決をしたことも」
「勝ったんですか?」
「引き分けでした」
 
芳川が墓参りをする場面。撮影中に空井は空に飛行機が見えることに気づきます。それは芳川士長のお父さんのC-1輸送機でした。
 
「嘘」
 
慌てて撮影する皆。
 
「手配したんですか?」
「いや、偶然」
 
稲葉は鷺坂にたずねましたが、首をふる鷺坂。
 
「お父さんからのはなむけですね」
「はい」
「稀にあるんだよな。こういうことが。皆の思いが奇跡を呼ぶ」
 
芳川士長の瞳には大粒の涙がありました。
 
 
こうして、プロモーションビデオは無事に撮影を終え、編集をしたビデオを持って空井と稲葉は北海道の入隊説明会の会場に急ぐことになります。なぜなら、北海道まで航空自衛隊の輸送機で行くからです。空井は稲葉に連絡を入れました。
 
「もしもし、空井です。音楽入りして、直行すればギリギリ説明会に間に合います。稲葉さん撮影に来ますか?」
「もちろん。皆さん渾身のPV初出しまできっちり撮らせていただきます」
「良かった。許可申請出しといたんで」
「許可?」
 
輸送機にのった空井と稲葉。稲葉は機体の中で少し緊張していました。
 
「あと一分で通過します」
「通過?」
「はい、直接は見せてあげられないんですけど。お父さんの湖。たぶん、福島の猪苗代湖です。周りに田んぼがブワーッと広がって、近くに磐梯山。空から何度も見たことがあります」
 
少し困惑する稲葉に言葉遊びを説明する空井。
 
「あ、今通ります」
 
稲葉は目を閉じ、過去の湖の情景を思い浮かべるのでした。
 
「見えました。見えました、お父さんの湖。ありがとうございます」
 
二人の目には薄っすらと涙が見えました。
 
二人はギリギリ説明会に間に合い、稲葉は会場の隊員の申し出から説明会で航空自衛隊の魅力の話をすることに。司会は稲葉を紹介します。
 
「皆さん、今日は東京からテレビ局のディレクターさんが偶然取材にいらしてます。ずっと航空自衛隊を密着取材されているとのことですので、我々の仕事の魅力を外側からの視点で語っていただければと思うのですがーーでは、稲葉さんよろしくお願いします」
 
稲葉は空井の顔を見つめました。
 
「すみません」
 
と頭を上げる空井。
登壇する稲葉は淡々と話し始めました。
 
「帝都テレビの稲葉と申します。空幕広報室の密着取材をしています。でも、私には空自のセールスポイントを語ることはできません。
 
そこにはいろんな人がいて、組織としてもいろんな問題やどうにもならない状況もあって、それをわかった気になってひとまとめに語ることは不誠実だと思うからです。 
 
ただ一つ、言えることは。どんな仕事でも自分がやりたかった仕事でも、そうじゃない仕事でも真正面から向き合えば何か得ることができるんじゃないでしょうか。
 
思い通りにならないことはたくさんあります。どんなに一生懸命やっても上手く行かないこともあります。夢があっても叶わないこともあります。
 
悲しいけど、あるんです、それは。どんなに失敗しても、なりたいものになれなくても、人生はそこで終わりじゃない。どこからでもまた始めることができる。
 
恐れずに、飛び込んでみてください。一つ一つの出会いを大切にしてください」
 
 
その頃、テレビ局の藤枝は稲葉が彼のデスクに置いていった『明日キラリ』のビデオを視聴していました。それにはまだナレーションが入っておらず、最後のテロップには”ナレーション:藤枝敏生”と記されていたのです。稲葉の気遣いに藤枝は涙を流していました。
 
 
稲葉の演説に空井は感動していました。彼の目にはまだ涙があります。説明会が終了し、空井と稲葉は輸送機の最終便に急ぎます。
 
「搭乗手続きまであと30分です」
「輸送機の終電のために走る日が来るなんて」
「終電て、電車」
「航空機だから、終航?」
「終輸送機とか、ですかね」
 
会場の出口の扉を開ける空井は、稲葉を呼び止めました。
 
「待って、2秒ください」
 
そういって空井は、稲葉にキスしたのでした。
 
 
後日の広報室でもプロモーションビデオは大好評。航空自衛隊のHPでも再生回数が2万を超えていました。しかし、柚木が見つけた夕刊のコラム記事に皆が驚愕することとなってしまうのです。
第8話の感想はここをクリック
さまざまな失敗があっても、めげずに努力することでまた新たに始めることができるという言葉に励まされる第8話。
 
空幕広報室ではプロモーションビデオの作成にたくさんの失敗と壁が立ちはだかりましたが、皆の意見や努力のかいがあって素晴らしいビデオが完成しました。
 
たくさんの人々との関わりによって成長した稲葉に空井も、片山も、槙も、柚木も藤枝も皆が影響されて変わっていくことが胸に響きました。
 
とうとう、稲葉と空井に大きな進展があったので感無量です。にもかかわらず、次回は不穏な展開のようなので目が離せません。
<見逃し動画>第7話 「いざという時そばにいられない男だけどそれでもいいか?」
 
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第7話の公式あらすじ

リカ (新垣結衣) が空幕広報室に密着取材を続ける中、今度は航空自衛隊のイメージアップのためにプロモーションビデオを制作する企画が持ち上がった。
しかし、空井 (綾野剛)・片山 (要潤)・比嘉 (ムロツヨシ) たちは、なかなか撮影コンセプトが決まらないでいた。すると、鷺坂 (柴田恭兵) からのヒントで、空自が誇る航空救難団の救難員、通称 『メディック』 をモデルに PV を作ろうと企画がまとまった。
撮影の打ち合わせで、百里基地へ向かう空井に同行したリカは、メディック隊員たちの厳しい訓練を目の当たりにし驚くばかり。けれど、PV 撮影は “親しみやすさ” をコンセプトにすることからダーツバーで行われることに。広報室のメンバーやメディックのメンバーたちがエキストラとして出演し、さらに 藤枝 (桐山漣) や 珠輝 (大川藍) までもが見学に来て賑やかな現場となった。
撮影を進めていくと、片山の思いつきで賭けをすることになり、リカが勝てば空井と珠輝がデート、空井が勝てばリカが空井に酒を奢ることになったが、その結果は…? 
一方、そんなリカたちを呆れた顔で見ていた 柚木 (水野美紀) は、槙 (高橋努) から思いがけない言葉をかけられる…。
PV 撮影も終わり、広報室の密着取材を進めていたリカは、阿久津 (生瀬勝久) の勧めから当時、災害派遣に出ていた鷺坂に阪神淡路大震災のインタビューを頼むことに。
 
ともみ (三倉茉奈) は、阪神淡路大震災のニュースを見ながら空自のヘリの説明を熱心にするリカに苛立ちを隠せないでいた。
そんなある日、事件の現場中継のために取材に出かけていたともみから慌てた様子でリカに電話が入る。救助活動をしている目の前のヘリは航空自衛隊のヘリか?と問うともみにリカは… !?
 
<出典>空飛ぶ広報室公式

第7話のネタバレはここをクリック
前回、空幕広報室の空井と片山、比嘉の三人はミュージックビデオの撮影で大成功を収めました。彼らの姿を密着取材して共に成長していく帝都テレビ、ディレクターの稲葉リカ。彼女は空井の広報官としての初企画が出来上がる日を待ち望んでいるのでした。
 
 
それはメディック
稲葉は、いつものように空幕広報室の未着取材をしています。朝の広報室では鷺坂室長が神棚にお供えをして、手入れをしていました。稲葉は鷺坂に問いかけます。
 
「特別な神様なんですか?」
「ニギハヤヒノミコトと言いまして、天の磐船という飛行船に乗って天から降りてこられたという空の神様。京都の八幡にある飛行神社の御祭神」
 
鷺坂は二礼二拍手一礼で神棚にお祈りするのでした。
その後ろで空井と片山は、プロモーションビデオの作成の打ち合わせで揉めていました。何をテーマにプロモーションビデオを撮るのかかが決まらないのです。比嘉も彼らの話を聞いて思案していますが、なかなか決まりません。
 
「プロモーションビデオまで作ってるとは思いませんでした」
 
稲葉は驚きました。
それに鷺坂は答えます。
 
「ビデオといっても30秒の短いコマーシャル。毎年、陸海空の三幕それぞれがイメージアップと隊員募集のために作ってる」
 
空井は戦闘機をテーマに領空侵犯を防ぐ防空をメインに撮影しようと片山に提案しますが、片山はコスプレをメインに撮影しようと主張していました。しかし、空井はコスプレに反対します。
 
「コスプレビデオのどこがイメージアップなんですか」
「ですね。不謹慎だと思われる恐れもある」
 
比嘉もそれに賛成するのでした。
彼らの話から稲葉は思いつきます。
 
「考えてみれば、広報活動すること自体が不謹慎だって批判はないんですか? 何か商品を売るような企業とは違って、皆さんの場合は売上とか関係ないし、たとえ世間からのイメージが悪かったとしても職務には直接関係ありませんよね?
 
「俺らの仕事全否定」
「身も蓋もない」
 
片山と比嘉は落胆して答えます。
 
「あえて、聞いてるんですよ」
 
慌てる稲葉。
しかし、鷺坂は言いました。
 
「いやいや、なかなかいい目の付け所だと思うよ。もし、嫌われたくないという気持ちだけの問題なら、そこまで広報に力を入れる必要はないのかもしれない。でも、有事の際、災害派遣一つとっても全国の皆様のご理解があればこそ、我々が迅速に有効に働くことができる。より多くの命を救えることにもつながる。ということを以前、痛感しました」
「災害派遣に出られたことは?」
「平成7年、岐阜基地にいたときにね」
 
稲葉と鷺坂の話のあと、比嘉はプロモーションビデオの案をふと思いつきます。
 
「あ! レスキューどうですか? 空自が誇るレスキュー部隊。航空救難団!」
「航空救難団?」
 
「警察や消防、海上保安庁といったあらゆるレスキューが対応できない状況において出動を要請されるのが航空救難団。日本唯一の全天候型レスキュー部隊、その救難員を通称メディックと呼ぶ」と鷺坂室長は説明しました。
 
稲葉と空井は百里救難隊へプロモーションビデオへの出演協力の依頼に行きました。そこには救難ヘリのUH-60JとU-125Aの捜索機がありました。U-125Aには人体の熱を感知する赤外線感知システムや捜索用レーダーも搭載されているのです。
 
稲葉と空井に対応してくれたのは、メディックの佐伯でした。
 
「PVの撮影ですが、少なくとも3人来て頂けますか」
「自分、非番なのでいけます」
「メディックの代役は他の隊員にはできないので。見た目も違いますし」
 
救難団のメディックになるには志願者から養成課程に入るのにも選抜試験があり、年間7、8人だけが通れる狭き門です。しかも、訓練生になってからも一年間は空挺過程、潜水訓練、雪山訓練といった過程をクリアしたものだけがメディックになることができます。
 
訓練でしごかれてる志願者を見て、稲葉は訓練の厳しさを感じました。
 
「厳しいんですね」
「じゃないと、現場に出たときに死んじゃうんで」
 
そうさらっという佐伯隊員。
 
「訓練の厳しさは、陸海空を合わせて自衛隊随一と言われています」
 
 
後日、ダーツバーにてプロモーションビデオの撮影は行われました。撮影でメディックの厳しさをアピールすると思っていた稲葉は、撮影場所がダーツバーであることに驚きました。
 
「厳しいところアピールしても暑苦しいだけでしょう」
 
というのは片山。彼に引き続き空井と比嘉も言います。
 
「コンセプトは親しみやすさです」
「こうした日常の空間でダーツを楽しむ若者たちが実はメディックだったというストーリー」
 
エキストラで空幕広報室の皆も出演するので、いつものメンバーが集まっています。まだ来ていないのは柚木だけでした。佐藤はディレクターの仕事のために見学に連れてこられていますが、メディックの隊員に絡むので稲葉に怒られています。また、出演するわけでもないのに、なぜか無関係の藤枝も来ていました。「あんたはなんでいるわけ?」とつっかかる稲葉。
 
「お前が頑張ってる姿を見に来たんじゃん」
「休みをもっと有効的に使いなさいよ」
「有効的に使ってますよ」
 
稲葉はそう言いますが、藤枝は取り合いません。
そんな二人をみて、片山と比嘉は空井に耳打ちしていました。
 
「あいつか? いなぴょんの男」
「あの人か?」
「あ、はい。あのう、帝都テレビのアナウンサーなんです」
「チャラチャラしやがってーーまかしとけ」
 
そういって片山は藤枝につっかかりに行きましたが、藤枝はそんな片山のかっこよさを褒めるのでタジタジになり完敗。そこへワンピースドレスで現れた柚木を見て、皆は固まりました。
 
「女に見えるーー」
 
そう言われた柚木は恥ずかしさのあまりに槙のお尻を蹴ってしまうのでした。そうこうしているうちに、撮影は始まります。槙と柚木はエキストラでカップル役をしているので、撮影監督に何か話すように指摘されてしまいます。
 
「奥のカップルの人、何か喋って頂けますか? 音は使わないんで」
 
そうして撮影は再スタートします。
 
「なんでもって困りますね」
「こないだ、空井が言ってたじゃない。俺たちどんなに運が良くても同じ場所に三年しかいられないって。私、もうあと一年ないんだよね。私がいなくなったあとの報道班をよろしく」
 
柚木の言葉を聞いて、槙は悲しい表情をしていました。
 
撮影が終盤に入り、ダーツを真ん中にあてられる人を探すことに。空井と稲葉が皆の候補であがり、二人はどちらが先にあてられるのか競い合うことになりました。
 
「稲葉が勝ったら、空井が酒をおごる。空井が勝ったら、稲葉が酒をおごる」
 
そう片山が提案するのに乗っかって、佐藤が申し出ました。
 
「こうしませんか! 稲葉さんが勝ったら、空井さんと私がデートするってどうですか?」
「なぜそうなる!」
 
と片山と比嘉は言いますが、稲葉はそれに同意してしまいます。
 
「じゃあ、空井が勝ったら、いなぴょんが空井に酒をおごる!」
 
片山と比嘉は必死です。緊張が走る中、空井が投げたダーツは真ん中を外してしまうのでした。それを見ている柚木と槙。
 
「何やってんだか」
 
皆を見て笑う柚木。
 
「デートしましょう」
「え、デート?」
「俺たち」
 
槙は真剣な顔で柚木を誘いました。
間があって驚く柚木の口は開いたまま。
 
「ポメラニアンとは別れたんです。とっくの昔に」
「あ、槙、あんた犬と付き合ってたの」
「え!?」
 
稲葉が投げたダーツは見事に真ん中にヒット。その夜、空井は佐藤とデートに行くことに。稲葉は柚木といつものバーでその日の反省会をしていました。
 
「槙のやつ、なんなの? 何事? びっくりしすぎて、『あんた犬と付き合ってたの?』なんて寒いツッコミいれちゃったよ」
 
「きっと槙さんは防大のときから柚木さんのことが好きで、再会してもやっぱり『柚木先輩が一番好きだ!』って思ったんですよ」
「キモいーー」
「キモい?!」
「いやだってさ、あたしはね、自分のことをこうずっとおっさんとして。槙もおっさんで、おっさんとおっさんがデートとか付き合うとかーー」
「あー! すみません。おっさんを一度忘れましょう。柚木さんの心の片隅の乙女心の引き出しをほんのちょこっと開けてみませんか?」
「乙女心ーー」
「イエス!」
「稲葉はあんの? 乙女心」
「最近、少し引き出しから顔を出してたんですけど、飲みに誘ったら二人では嫌だと断られ、好みのタイプは私とは真逆だと言われ、心が折れました」
「そりゃ、折れるわ」
「なのでダーツを決めて、後輩にフライパスしました」
「恋愛にはガツガツ行けないか」
 
自衛官と付き合う場合、仕事をしている相手にとって付き合うことは難しい選択になることを自衛官は知っています。それは柚木も空井も同じです。
 
「稲葉は仕事辞める気はないんでしょ」
「ないですけど」
「うちらは転勤ばっかだし、いざというときいないしね」
「いない?」
「自衛官は有事のときは現場に駆けつけなきゃならない。つまり、自分の大切な人のところにはいけないってこと」
 
神妙にうなずく稲葉に柚木は慎重に鷺坂室長の話をはじめました。
 
「室長の奥さんの話、聞いた?」
「亡くなったんですよね」
「ずっと入院してて、病気で亡くなったんだけど、死に目には会えなかったって。危篤の時、室長は災害派遣で身動きとれなかったって」
 
そのとき、稲葉の脳裏には鷺坂室長の言葉と顔が浮かびました。
「1995年阪神淡路大震災」とつぶやく稲葉。
 
 
お酒はNG
翌日、空幕広報室では柚木が槙を意識しすぎて行動が変になっていました。
 
「柚木三佐」
「はい! え!?」
「え!?」
「いえ、何?」
「定例の資料ーー」
 
と槙が資料の確認を柚木にしてもらおうと近づくと、彼女はあからさまに距離をとってしまうのでした。
 
「あ、ごめん。ごめんごめん、あたしがおかしい。長いこと引き出し閉じたままだったからどうしたらいいかーー」
 
そんなところへ、片山が戻ってきて空井にヘッドロックをかけました。
 
「どうだったんだよ。昨日のおデートは。据え膳食ったか? 踊り食ったか?」
「そんなことしてませんよ!」
 
こうして空井は片山と比嘉を前にデート報告会を開催することに。話によると、食事に行ったものの話は飛行機のことになり、あまり盛り上がらずに終わった模様でした。
 
「盛り上がりましたよ、少しは」
 
空井はキョトンとした顔で言います。
 
「本当かよ」
「盛り上がるだけがすべてではないですから。一緒にいて落ち着くだとか、安らぐだとか」
 
唯一の既婚者である比嘉は得意げに言いました。
そこへ帰ってきた鷺坂室長も続けます。
 
「あるいは自分に力を与えてくれるだとかね。はい、お土産! 皆で食べて、甘味処みよしのお団子」
「有名な所?」
「ぜんぜん、知る人ぞ知る、うちのワイフぞ知る」
「いつもの地図ですか」
「御名答!」
 
鷺坂室長の奥さんは散策とイラストを描くことが好きで、気に入った場所やお店などをスケッチブックに記しながら散策するのが日課だったのです。鷺坂室長の出張先についていき、一人で散策してそれを夫の鷺坂室長に教えるような日々が過去にはあったのでした。
 
 
その頃、稲葉は情報局で阿久津チーフに阪神淡路大震災の当時の話を聞いていました。
 
「阪神淡路大震災か」
「私まだ当時小学生で」
「あの頃は自衛隊に対する風当たりは今よりもっと強かったんじゃないか」
「イメージが悪かったってことですか?」
「戦後の医療論との対立もあって、災害時すぐに自衛隊を派遣するという法整備がなされていなかった。結果、自衛隊はなかなか出動することができず、初動の遅れが問題になった」
「今は震度5弱以上の地震が発生した場合、自主派遣できますよね」
「阪神の件をきっかけに法改正されたんだ。鷺坂さんに直接聞いてみたらどうだ当時のこと」
「そうですよねーー」
 
複雑な表情で空を見つめる稲葉を見て、阿久津チーフは心配な眼差しになりました。その後、稲葉は自身でもテレビ局にある阪神淡路大震災の当時の放送を調べ始めます。
 
それを偶然みた報道局の香塚は稲葉につっかかりますが、稲葉の情報局の仕事に対する情熱に戸惑うのでした。それで香塚は藤枝に愚痴をいいました。
 
「どうなってんのあの人。情報局に異動になってへこむどころか、ヘリがどうとか」
「もういんじゃない。報道局で警視庁つきの記者やってるトモみんの勝ちで」
「向こうが負けた顔してないから面白くないの」
「帝都イブニング見てる? アイツ最近、街角グルメも超絶真剣に作ってる。ちょっと羨ましいよな。あの熱さ」
 
そういうと藤枝は去っていくのでした。
 
 
空幕広報室ではとうとう出来上がった航空自衛隊のプロモーションビデオを披露していました。かっこよく仕上がっている映像に皆は拍手しますが、鷺坂室長はどこか浮かない顔です。比嘉は室長にたずねました。
 
「室長、何か?」
「ん、んん、いいんじゃない。テンポもあってノリもいいし」
 
その後、空幕長ら上の方々にビデオを上映しました。しかし、飲酒運転の問題やお酒のイメージがあるバーからの出動が問題になってしまいます。これをきっかけにプロモーションビデオはお蔵入りとなってしまったのです。
 
空井はその報告と謝罪のために稲葉とともに百里救難隊へ出向きました。
 
「本当に申し訳ありませんでした。ただ、できは良かったと思います。表には出せないんですけど、(ビデオを)焼いてきたんでよかったら」
 
CD-ROMを隊員たちに配る空井。
 
「ありがとうございます。あの、家内に見せます。普段かっこよい所見せてあげられないんで」
 
そういう佐伯に稲葉は食いつきました。
 
「ご結婚されてるんですか」
「あ、はい。子どもも一人」
 
佐伯は奥さんと子どもの写真を取り出します。
 
「可愛い!」
 
写真の裏には飛行神社のお守りがありました。
 
「あ、それ飛行神社の」
「ああ、これあの、家内が毎年京都まで行って勝ってきてくれるんですよ。いや、大変だからいいよって言ってるんですけど」
「佐伯さんたちは最も過酷な状況に送り出されることが多いですよね」
「そうですね」
「ご自身の命が危険にさらされることも多いと思います。大切な家族を残して自分が死んでしまうかもしれない。その可能性は考えませんか?」
 
稲葉の問いに彼の表情から笑顔が消えました。彼は真剣な表情で家族の写真を見つめます。
 
「死なないために厳しい訓練を重ねてます。どうやったら要救助者を助けられるか、どうやったら生き抜けられるか、それだけを考えます。もう一つ、お守りがあるんですよ」
 
佐伯が取り出したのは一枚の手紙。それはドクターヘリの代わりに出動した際、救助した母親のその子どもからの感謝の手紙でした。
 
「これ見たら、頑張らないわけにはいかないでしょう」
 
彼の表情には穏やかな笑顔がありました。
 
 
百里救難隊の取材の帰り道、車の中で空井と稲葉は語ります。少し険しい顔の空井。
 
「自分、パイロットだったとき、自分たちが表に出ないのって当然だと思ってました。前に稲葉さんが言ってたみたいに広報なんかしなくても任務は任務だし、一般の人にどう思われても関係ないと思ってた。でも、今広報官である自分は、すごくすごく伝えたい。現場で働いている隊員たちの思いをもっともっと知ってほしい」
 
稲葉はそんな空井の横顔を見つめ、決心したように前を向きます。
 
「迷ってたけど、決めました。鷺坂さんにインタビューをお願いしようと思います。1995年1月17日、奥様が亡くなった日のこと。どんな思いで任務についていたのか、知りたいんです」
 
 
彼女を失った日と後悔と自衛官
ある日の休日、空井と稲葉は鷺坂室長とともにいました。
鷺坂室長は地元の少年野球のコーチをやっていて、子どもたちにサギちゃんと呼ばれるほど親しまれています。また、地元のスーパーでは近所のおばさまたちにサギちゃんと呼ばれ、世間話をするほど近所付き合いの良い人柄なのです。
 
鷺坂室長は空井と稲葉にたくさんの手料理をふるまいました。まるでレストラン並の料理に稲葉も空井も驚きます。
 
「おまたせおまたせ、熱いものは熱いうちに」
「すごいですね」
「鷺坂さんって何者ですか」
「空幕広報室の室長。昔は、料理なんてまったく興味なかったの。でも、ゆっこかがあれこれ作ってくれた料理の味が懐かしくなっちゃってさ。どうやって作ってたのかなって試行錯誤してたら楽しいのよ。料理って楽しいのよ。今では料理も絶対俺のほうが上!」
 
そうして、稲葉による鷺坂室長へのインタビューは始まりました。稲葉は彼の奥さんの写真を見つめるとカメラをスタートします。
 
「当時は岐阜基地の高射隊の隊長でした。近くに妻と家を借りていて」
「奥様はいつから入院を?」
「前の年の秋に心臓の手術をしたんです。でも、経過があまりよくなくて、それからずっと入院したきりで。岐阜市内の大学病院です」
「地震のとき、鷺坂さんはどこにいらっしゃったんですか」
「自宅にいました。六府はそれほど激しい揺れではなくて何も。神戸が震度6と聞いて、すぐに基地に向かいました」
「でも、実際はなかなか出動できなかった。当時の法律で」
「はい」
「奥様の危篤を知ったのは?」
「待機中です。携帯に病院から連絡があって、容態が急変したと」
「行こうとは思いませんでしたか?」
「災害派遣は、一刻を争います。待機中とはいえ、勝手な行動はとれません」
「奥様を一人で死なせても」
 
その問いに鷺坂は少し息を呑みます。
 
「妻には結婚前から話してありました。何かあったとき、そばにいられない男だけどそれでもいいか。それがプロポーズ」
「奥様と最後に会われたのはいつですか」
「地震の前日。出勤前に病院に立ち寄ったときです。そのとき、顔色とっても良かったんです」
 
鷺坂は当時を思い出します。
鷺坂の妻は、彼にいちご大福を買ってきてくれるように笑顔で頼みました。鷺坂は次の日にいちご大福を持ってくることを約束し、二人は「いってらっしゃい」「いってきます」と笑顔で言葉を交わしたのでした。
 
「最後に、ちゃんと笑ってあげられてよかった」
「奥様はその日のうちに」
「はい。会いに行けたのはそれから5日後でした」
「後悔はされませんでしたか」
 
鷺坂の目にはたくさんの涙があります。
 
「いちご大福を供えてやろうと思って探したんだけど、どこにもなくて。どうしてもなくて。そのとき、ふと妻は一人でたった一人で死んでいくその覚悟をしていたと思います。でも、本当に幸せだったのかなって。妻よりも、言ってしまえば、見ず知らずの人を助けることを選んだ自分は自衛官としては正しい選択です。でも、夫として正しかったのかどうか」
「答えは出ましたか」
「以前、インタビューで話したと思うんですけど、ゆっこは転勤のたびにスケッチブックをもって散策に。で、私が休みの日に散策の成果を話してくれる。私一人では気づかない、そのときのちょっとした好きなことをたくさん教えてくれた。ゆっこは皆大好きでした。皆、愛してました。人も自然もみんな見ず知らずなんかじゃない、みんな守るべきものなんだってことを教えてくれました。ゆっこは今も応援してくれていると信じています」
 
 
翌日、稲葉は情報局で阿久津チーフに自身のインタビューが正当なものだったのかを問いました。彼女は自身の行いが恐ろしくなってしまったのです。
 
「知りたいって気持ちはただの野次馬根性と一緒で私が聞き出すことで傷つく人もいるんじゃないでしょうか。怖くなりました」
「このインタビューが実際番組に使えるかどうかはわからん。だが、お前が誰かの物語を知ることで違う形でもその思いを伝えられるのなら意味はあるんじゃないか」
 
阿久津チーフは稲葉を見つめました。
 
 
ある日の帝都テレビ。稲葉は帝都イブニングの街角グルメ放送を見ていました。
 
そこへ、報道局の香塚から電話が入ります。報道局カメラは、山での遭難者救助に偶然にも遭遇したのです。彼女たちは航空救難団の飛行機とヘリを見ていました。電話口で香塚は稲葉に問います。
 
「紺色のヘリ、この前言ってたでしょ。紺色のヘリって航空自衛隊?」
「UHのこと?」
「機種のことなんてわかんない。筑穂山の中腹、ディレクターは山岳救助隊っていうけど」
「機体に書いてない?」
「下からで見えない。これから中継はいる」
 
テレビではそのようすが放送されますが、ヘリの機体は映りませんでした。それに激怒する稲葉ですが、ふと捜索機の存在を思い出します。
 
「U-125A。ヘリの他に飛行機見なかった? 水色で先の尖った」
「いる! 飛んでる!」
「捜索機とペアで飛ぶ救難ヘリは日本で航空救難団しかいない。間違いない航空自衛隊」
 
その頃、空幕広報室でもニュースを見ていました。スタジオの山岳救助隊というニュースのテロップは間違っているので広報室では落胆。しかし、現場で報道する香塚は適切にアナウンスします。テレビではスタジオから現場に映像が移ります。
 
「現場の香塚さん!」
「はい、香塚です。たったいま遭難者を乗せたヘリが飛び立ちました。なお、山岳救助ヘリとお伝えしていましたが、正しくは航空自衛隊所属の航空救難団が遭難者の救助にあたっていました。本日17:40頃、滑落したと思われる遭難者の救出に百里救難隊があたりましたーー他を生かすために彼らは日夜、過酷な訓練に励んでいるとのことです」
 
稲葉は、香塚に自身の持つ航空自衛隊の情報をメールしていました。その努力があって香塚は現場から救助にあたったのが航空自衛隊だと放送することができたのでした。
 
これに感動した空井は、仕事を早めにあがり、テレビ局に向かいます。そして、稲葉を飲みに誘ったのです。
 
「ニュース、稲葉さんですよね。ありがとう。本当にありがとうございました。飲みに行きましょう」
「え!?」
「今から二人で」
「私と飲むの嫌なんじゃーー」
「まさか。もうぐだぐだ考えるのやめにしました。僕が稲葉さんと飲みたいから誘います。だめですか?」
「いや、ぜんぜん」
「行きましょう!」
 
空井は稲葉の手を引いて居酒屋に向かうのでした。二人の間にあった勘違いの溝は少しずつ溶け、藤枝が彼氏ではないことを空井は気づきます。自分の勘違いに気づいた空井はふっきれて稲葉と楽しくお酒を飲むのでした。
第7話の感想はここをクリック
今までの話の中で最も感動した第7話でした。空幕広報室の鷺坂室長の妻が亡くなった日の話は、涙なくして見ることはできません。鷺坂室長がとても妻を愛していて、大切にしていることは彼の振る舞いからありありと伝わってきます。妻が亡くなった日に彼女のそばにいてあげられなかったことが彼にとってどれほど辛いことだったかと考えると胸が締め付けられるようです。大切な人のそばにいてあげられない自衛隊の大変さ、彼らの努力や素晴らしさを知ることができるのはこの作品の良いところでしょう。
 
やっと稲葉と空井の関係性に進展が見えてきました。次回にもっと大きな進展があることを期待しています。
<見逃し動画>第6話 「伝説のあぶない名コンビ復活!?」
 
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第6話の公式あらすじ

空幕広報室の 片山 (要潤) は、人気ロックバンドの夏フェスオープニングのカウントダウンに合わせて浜松で T4 を5機飛ばすという新企画を進めていた。同じ頃、リカ (新垣結衣) も空幕広報室をターゲットにした新企画について、鷺坂 (柴田恭兵) に交渉していた。広報室はあくまでも裏方に徹するべきと考えている鷺坂に、リカは 「この企画で見せたいのは空自で働く人」 と言い切り、成長したリカの姿に鷺坂は長期取材を快諾した。まずは、片山の手掛けている夏フェスから取材をすることに。鷺坂はこの夏フェスは 「フルール」 というバンドの伝説のミュージックビデオを超える企画だと言う。その伝説の MV は、当時 “小松の名コンビ” と言われた片山と 比嘉 (ムロツヨシ) が担当していた。リカは、今回も二人がコンビを組んで担当するのかと片山に尋ねると、「コンビなんていらない」 と比嘉を無視して行ってしまう。
 
ある日、リカが空幕広報室で 空井 (綾野剛) が戻るのを待っていると、漫画家の 碓氷 (矢作兼) と編集者の 浅野 (西慶子) が片山を訪ねて来た。片山は碓氷を防衛記者会の定例会見に案内することになっていたが、その件を空井のデスクにメモを残しただけで託していたのだ。比嘉が機転を利かせたおかげで、何とか碓氷の件は無事終了したが、鷺坂に厳重注意をされた片山。空井に迷惑をかけたことを謝るが、比嘉のことは無視して行ってしまう…。
 
その後、片山はこっそり空井を呼び出し、自分の代わりに夏フェスの飛行計画や待機場所などについて聞いてほしいと頼んできた。どうやらフェスを行う浜松基地とこじれているようだった。比嘉にまたフォローしてもらえばと言う空井に片山は…。
 
一方的に比嘉に突っかかり幹部であることにこだわる片山と、空幕広報室の七不思議のひとつになっている 「比嘉が昇任試験を受けない」 本当の理由とは…?そして無事に片山の夏フェスは成功するのか… !?
 
<出典>空飛ぶ広報室公式

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前回、帝都テレビのディレクターである稲葉リカは、航空自衛隊で行われた高射隊の機動展開訓練に携わる女性自衛官として空幕広報室の報道班である柚木典子に密着取材しました。
 
柚木は訓練を通して過去のしがらみだった古賀准尉と和解することができます。それをきっかけに槙博巳との仲も修復されるのでした。その傍ら、片山和宣は新しい企画のために邁進していました。
 
空井大祐と稲葉との関係にも少しずつ変化が起きていましたが、空井の勘違いのせいでなかなか進展しないのでした。
 
 
過去の名コンビ
空幕広報室では新企画が進行していました。ロックバンドの夏フェスでT-4という戦闘機を飛ばすという企画です。担当の片山は、ロックバンド『Supermarine Spitfire』の担当マネージャーと今後の企画内容について打ち合わせをしていました。
 
そんな中、稲葉も航空自衛隊の新企画が決まり、空幕広報室を中心に航空自衛隊で働く人々を長期取材をすることになります。稲葉は鷺坂室長と打ち合わせをしていました。
 
「まずは、片山さんが手掛けている夏フェスを取材させてください」
「あれは久々にでかい案件だからね。規模としては、伝説のミュージックビデオを越えるかも」
「伝説のミュージックデビオ?」
「『FLEUR』ってバンド知ってる?」
 
広報室のテレビには稲葉のために、当時の『FLEUR』のミュージックデビオが流れていました。
 
「これ覚えてます」と稲葉は言いました。
「うちの基地でも話題になりました」と空井。
 
「人気バンドの『FLEUR』とF-15戦闘機のコラボってことで広告効果は絶大だったね。ね、比嘉」
「そうですね。このときは、問い合わせもすごくて」
「比嘉さんが担当されてたんですか?」
 
稲葉は問います。
 
「いえ、私は補佐で。片山一尉が担当でした」
「当時、有名だったのよ。片山と比嘉で『小松の名コンビ』なんてい言われて」
 
そこへ打ち合わせを終えた片山が帰ってきました。
 
「あ、片山さん。ダブルエスの夏フェス取材させてもらいますから」
「おう! しちゃってしちゃって」
 
稲葉の申し出に軽いノリで応える片山です。
 
「小松の名コンビならぬ、市ヶ谷名コンビ期待してます」
「え? 誰が名コンビ?」
「伝説のミュージックビデオ、比嘉さんと二人で作られたんですよね」
「そんな5年も前の話、『FLEUR』のミュージックデビオなんぞ、もはや伝説でもなんでもない。時代は夏フェス! 新しいレジェンドが今まさに始まろうとしている」
 
片山にどこか浮かない返事をされるので、稲葉は戸惑いました。片山は報告のために室長と室長室へと行ってしまいます。比嘉も打ち合わせに出ていくのでした。
 
比嘉と片山は仲が悪いのかと、稲葉は疑問を皆に投げかけます。
 
「仕事の話になると、片山さんが一方的につっかかるんです」
「大好きな室長が自分より比嘉のこと買ってんのが気に入らないんでしょう」
「『俺は幹部なのに』っていっつも言ってるよな」
 
比嘉は一般入隊の航空自衛官です。幹部になるには、幹部選抜の昇任試験を受ける必要があります。
 
「毎年落ちてるってこと?」
「毎年、受けてないらしい」
「え、受けてない? どうしてですか?」
 
稲葉は困惑します。
 
「そこよ、空幕広報室の七不思議の一つ。なぜ、比嘉は昇任試験を受けないのかーー」
 
柚木はそういうと悲鳴をあげるのでした。
 
空幕広報室からの帰り、防衛省の前まで空井は稲葉を見送ります。稲葉は彼に今後の取材への意気込みも含めて握手とともに挨拶をするのでした。
 
「これからもよろしくお願いします。仕事に邁進する同士として」
「はい、こちらこそ」
 
複雑な表情の空井とは対照的に、すっきりとした微笑みで稲葉は去っていきました。
 
有言実行の稲葉は、帝都テレビの情報局で仕事に邁進していました。阿久津チーフに夏フェス取材の申請書や『街角グルメ』の企画提案やらを次々にこなし、業務に対してフル回転です。そんな稲葉の姿を見て、同僚の佐藤と藤枝は語っていました。
 
「稲葉さん、最近前にもましてバリバリモードでちょっとうざいくらいです」
「吹っ切ったかあ」
「吹っ切った?」
「ん? ムダに傷つく必要もないからよかったなあって」
「なんだかよくわかんないけど、ようするに自分の彼女が傷つく姿は見たくないってことですか?」
「だから、俺と稲葉は付き合ってないって」
 
稲葉の仕事に対する情熱に気圧される阿久津チーフは、「その溢れ出る、いや、はみ出てるやる気を新人教育に回してみようか」と彼女に新人教育をまかせることにしました。しかし、稲葉は「自分のことで精一杯で、新人教育とか向いてないんで」と言い訳すると空幕広報室へと急ぐのでした。
 
 
大きな失敗と新企画
空幕広報室のソファで稲葉は空井を待っていました。対応してくれたのは比嘉です。空井は別の仕事で外に出ていました。
 
「空井二尉、もうすぐ戻りますので。すいませんが、しばらくお待ち下さい」
「私が早く来ただけなんで。比嘉さん聞きましたよ、広報室の七不思議」
「七不思議? あ、片山一尉がよく言ってるやつ。なぜ槙三佐に彼女がいるのかあ!」
「あ、私が聞いたのは『比嘉さんがなぜ昇任試験を受けないのか』ってやつです」
 
それを聞いた比嘉は少し思案すると、自分が七不思議になっていることを驚きました。
 
「いやいや、七不思議だなんてたいそうなものじゃありません。ちょっとした主義の問題です」
 
そこへ前回から片山が資料提供の打ち合わせをしていた漫画家の担当編集がやってきたのでした。片山は夜まで戻ってきません。
 
「空井さんを訪ねるように言われてまして」
「空井ならすぐ戻りますけどーーもし訳ありません、しばらくお待ちいただけますか」
 
担当編集の方に対応すると、空井は稲葉に向き直ります。
 
「もしかして、稲葉さんとダブルブッキングかも」
「私は後回しでも」
「すみません」
「漫画雑誌の編集の方ですか」
「ええ。すみません。ちょっと、ちょっとーー」
 
比嘉は時計を見ると血相を変えて出て行ってしまいました。
ちょうどそこへ空井が帰ってきます。
 
「あ、すみません。お待たせして」
「いえ、それより漫画家の先生来てましたよ」
「え、碓氷先生?」
「はい、約束してたんですよね」
「え? いやーー」
 
そこで空井は自身のデスクのパソコンに片山からの申し送りのメモが貼ってあることに気づきました。ピンクのメモに可愛い文字で「碓氷先生を防衛記者会の定例会見に案内すること!よろぴこ。片山」とあるのでした。そこへ比嘉が慌てて戻ってきました。
 
「ああ!」
「ああ! 空井二尉! 碓氷先生が15時からの定例会見」
「今これに気づいて! すみません。すぐに案内します」
 
比嘉にピンクのメモを差し出した空井。
 
「だめです! おそらく、片山一尉は見学の許可をとってません。防衛記者会は場所こそ、防衛省の中ですが、管轄は記者会なんです。事前に記者会の許可をとっていなければ見学なんてさせてもらえません」
「どうしたらいいかーー」
 
編集担当の浅野と碓氷先生が広報室にやってきました。
 
「空井さん、大丈夫ですよね。碓氷先生お忙しくて、お時間今日しかとれないんですけどーー」
 
まだうろたえている空井の代わりに比嘉は答えます。
 
「大丈夫です。ご心配いりません。ギリギリまで記者会室に入れないんですよ。もう少し融通きくといいんですけど」
 
比嘉は空井に「繋いでてください」と耳打ちすると、広報室を急いで出ていったのでした。空井は碓氷先生と編集者の方との雑談を必死に繋いでいきます。
 
ある程度時間を稼いだ後、空井のもとに比嘉からの連絡が入りました。比嘉の機転と誠実な対応によって、どうにか無事に碓氷先生たちは記者会の見学に入ることができるようになったのでした。
 
その夕方、片山は室長室で鷺坂室長に叱られていました。その声は広報室にまで響くほどです。
 
「比嘉がいなかったら、どうなっていたと思っているんだ。こんないいかげんな申し送りがあるか!」
 
室長は片山のメモをデスクに投げつけました。
 
「急いでたもので。ダブルエスの多田さんと急に会えることになって」
「レアな方に飛びついて、元からあった約束をないがしろにする。これからもそういう仕事をするつもりか? 碓氷先生が会見を見学できなかったら、どうなっていたかわかるか?」
「大変面目ないことになっていたとーー」
「はい、そこ! そこがわかってない」
「うちの面目? そんなものどうだっていいんだ。一番の問題は碓氷先生の時間をムダにするところだったということだ。それは相手を粗末にしているってことだ」
「いえ、粗末にしたつもりは」
「そこで認められないからいけない」
「片山! 粗末にしたと認められなきゃ、お前はこれから何度でも色んな人を粗末にするよ」
 
室長室から出てきた片山は広報室の皆に向かって頭を下げて謝罪します。そして、空井に「悪かったな」と声をかけると比嘉には何も話しかけずに帰宅してしまいます。そのようすに空井は腹を立てますが、比嘉はそんな彼を止めるのでした。
 
室長室から出てきた鷺坂はまだ帰らずにいた稲葉に声をかけます。
 
「あららら、いなぴょん。まだいたの」
「すいません」
「いや、なんかみっともない話聞かせちゃったかな」
「いえ、鷺坂さんでも怒ることあるんですね」
「ま、事によってはね。室長ってのは、飛行機の編隊飛行でいったら編隊長だから。リーダーが判断を誤れば、全滅する恐れもある」
「全滅ーー」
「リーダーを務めるからには、部隊を預かる責任と覚悟をもってやらないと」
 
鷺坂室長の眼差しには強い意思があるようでした。
 
 
翌日の帝都テレビの食堂にて。
 
「なんだか最近、詐欺師鷺坂を尊敬し始めている自分がいるんですけど、これってやっぱり詐欺にあってるんですかね」
 
稲葉は一人でテーブルについていました。稲葉の後ろの席にいる阿久津チーフは話しかけられていることに気づいて驚くのでした。
 
「お前いま誰と喋ってたんだよ」
「阿久津さんしかいないじゃないですか」
「お前がいること、今気づいたんだよ」
 
鷺坂室長の仕事に対する態度に稲葉は尊敬を感じ、責任と覚悟について阿久津チーフに問います。
 
「やっぱりあるんですか、責任と覚悟」
「お前も責任と覚悟をもって後輩の指導をしろ」
「私はリーダーじゃありませんし」
「いずれ、リーダーになる。俺も来年の4月には部長だ」
「え!?」
「現場にはこだわってみたが、下はつっかえってくるし、上は早く上がれという。女房もな」
「あ、出てった奥さん?!」
 
プライベートな情報を稲葉が大きな声でいうので阿久津チーフは驚愕しました。
 
「バカか! お前は! 戻ってきた。現場を離れるという条件で。娘も小さいのに早く死なれたら困るって。ディレクターっていう職は食生活も時間も不規則だ。ずっと平でずっと現場っていうわけにもいかないもんだな」
 
阿久津チーフのその言葉で、稲葉は比嘉の七不思議の理由について気づきました。
 
その頃、空幕広報室では片山がコソコソと空井に対して協力を申し出ている最中でした。比嘉への片山の態度があまりに酷いので空井は彼に冷たくなっています。
 
「なんですか!?」
「あのな、浜松の広報に例のフェスの飛行計画を聞いてくれ、待機場所も」
「自分で聞けばいいじゃないですか」
「お前元パイロットなんだから、聞きやすいだろう」
 
片山の意味深な言葉に空井は気づきます。
 
「もしかして、浜松とこじれてるんですか?」
 
片山は固まります。
 
「普通、飛行計画くらい聞けば教えてくれますよ」
「イベント会社がさ、浜松基地に直接連絡しちゃって『どうなってんだ!』ってなって」
「なんでそうなったんですか」
「浜松の広報から仮でもらった資料をイベント会社につい渡しちゃて」
「自分が悪いんじゃないですか!」
「急いでるって言ったからーー」
「またフォローしてもらったらいいんじゃないですか、比嘉さんに」
 
空井の言葉に怒った片山は、彼を連れて広報室から出ていってしまいます。彼らは屋上にたどり着きました。腕を引っ張られる空井はその手を振り払います。
 
「あの、なんなんですか?!」
「やりにくいなあ。嫌いなんだよ。こういう改まったの」
 
空井はイライラします。
 
「俺は今回の仕事にかけてる。だから、比嘉の力は借りない」
「どうしてそうなるんですか」
「5年前、俺と比嘉は小松基地の広報にいた」
「知ってます。小松の名コンビだって」
「名コンビなんてーー」
「またそんな」
「そうじゃない。コンビなんてもんじゃなかったんだ。俺はまだ広報官としてペーペーで仕事の殆どはとうにベテランだった比嘉のおかげ。そのあと俺は市ヶ谷に異動してきて、外部研修に選ばれて民間の広告代理店で一年間勉強した。俺は楽しみにしてたんだ、また比嘉と仕事するのを。今度は対等に。なのに、再開したアイツはまだ一曹だった。おかしいだろ」
 
過去にその理由を比嘉に聞いた片山でしたが、比嘉は「給料には困っていないから昇進する必要はなく、自身の納得のいく仕事ができればいいんです」と言いました。比嘉の嫁の実家は老舗の酒屋で収入がいいのです。
 
「アイツはけっきょく、気楽にやりたいだけなんだ。女房のおかげであくせく働くこともなく、いつ辞めてもいいと思ってる。今回の夏フェス成功させたいんだ。『FLEUR』のミュージックデビオを越える仕事を比嘉の手を借りずにやり遂げたいんだ。頼む! 協力してくれ!」
 
頭を下げる片山を空井は見つめました。
 
 
失われた企画と七不思議
後日、空井と片山は浜松基地へ出向きました。稲葉も取材で同行しています。浜松での打ち合わせは空井のおかげで大成功。元パイロットである空井は、怒っていた飛行隊長の金屋と意気投合し、飛行計画を共に作り上げたのです。
 
「ありがとう、空井! 本当助かったわ。さすがパイロット。とりあえず、連絡してくるわ」
「あ、暫定ですよ!」
「わかってるよ。暫定ね、暫定」
 
飛行計画が決まったことで片山はその日のうちに、『Supermarine Spitfire』の担当マネージャーに報告の連絡を入れに行きました。
稲葉と空井は、浜松基地のT-4を眺めます。
 
「ドルフィンっていうだけあって、本当に丸っこいですね。練習機なんですよね」
「あ、はい」
「空井さんも乗ったんですか?」
「はい、教育期間中に必ず乗ります。あれでウイングマークをとって、初めてパイロットになれるんです」
「始まりの飛行機なんですね」
「はい。ブルーインパルスも曲芸飛行用に改造はされていますけど、同じT-4です。僕にとってT-4は夢の始まりと夢そのものでした」
 
そのとき、片山の悲痛な声が後ろで響きました。
 
「中止!? 中止ってーー」
 
片山は急いで『Supermarine Spitfire』の事務所に向かいました。
事務所側は企画に賛成でしたが、スポンサー側が戦闘機の騒音を心配して協力してくれないために企画協力自体が頓挫してしまったのです。
 
広報室の皆は居酒屋で片山を待っていました。片山からの連絡で、企画の頓挫は皆に伝わっています。片山にも居酒屋に来るよう鷺坂室長は言いました。
 
「とりあえず、お前もこっちに来なさい。いいから、皆待ってるから」
「片山一尉なんて?」
「やっぱりどうにもだめみたい。今回の音楽フェス、浜松では初めての開催でしょ。観客動員数は桁外れ。ただでさえ近隣の苦情が予想される中、その上、戦闘機を飛ばすまではーー」
「スポンサーが気にするのも仕方ないですね」
「『FLEUR』を越えるって意気込んでいたのになーー」
「片山いないと静かだな」
「アイツいつも一人で喋ってっからな」
 
そこで稲葉は七不思議の謎について話し始めます。
 
「そういえば、私七不思議の理由に気づいちゃいました。なぜ比嘉さんは昇任試験を受けないのかーー」
 
稲葉はキャーと悲鳴をあげます。皆はそれに驚きつつも、笑ったのでした。
 
「で、なに比嘉の理由」
「幹部になっちゃったら、三年ごとに異動がかかってどこに行かされるかわかんないわけですよね。でも、比嘉さんはずっと広報の現場で広報の仕事を続けたい。だから、昇任試験を受けない。そうですよね?」
 
そこへ片山が居酒屋につきましたが、皆の話を聞いて部屋に入らずに立ち止まりました。
 
「まあ、そうですね」
「やっぱり!」
 
比嘉が同意して、稲葉は喜びました。しかし、鷺坂室長は補足するのです。
 
「まだ浅いかなーー正解だけど、正確ではない」
「どういうことですか?」
「広報ってのは外の人と接する仕事でしょ。それって実は自衛隊の中でも類を見ない、とっても特殊な部署なのよ。だから、常に人材不足。広報のことを考えたこともなかった人間を短期間で広報官に育て上げなきゃいけない。やっと育っても、幹部は三年たったら即異動。さて、どうやったら広報のノウハウを繋いでいけるでしょうか」 
 
その問いに稲葉と空井は手をあげますが、早かったのは空井でした。
 
「空井!」
「ずっといられる人」
「正解! いなぴょんタッチの差。比嘉は幹部にならず、比嘉一曹のままでいることで広報室の礎になろうとしている」
「そんな礎なんて大げさですよ。私はただ長期的に見て、同じところにずっといる部下がいたほうがいいと、そういう持論があるだけでして」
 
皆の話を聞き、比嘉の顔を見つめると、片山はそっと静かに帰ってしまうのでした。その姿に稲葉と空井だけは気づきました。
 
「片山一尉が小松を離れるとき言ってくれたんです。『いつかまた、でっかい仕事やろうぜ』って私にとって最高の褒め言葉でした」
「そのいつかはまだーー」
「はい。できたらね、いいんですけど」
 
居酒屋からの帰り道、稲葉と空井は二人で名コンビ復活について語りました。解決策がわからない二人ですが、鷺坂室長に教えられた「意思あるところに道は開ける」の言葉を胸に秘めるのでした。
 
 
三人で大きな仕事を
翌日、空井は『セラフィン』という新人グループアイドルのミュージックデビオ企画を見つけてきました。それは陸幕広報が協力を断った企画でした。内容は駐屯内での撮影とジープの貸し出しですが、なぜ断ったのかの具体的な理由がわかりません。
 
「これなら空自でもできますよね。やりましょうよ、一緒に。比嘉さんと三人で」
 
「俺忙しいから」と嫌そうな片山。
 
「え、今急ぎの仕事なんて」
 
片山は新しいアニメ自衛隊キャラクターを披露します。その企画ボードを取り上げて空井は言いました。
 
「パクリですよね?」
「リスペクトだよ」
「『いつかまた、一緒にでっかい仕事をやろう』比嘉さんにそういったんですよね」
「そんな昔の話ーー」
「やりましょうよ、一緒に。前の伝説を越えるような新しい企画」
「越えるって」
「いけますよ」
「そんな無名の新人アイドル」
「ヒットするかも」
「そんな簡単に」
 
突然、空井は大きな声を上げました。
 
「もう! グダグダうるさい! わかってるんですか? ここで自分に残された時間があと一年もないってこと。俺たち、どんなに運が良くても同じとこに三年もいられないんです。いつかまたなんて、二度とないかもしれないんです。なのになんで? やりたい仕事ができるのに。一緒に仕事したい人とできるのに」
 
空井の目には少しの涙が光っていました。
 
片山が首を縦に振らないので、空井は一人でアイドル事務所に打診に行き、企画書の提供をお願いしたのでした。そうして基地への協力依頼もこなし、必死に準備をはじめました。そんな空井を心配する片山は、鷺坂に声をかけます。
 
「あれ大丈夫なんですか?」
「何が?」
「陸が断った案件ですよ。音楽事務所の方も違う内容のミュージックデビオをもう考え始めてるって話だし。一人で何をムキなってんだか」
「心配だったら一緒にやったらいいじゃない。誰のためにムキになっているのやら」
 
鷺坂室長も空井を止めるようなことはしないのでした。一日中走り回っている空井を比嘉も知っていました。しかし、片山の手前、彼も自分から手伝うことはできないでいます。
その日の終わり、広報室に空井しか残っていないほど遅くなった頃、比嘉が先に帰ろうと廊下に出ました。そこには片山が立っていました。
 
「アイツさ、たぶん俺一人が手伝うっていっても納得しないと思うんだよね」
「私一人が手伝うといっても同じでしょうね」
 
片山と比嘉は共に笑顔になるとうなずきました。そうして、二人は空井を迎えに広報室に戻ったのでした。三人は空井の自宅で企画の打ち合わせを始めることに。
 
「お前、ぜんぜんだめ。まずはどうしてこの企画を陸幕広報が断ったのか、そっからだろう」
 
片山は企画書を見ながらダメ出しをします。
 
「え、スケジュールが合わなかったから」
「そういう要素もあるかもしれませんが、明確な断りの理由があったとすれば、また同じ内容の企画書を出したところで内局の許可はおりない可能性が高いですよね」
 
片山のあとをついで、比嘉も意見しました。
 
「てかこれだろ。ビキニでジープとかないわ。見たいけどないわ」
「設定から変えないとってことですね」
 
二人のアドバイスから次の企画の方向性を見出す空井。
 
「いや、見たいけどね」
「見たいけどね」
 
その後も空井の企画書の内容にダメ出しをしつつ、三人は企画書の内容を詰めていきました。しかし、あと一週間で内局の許可をとるような企画を思いつかないことで三人は悩みます。そこで頓挫してしまった片山の企画で使う予定だった浜松のT-4の飛行計画のことを思い出しました。
 
そうして、三人の努力と鷺坂室長の巧みな話術によって内局の許可がおり、海でのミュージックデビオの撮影にT-4戦闘機を飛ばすことが可能になったのでした。そんな空井や比嘉、片山の姿に後押しされて、稲葉は新人教育に踏み出すことにしました。
 
後日、ミュージックビデオの撮影は何事もなく無事に終了し、T-4は華麗な姿を見せることができたのです。
 
海での撮影後、比嘉と片山は語っていました。
 
「よし! 燃えてきたぞ! 残りあと一年企画を出して出しまくって、広報室の星になってやる」
「星の終末は爆発です」
「爆!?」
「そうならないように私がフォローします」
「直りきってんじゃないよ!」
 
彼らをみて、空井は自分の企画についてつぶやきました。
 
「俺もあと二年半かーーその間に自分の企画を実現できんのかな」
「してくれなきゃ困ります。楽しみにしてるんだから。空井さんの新しい夢。隣で見てますから。だから、早く実現させてください。私が取材しているうちに」
 
稲葉はそう空井に叱咤激励するのでした。
片山と比嘉は、稲葉がアイドルの取材で空井から離れたときに彼に言います。
 
「いなぴょん、丸くなったな。可愛くなった」
「稲葉さん、彼氏いますよ」
「マジ?!」
「しかも、イケメン。この前、牽制されました」
「奪え!」
 
という片山に比嘉も賛同します。
 
「奪いましょう!」
「いや、そんな人の幸せを壊すようなことを」
「グダグダうるさい! わかってんのか? 一緒にいたいと思える相手と一緒にいれる時間なんて限られてるんだぞ!ーーなんて、生意気な説教のお返し」
 
うろたえた空井ですが、片山の叱咤激励に笑ったのでした。
第6話の感想はここをクリック
人との出会いに恵まれていても、その人とともにいられる時間についてはあまり考えたこともありませんでした。
 
ともに働きたい人、ともに学んでいきたい人、ともに生きていきたい人との時間を常に大切にしていけたらと意識させる第6話です。
 
人との関わりのありがたさを実感したい時にぜひ見ていただきたいです。
 
まだ空井は稲葉に彼氏がいると勘違いしています。なにか進展する出来事が起きることを祈っていますが、どうやらまだまだ進展しなさそうです。
 
二人が幸せになる未来を期待しつつ、今後の話を楽しんでいきましょう。
<見逃し動画>第5話 「過去との再会・初めての告白」
 
TVerでの無料配信は終了しました
 
第5話の公式あらすじ

新企画 「自衛隊で活躍する女性幹部に密着!」 が通り、柚木 (水野美紀) が担当する高射群機動展開訓練の密着取材を進める リカ (新垣結衣) は、見違えるほど活き活きと仕事に取り組むようになっていた。
 
ある日、防衛大の見学からギクシャクしたままの柚木と 槙 (高橋努) の仲を取り持つため、空井 (綾野剛) に頼まれたリカは柚木を、空井は槙を誘い、行きつけの BAR に集合することに。気まずさからすぐ帰ろうする2人を何とか留めるリカ。そのうち柚木は11年前の高射隊にいた頃の話をし始めると、男らしく振舞う柚木に槙は再び反発し、結局ケンカ解散となってしまう。
 
翌日、柚木は、鷺坂 (柴田恭兵) から 古賀准尉 (的場浩司) が訓練にいることを知った槙から、訓練に補佐で参加させて欲しいと申し出があったことを聞くが、槙を一蹴してしまう。
 
いよいよ入間基地で高射隊の訓練がマスコミ公開で始まる。基地に着くなり 「槙は柚木の気持ちが分かっていない。」 と言うリカと 「槙の気持ちも知らないで柚木は強情すぎる。」 と言う空井とで言い争いをしていると、訓練に向かっていた車両が交通事故にあったと無線が入る。
11年前に柚木に何があったのか?槙が知る柚木の過去とは…?柚木は無事に高射隊訓練を終えることが出来るのだろうか…。
 
<出典>空飛ぶ広報室公式

第5話のネタバレはここをクリック
前回、帝都テレビの新しい自衛隊の企画のために女性自衛官を取り上げたいディレクターの稲葉リカ。彼女は空幕広報室の柚木典子に協力をお願いしますが、女性自衛官としてのさまざまな問題が行く手を阻むのでした。しかし、防衛大でのできごとをきっかけに彼女たちは一歩を踏み出し始めます。また、稲葉と空井大祐の二人の関係にも少しずつ変化が起きているのでした。
 
 
飲み会は嵐の予感
片山一尉が担当した漫画家への資料提供の打ち合わせ。
同行している空井は、漫画作家の碓氷が提供をお願いしている航空自衛隊の資料を準備することになりました。担当編集の浅野は意気揚々と連載に関して説明します。
 
「連載開始は来年、2011年の7月を予定しています。今回の作品も内容的にはSFなんですけど、部隊は今の日本なので実在の航空自衛隊さんをモデルにしようと思っているんです。なので、とりあえず、この辺の資料をお借りできたらと思っています」
 
「はいはい。おまかせください!」
 
資料を確認した片山は、必要な資料が思った以上に多いことに固まりました。そのまま、空井に丸投げします。
 
「空井全部集めてお送りして。なるはやで」
 
「月末までにご用意いただければ」と担当編集。
 
「月末!?」
 
編集の要望に焦る空井。そんな中、碓氷は彼の使うイーグルのボールペンをひたすら注視していました。このボールペンは、稲葉と空井で色違いのお揃いなのです。どうやら碓氷はボールペンがほしいようすですが、空井は片山にボールペンを取られて動揺してしまうのでした。
 
その頃、帝都テレビの情報局で稲葉も同じボールペンを見つめていました。彼女のようすを見てただならぬ雰囲気を感じた藤枝は指摘します。
 
「女の顔してる」
 
動揺する稲葉。
 
「何を! 普通です、普通。私、女だし」
 
空井のメールアドレスをゲットした佐藤にその後の進展を聞く藤枝。しかし、佐藤にめだった進展はないのでした。
自衛隊で活躍する女性自衛官に密着する企画についてのメールの話になると、阿久津チーフは稲葉に声をかけます。
 
「来週行くやつか?」
「はい。自衛隊で活躍する女性自衛官に密着する。柚木さんっていうんですけど、本人の許しがやっとでてーー」
 
「美人?」
 
藤枝が脇から口を挟み、たずねました。
 
「美人。だけど、中身はおっさん」
 
 
昼休みの空幕広報室。噂の当人である柚木は、広報室のソファーの上に股を広げた豪快な格好で横になっていました。いつもなら槙がたしなめるところですが、誰が指摘しても何も言いません。いつもと違う雰囲気に片山も比嘉も鷺坂室長も気づきました。
 
「柚木よ。今日はまた豪快だね」
「昨日ちょっと焼酎をやりすぎましてーー」
「まあ、昼休みに何をしようが、別にかまわないけどね」
 
そこへ先ほどの打ち合わせが終わった片山と空井が戻りました。空井は仕事を丸投げする片山に抗議しますが、彼は受け入れません。
 
「自分だけじゃ無理です。少しぐらい手分けしてくれてもよくないですか?」
「忙しいんだよ!」
「何の企画ですか?」
 
鷺坂は皆の雰囲気を修復しようと皆を飲み会に誘います。
 
「よし、今夜皆で飲み行こう! ビンクスからメールが届きました。『美味しいそら豆入荷しました!』」
 
しかし、柚木も槙も断っていってしまうのでした。
 
「なんなんだよ、あいつら。最近」
「まあまあ、そっとしておこう」
 
片山は堪えられない気持ちを口にしますが、それを室長は抑えるのでした。槙と柚木は以前に防衛大で言ってしまったことを互いに思い悩んでいました。
 
場面変わって、その頃の情報局。稲葉は阿久津チーフと自衛隊が行う「高射隊の機動展開訓練」について打ち合わせしていました。
 
「機動展開訓練の事前配布資料です」
「高射群?!」
「地対空ミサイルを扱うみたいです。読んで字の如し、高いところに向かって発射する、で高射。マスコミに公開されるのは深夜0時からの訓練で各社の報道もけっこう集まるみたいです」
「うちの番組で扱うなら、そもそもの説明がいるな。なんなんだかさっぱりわからん」
「じゃあ、説明用に昼間の訓練も取材できるかどうか聞いてみます」
 
生き生きと説明し仕事する稲葉。彼女の顔を覗き込んだ阿久津チーフは、真剣な表情で見つめました。
 
「顔が違うな」
「え?!」
 
指摘されて顔を手で隠す稲葉。
 
「最近、なんかいい顔してるじゃないか。前は毎日、不景気な面してたのになあ。仕事は楽しめ、そのほうが人生得だぞ」
 
稲葉は彼の言葉を聞いて意味深な表情。
 
「どうしたんですか。遺言みたいなこと言ってーー」
 
少し思案した後に稲葉は指摘しました。
 
「まさか、奥さん出て行っちゃったとかーー」
 
阿久津チーフは、その場に固まりました。
 
「え、本当に?! なんで!」
「稲葉、女ってーー」
 
そこへ、空井から電話がかかってきてしまいます。阿久津チーフは話しだした言葉が宙ぶらりんになり、もどかしそうに話を中断するのでした。
 
空井からの電話をとる稲葉。
 
「どうしました?」
「お願いがありまして」
「はい」
「付き合ってもらえませんか?」
 
いろいろ勘違いしそうになった稲葉は、一瞬固まりました。
 
「稲葉さん、聞こえてます?
「ああ、いつもの。空井さん話す順番おかしいから。仕事の話ですよね。何に付き合います?」
 
彼のいつもの癖を思い出して、稲葉は気を取り直します。
 
「仕事じゃなくて、プライベートの話なんです」
 
予想外の返しに稲葉はけっきょく戸惑います。
 
「プライベート?! あの、それ、どのプライベートなんですかね。自衛隊用語にあるんですかね、別の意味のプライベートが!?」
 
 
いつものバーのカウンターで待機する稲葉。その後やってきたのは柚木さんでした。
 
「あ、柚木さん!」
「お、こんなとこまで高射の勉強なんてモノ好きだね、あんたも」
「ごめんなさい」
 
稲葉は頭を下げて謝るのでした。そのとき、次にやってきたのは槙と空井。稲葉は申し訳無さそうな顔で皆を見つめます。
 
「俺、広報官だから、そんなに詳しくないよ」
「いや、単純に槙さんと飲みたいなーって」
 
男陣はのんきにそんな会話で入ってきましたが、状況に気づいた槙と柚木の二人は固まりました。そして、理解すると二人とも帰ろうとします。一生懸命に引き止める空井。帰る帰らないで揉める二人に稲葉は我慢できなくなり、大声を出します。
 
「マスター! 生ビール4つ!」
「今仕事じゃなくプライベートの時間ですから、早くビール飲みたいんでさっさと座ってもらえませんか。全員、もれなく!」
 
稲葉の剣幕に気圧されて全員がテーブルにつきました。そう、空井の「付き合って」というプライベートのお願いはこの飲み会だったのです。あまりの剣幕だったので空井は彼女に問います。
 
「何か怒ってますか?」
「いえ、一瞬でも動揺した自分がアホみたいなだけです」
 
そう言われても何も気づかない空井なのでした。
 
 
怪しい雲行き
その頃、同じように居酒屋で飲んでいる鷺坂室長と比嘉一曹の姿がありました。二人は空井と片山の心配をしています。
 
「空井は大丈夫かねえ。そっとしときゃいいのに」
「片山一尉が『なんとかしろ』とゴリ押ししたようで」
「あの二人には恋愛の機微はわからないだろうからねえ」
 
鷺坂は比嘉の昇進について心配します。
 
「昇任試験、このままずっと受けないつもり?」
「はい」
「片山気にしてたよ? 今日、片山は?」
「大きな企画が取れそうだって。詳しくは教えてくれませんでした」
 
そのとき、片山は音楽事務所で企画の打ち合わせをしていました。どうやら歌手のイベントに関わる企画を手に入れたようです。
居酒屋の二人は片山についてまだ語っていました。
 
「また二人でやればいいのに。なんて俺が言ったら、ますますへそ曲げちゃうか、あいつは。空井のことを任せっきりで悪いんだけど、片山のことも見ててやってよ。走りすぎてつんのめにならないように」
 
比嘉は優しく微笑みました。
 
バーの四人は、槙と柚木が話をしないので、空井と稲葉が話すだけに。話題は比嘉一曹のこと。比嘉はずっと広報で働いていて、小松基地にいた頃から広報を続けていたのだそう。そこを鷺坂室長が無理やり引き抜いたのでした。また、柚木三佐も室長に引き抜かれた一人。彼女は高射隊にいたころから鷺坂室長と一緒なのでとても恩を感じています。
 
「今でも感謝してる、室長には」
「なら心配させんでください」
 
稲葉と会話していた柚木の発言に、突然反応した槙。柚木は怒りました。
 
「なにそれ、心配って。あんたは知らないかもしれないけどね。室長が引き抜いてくれたときに、私に言ってくれたの。『ここでは自由にやりなさい』だから、私はそうしてきた。あんたにとやかく言われる筋合いはない。だいたい、皆に心配かけてんのはあんたのほうでしょうが」
 
立ち上がり、柚木は槙の目の前まで進み出ました。
 
「こないだから陰気臭くだまりくさって。そんなんだから空井みたいな小坊主にまで騙しくされんのよ。いい加減あんたも慣れな。私はこういうおっさんなの。もう昔とは違うの。それでいいでしょう」
 
そういう彼女を見て、槙は真剣な眼差しを向けます。
 
「残念だけど。どうあがいたって俺には男に見えません。アザラシみたいに転がってたって。どんなにガサツに振る舞っても、俺はあなたを女としてカウントするんです」
 
びっくりした表情で固まる柚木。
 
「あんた酔ってんでしょ」
「酔ってません」
「あたしは酔った。帰る」
 
そのまま、帰ってしまうのでした。その後を追う稲葉。彼女は空井に待っていてくれるように頼むと急いでバーを出ました。
 
バーで稲葉を一人で待つ空井のもとに、たまたま藤枝が居合わせます。前回から藤枝を稲葉の彼氏だと勘違いしている彼はとても動揺しました。その後、柚木と軽く会話をしたあとにバーに戻った稲葉でしたが、そこにいたのは藤枝だけでした。
 
「おお、おつかれちゃん」
「おつかれ。誰か会わなかった?」
「別に誰も」
 
 
翌朝、防衛省の中庭にて。
柚木と鷺坂室長は木の下のベンチにいました。
 
「室長、あたしは痛々しいですか? 無理してるように見えますか?」
「今のお前しか知らなければ、別になんとも思わないんじゃないの」
「それはつまり、痛々しいと」
「俺は始めに自由にやりなさいってそう言ったからね。今更、前言をひるがえすつもりはない。ーー槙から申し出があった。『昼間の機動展開訓練に柚木の補佐で行かせてください』って。昔、お前の下にいた古賀准尉が訓練に参加することを資料で見つけたんだろう。槙は知ってるからな、昔のことを全部」
 
柚木の脳裏に過去の悲惨な光景が浮かびました。
 
「少しくらいは頼ってみてもいいんじゃないかな」
 
諭すように彼女にいう鷺坂室長。しかし、柚木は立ち上がると通りかかった槙に言い放ちました。
 
「機動訓練ごとき、私一人で十分よ。あんたは留守番して放送でも見てなさい!」
 
室長はその光景に途方に暮れるのでした。
 
 
訓練と再会
高射訓練の当日、埼玉県の入間基地。
 
昼間の訓練から稲葉と坂手カメラマンたちは取材に入っていました。たくさんの飛行機やヘリに感激する坂手カメラマン。それにカメラアシスタントの大津は困り気味。 
 
稲葉たちを出迎えた空井ですが、どこかぎこちない態度です。
 
「こないだはすみませんでした。先に帰っちゃって」
「いえ、何か?」
「ちょっと用事を思い出しちゃって」
 
その頃、柚木は高射隊の皆に広報班として事前のミーティングをしていました。
歩いて現場に向かう稲葉たちと空井。
 
「柚木さんの部下だったって人は今どこに?」
「習志野の部隊の専任なので、来るのは夜中になります」
「鷺坂さんが『柚木が辛そうだったら、カメラを止めてくれ』って。槙さんけっきょく来なかったんですね」
「柚木三佐が強情すぎるんですよ。槙三佐の気も知らないで」
「槙さんだって柚木さんの気持ちわかってないと思いますけど」
「槙三佐は柚木三佐の気持ちをくんだうえで」
「別にいいじゃないですか。柚木さんがおっさんだって。誰に迷惑かけてるわけでもないし」
「あれー。稲葉さん女を捨てるのは敗北だって言ってませんでした?」
「言いましたけど、私はそう思うってだけで本人の自由じゃないですか」
「それはそうですけど」
「けっきょく男の人って、いかにも女の子みたいな人が好きなんですよね」
「そんなこといったら女の人だって、いかにもイケメンみたいな人が好きじゃないですか」
「私は興味ありません。イケメンなんて」
「あれはどうみてもイケメンでしょう」
「はい?」
「あ、どうでもいいんです。関係ないし」
 
ちょっと険悪なムードの二人を坂手と大津は後ろで苦笑いしながら見つめていました。
 
「なんか、なんなんですか?」
「え? なんですか?」
 
困惑気味の稲葉は、空井の含んだ言い方につっかかりました。
そこへ駆けつけた柚木が声をかけます。
 
「何も揉めてんのー! 高射隊の訓練撮るんでしょう! あっち!」
 
皆は駆け足で向かいました。
高射隊の訓練を前にして、皆は柚木の説明に耳を傾けます。
 
「高射隊は全国24箇所に配置されている航空自衛隊の最後の要」
「最後の要?」
 
空井が答えます。
 
「たとえば、他国のミサイルや戦闘機が侵入してきて自国の艦隊や戦闘機も突破されてしまった場合、残る手段は高射隊の迎撃のみになるからです」
 
空井から引き継いで、また柚木が説明します。
 
「戦争なんてあっちゃいけない。最後の要の出番なんて永遠に来ないほうがいい。でも、訓練する。いざとういうときに守るために。高射隊はとにかくチームワーク。いくら技術が進んでもそれを使うのは人間だからね。チームワークがなければ迅速には動けない。だから、高射隊は空自の中でも一番団結力が強いと言われてる。まあ、私はそのチームには入れなかったけどね」
 
柚木の横顔はどこか寂しそうでした。
 
 
とうとう深夜になり、各報道記者たちも集まってきた頃。
訓練の準備は順調のように見えましたが、各基地から集まった自衛隊の車両同士の接触事故が発生してしまいます。
 
接触事故を起こした車両の担当隊員が訓練本部に報告に参りましたが、それは過去に柚木の下にいた古賀准尉だったのでした。突然の再会に少しうろたえた表情の柚木。 
 
敬礼とともに古賀准尉は、柚木へ報告に入ります。
 
「一高隊、古賀准尉到着しました」
「空幕広報室、報道班、柚木三佐です。状況は」
「はい、発射機と待機車ーー」
「部外への影響が先!」
「部外への影響はありません。隊内の車両同士の接触事故です」
「原因と規模」
「近くで道を間違え、正規のルートに戻ろうとしたところで発射機と待機車が接触。整備が点検した所、接触箇所は少々へこみましたが、重大な損傷はなく、訓練に支障ありません」
「大したことなくてよかった。遅れは」
「30分ほど」
 
広報班は報道への発表をすることに。訓練を必要以上に送れさせないために皆は迅速に行動します。的確に素早い対応をする柚木。
 
「記者発表するよ! ただし、さっさと終わらせないと到着の瞬間を報道陣が逃すことになる。よって開始は10分後。古賀准尉、今すぐ事故の概要をまとめて! 広報室長に報告する。つないで。一高隊に連絡。到着時刻を00:30まで引き延ばせ。徐行でもなんでもしろ。空井、報道記者に伝えて」
 
柚木は空井にメディアトレーニングの注意事項を確認させた上で行かせました。
 
そして、始まった記者発表。柚木は意を決して報道陣の前に出ました。
 
「車両の点検により、到着が30分遅れ、お配りした訓練のスケジュールにも、順次、遅れが生じます。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
 
報道陣は質問に入ります。
 
「接触の現場はどこですか?」
「狭山市上原です。民間の建物や車両への被害はありません」
「訓練内容の変更や省略は」
「ありません。不測の事態を織り込んで訓練時間には余裕をとってあります。では、以上で」
 
と発表を終了しようとしたときに、無理矢理に質問をかぶせてくる記者が現れました。
 
「ぶつかったのは発射機ですよね? つまり、ミサイルを打つ」
 
突然のことにキョトンとしつつも応える柚木。
 
「はい。迎撃用の地対空ミサイルの機材です」
「そんな危険な機械が接触事故を起こしたのに、そのまま訓練して支障はないんですか?」
「支障がないことが確認されたので、訓練を続けております」
「確認っていってもね。こんな短時間でしょ。もし見えない部分に故障があったら、ここで大惨事が起こる可能性もあるんじゃないですか?」
「はい?」
 
あまりにも意味のわからない質問をする記者に柚木はとうとう首を傾げました。
 
「事故で訓練中止っていう不名誉な事態を避けるために安全性をおろそかにするなんて」
 
あまりにも横暴な発言をする記者。それでも柚木は必死に対応します。
 
「ですから、十分に安全を確認した上での続行です。間もなく到着しますので、以上で」
「逃げるんですか? 物はミサイルですよ。そんな低い意識で武器を扱ってるんですか、自衛隊は」
「あのねえ!」
「帝都テレビの稲葉です!」
 
柚木の堪忍袋の緒が切れそうになった瞬間、稲葉は挙手しました。
 
「ここにいる記者の中に、事前に配布された資料すら、まるで読んでないなんて人はいるはずはないと思うんですが。改めてお聞きします。発射機に搭載されているミサイルは?」
 
稲葉はわざと質問したのでした。
 
「もちろんダミーです。少々ぶつけようが、落っことそうが、安全この上ない代物です。なんなら、後ほどぶん投げてご覧に入れましょうか! なんてな」
 
場は笑いに包まれました。
 
「では、以上で終わります。急いで移動してください」
 
その後、到着した一高隊の撮影はなにごともなく無事に行われたのでした。
 
 
朝焼け
訓練が終了して、隊員たちは機材の点検に入っています。そこへ古賀准尉の部隊長である女性隊員が挨拶に現れたのでした。
 
敬礼とともに彼女は話し始めます。
 
「習志野一高隊、射撃小隊の中島二尉です。うちの隊がご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした」
「大事にならずよかった」
「はい、肝を冷やしました」
「配属されてどのくらい?
「一年になります」
「仕事はどう?」
「やりがいを感じています」
「そう」
 
柚木は彼女の笑顔を見てほっとしました。
古賀准尉のもとへ柚木は声をかけに行きます。
 
「准尉になられたんですね」
「あの、あの頃はーー」
 
そういうと古賀准尉は目を伏せました。
 
「あの頃の私は仕事もできないのに、肩肘ばかり張ってる小娘でした。お互い、少しは変わったってことですね。彼女、のびのびやれてるみたいだし」
「自分のくだらない自尊心で組織を停滞させることが二度とあってはならない。そう考えました。柚木三佐、本日はお疲れさまでした」
「ご苦労さまでした」
 
二人は敬礼して別れました。柚木の目には少し涙があり、どこか清々しい表情です。駆け寄る空井と稲葉。空にはきれいな朝焼けが広がっています。柚木は空を見上げてつぶやきました。
 
「キレイだね。あいつにも見せてあげたかったな」
 
 
訓練が終わった基地に二人だけ。空井と稲葉は、空を見上げていました。
 
「空井さんが雲の上から見ていた空は、もっときれいなんでしょうね」
「雲の上のもっともっと、もっと上です。高度が上がるほど青が濃くなって深くなって、この先に宇宙があるだって感じられて、澄んだ世界です」
「大違いですね、地上とは。ごちゃごちゃしてて、揉め事ばっかりで」
「だから楽しいんじゃないですか。こっちの世界は。色んな人がいて、いろんな気持ちがあって、きれいな朝焼けを一緒に見たいと思える人がいたりして」
 
空井は稲葉を見ました。しかし、稲葉は顔を慌ててそむけるのでした。
 
 
広報室に帰ってきた柚木を広報の皆は温かく迎えます。ギクシャクしていたはずの槙と柚木はいつの間にかもとに戻っていました。
 
室長室にて。今回の訓練の報告書を提出する柚木。
 
「昨夜の報告書です」
「ご苦労さん。今日はもういいから、帰って寝なさい。ここんところ、ろくに寝てないだろう、緊張して。記者発表の前はもっと緊張しただろうけどね」
「お見通しですか」
「よくやったよ、柚木。よくやった」
「はい。ずっと、引き抜いてくださったときからずっとご心配おかけして、すいまーーありがとうございました」
 
柚木は涙声でお辞儀しました。
 
「今度こそ、自由にやれそうです。自由すぎてもっとおっさんになっちゃうかもしれないですけど」
 
首を傾げつつ、鷺坂は笑って「まあいいか」と言うのでした。
 
その頃、本来は休むはずだったテレビ局に帰った柚木は悩ましげでした。挨拶をした阿久津チーフは柚木に声をかけます。
 
「おはようございます」
「ん? お前今日休むんじゃなかった?」
「帰っても眠れそうになかったんで」
「またトラブルか?」
「はい」
「はあ、お前なあ!」
「いやいや、あの、誰かを怒らせたとか、迷惑をかけたとか、そういうことじゃなくて、プライベートな気持ちの問題です」
「お前にも仕事以外の興味があったのか」
「それ酷くないですか」
「気持ちってもんは、とっとと決着つけちゃいいだろ。そういうもんは長引けば長引くほど熟成して、腐るぞ」
 
阿久津チーフはニヤっとしました。その言葉に後押しされ、稲葉は空井に電話します。「二人でお酒を飲みに行こう」と誘うためです。
 
「あの、二人でも飲みに行きませんか?」
「二人ですか? それ、仕事ですか? プライベートですか?」
「プライベートです」
 
彼の返答を星に願うような面持ちで待つ稲葉。
長く思案した空井は答えました。
 
「だったら、やめておきます」
 
電話終了後、崩れ落ちる稲葉。
 
「電話、空井くんと?」
「だったら何よ」
 
声をかけてきた藤枝につっかかる稲葉。
 
「やめとけ。ほんとは会ったんだよ、この前あの店で。まあ、わざわざ言うこともないかなって思ったんだけど」
 
藤枝はバーで空井に会った時に、好みのタイプを聞いていたのです。空井は、稲葉とは正反対のタイプの人といい、「自分自衛隊なんで、自分がいないときに家を守ってくれる家庭的な人とか」と答えたのでした。
 
「お前、正反対だって。下手打つと後々気まずくなるぞ」
「わかってる。ただちょっと嬉しかったんだよ。エレメントって言ってもらえて」
「エレメント?」
「近くを並んで飛ぶ2機の編隊」
「並んで飛ぶねえ」
「それってつまり、どこまで行っても並行線ってこと?!」
第5話の感想はここをクリック
過去のしがらみやトラウマを自身の力で乗り越えていく柚木の姿に感動しました。
 
また、そのときに支えてくれた周りの人の力や気持ちがとても大切であると実感する話で、現実でもそのような人たちを大事にしようと考えさせられます。さまざまな人がいて、考え方によって衝突も必ずありますが、少しでも以前の自分より成長していけることに喜びを感じたいです。
 
このドラマは見る度に視聴する側も前向きになれるのでとても心地よく見ることができます。
 
今回、勘違いをもっと加速させている空井が自分で地雷をつくっているので、早く解消されないかと待ちきれない思いになりました。
 
次回に期待しています。
<見逃し動画>第4話 「美女がオッサンになった理由」
 
TVerでの無料配信は終了しました
 
第4話の公式あらすじ

初めての自分の企画が好評でホッとした リカ (新垣結衣) と、初めてメインで担当した企画が好評で喜ぶ 空井 (綾野剛)。リカは次の企画も任せてもらえることになり、女性自衛官を取り上げたいと 柚木(水野美紀) に新企画の協力を求める。だが、自分に女性目線を期待するなんてどうかしていると一喝されてしまう。
 
一方、入間基地でマスコミ向け公開訓練を行うことを柚木に伝える 鷺坂 (柴田恭兵) は、「 本来なら柚木を行かせるところだが… 」 と口を濁す。昔、柚木の下にいた 
古賀准尉 (的場浩司) が訓練に参加することにどうやら理由があるようだ…。
ひょんなことから 珠輝 (大川藍) と空幕広報室のメンバーとの合コンをセッティングさせられたリカ。合コンにノリノリの 片山 (要潤) より無骨な 槙 (高橋努) が女性陣に人気があり不思議に思っていると、空井から企画の参考にもなるからと、防衛大出身の槙と防衛大に見学に行かないかと誘われる。
 
見学当日、リカが空井との待ち合わせ場所で待っていると、リカの前に現れたのは空井ではなく柚木だった。槙と同じく防衛大出身の柚木が学生時代に所属していた剣道部へと向かうと、剣道場から飛び出してきた 女子学生 (石橋菜津美) が泣いているところに遭遇する。心配するリカに反して、柚木は厳しい言葉を投げつけるだけ…。
そんな2人の後をこっそりと追っていた空井と槙。柚木の態度を見かねた槙は、学生時代の柚木をリカらに打ち明け、過去が徐々に明かされていく…。
 
<出典>空飛ぶ広報室公式

第4話のネタバレはここをクリック
前回、『帝都イブニング』の『働く制服シリーズ』の企画案が行き詰まっていたディレクターの稲葉リカ。しかし、空幕広報室との懇親会をきっかけにネタを入手。空井大祐のおかげで自衛官の結婚式を企画のメインとして取材を行うことができました。その取材をへて、空井は事故の怪我をきっかけに疎遠になっていた親友との絆の回復を果たしたのでした。
 
 
自衛官と合コン
「好評でしたか!」
「はい、おかげざまで!」
「今まで『働く制服シリーズ』の中で恋愛や結婚を取り上げた回ってなかったんですよ。だから、反響もけっこうあって」
「実はうちにも! 電話も何本か。どれも好意的で。いやあ、テレビの影響って、本当、すごいですね」
 
空井と稲葉は満面の笑み。空幕広報室で二人は『帝都イブニング』の『働く制服シリーズ』について話をしていました。とうとう放送された『働く制服シリーズ』の恋愛事情編は大好評で、空幕広報室にも何本かの電話があったほどの反響でした。「視聴率の1%は約18万世帯。今回の場合、約100万世帯が見たっていう計算になります」と説明された空井は、目を大きくするほど驚きます。
 
「初めての自分の企画が、うまくいってホッとしました」
「いや、僕も本当嬉しいです」
 
空井にとっても初めての企画だったので、彼の喜びもとても大きいのでした。
 
「で、次なんですけど」
「え! また取り上げてくれるんですか?!」
 
稲葉の提案にまた驚く空井。
 
「月1の特集か、ミニコーナーか、枠は企画次第なんですけど、上司が考えてみろって」
「何しますか? 何でも協力します」
「今回は女性ならではの視点を褒められたんです。だから、次はーー」
 
そこへデスクに戻るところの柚木さんが目に入った稲葉は、彼女に声をかけました。
 
「あ、柚木さん。次は柚木さんにも次の新しい企画に協力してほしいんですけど。女性自衛官を取り上げたいんです。女性から見た自衛隊って切り口で」
 
しかし、空幕広報室の皆が当たり前のように知っているほどに柚木は立ちふるまいがおっさんです。
 
「ん? ふざけてんの? 私に女性目線を期待するなんて、どうかしてんじゃないの?
「でも、女性ですよね」
「そうですけど、皆が知ってのとおり中身はおっさんです」
 
自分でおっさんを称するほどに柚木は女性であることを捨てたようなふるまいをしています。稲葉との会話が終わってトイレへと向かう柚木。広報室でトイレの話を公言してしまう彼女をいさめる槙でしたが、雑誌で叩かれあしらわれるのでした。
 
「あのガサツさは一生治んねえな」
「そういう生き物ですからね」
 
片山と比嘉の会話を尻目に、鷺坂室長は柚木の態度を悩ましげに見ていました。
 
突然、携帯がなります。稲葉は慌てて立ち上がりました。どうやらテレビ局からの電話のようで「ごめん、忘れてた! ありがとう」と答えました。相手は情報部の佐藤です。そのまま稲葉の電話は続きますが、広報室は彼女の「はあ!? それでなんで合コン!?」の一言で皆が注目することになりました。
 
「やんないって言ったでしょ。私はここに合コンのセッティングをしに来てるわけじゃないーー」という稲葉でしたが、片山が彼女の顔を覗き込むので、しぶしぶ合コンは開催されることに。
 
その日の夜、片山念願の合コンがに開催されました。民間の女性との合コンということで自衛官特有の言葉遣いを皆に禁止させる片山。お店に入る前に作戦会議が開かれていました。それを見つめる稲葉は「あの、みんな待ってますけどーー」と繰り返しています。メンバーは佐藤とその他二人の女性、幹事の稲葉。自衛官は空井、片山、槙、比嘉の四人。しかし、うち二人は彼女と妻がいるので実質男は二人だけ。
 
乾杯とともに佐藤は狙いである空井に話しかけました。
 
「空井さんって携帯の待受、何にしてるんですか?」
「えーと、これなんですけど」
 
空井は彼女に携帯をわたして画面を見せます。
 
「あ、ブルーインパルス!」
「ああ、よくご存知で」
「もちろんですよ。あの、私の携帯に空メールを打ってもいいですか?」
「あ、いいですよ」
 
送信される空メール。
 
「じゃあ、今度メールしますね」
「え、あ、はい」
 
待受のブルーインパルスをきっかけに、佐藤は簡単に彼のメールアドレスを手に入れました。しかし、あまりよくわかっていない空井。片山の寒いトークを挟みつつ、その後、女性陣の趣味についての質問で槙の趣味の話に。そこから防衛大の話にまで進みました。
 
「趣味は剣道です。今でも校友会にOBで参加しています」
 
槙の発言に首をかしげる稲葉。
 
「校友会?」
 
「防衛大学校の部活動です」と槙。
 
「防衛大学校は陸海空の幹部を育成するための学校なんです。この中だと、片山一尉とーー」
 
比嘉が一尉と発言しかけ、片山は凄まじい形相でうったえかけてきます。慌てて言い直す比嘉。
 
「片山さんと槙さんと柚木さんが防衛大出身で、僕のような一般の隊員より上の階級からのスタートになりますね」
「つまり、いきなり偉くなっちゃうってことですね」
 
その頃、柚木はまだ広報室で雑務をこなしていました。鷺坂室長も一緒です。鷺坂は彼女に「高射隊の年次射撃訓練について」の話をするところでした。なぜなら、今年の高射隊の射撃訓練は入間基地でマスコミ向けに公開することになったからです。
 
「国内では発射訓練はできないが、機動展開訓練は実際の道路をつかったほうが訓練の精度が上がるからね。入間、武山、習志野。三基地の合同演習ならキー局のテレビ取材が入るから、うちからも立ち合いが必要なの。本来なら、お前に行かせるところなんだが、千歳でお前の下にいた古賀曹長、彼、准尉になって今習志野にいる」
 
その名を聞いた柚木の脳裏に一人の男性の顔がよぎります。
 
「柚木、柚木、どうする?」
 
固まる柚木でしたが、「どうするもなにも、行きますよ。仕事ですから」と気丈に応えるのでした。
 
 
まだ続いている合コン。片山はまったく女性陣に興味を持ってもらえずに会話が空振っていました。最終的に投げやりになり、槙に彼女がいることを暴露するなど暴走してしまいます。そんな傍ら、空井は週末の防衛大への見学に稲葉を誘いました。
 
「あの、稲葉さん。一緒に防衛大行きませんか?」
「え?」
「あ、僕、航空学生の出身なんで。防衛大行ったことないし、企画の参考になればと。次の休み、槙さんにくっついて見学しに行くんです。海も近いし、いいところらしいですよ」
「行こうかなーー」
「じゃあ、週末に!」
 
OKをもらえたことで思わずガッツポーズしてしまうほど喜ぶ空井。そんな彼を見て、稲葉はほほえむのでした。
 
翌日、テレビ局に出勤する稲葉を坂手カメラマンが呼び止めていました。
 
「稲葉! また、ああいうのないの? ビューンっとさ、戦闘機」
「ああ、当分ない」
「そうか」
 
少し寂しそうな坂手の後ろ姿を見つつ、立ち尽くす稲葉。今まで自身の名前をちゃんと呼ばれたことがなかったので、突然の彼の変化に彼女は戸惑いました。
情報局でお茶を飲む阿久津チーフ。彼は稲葉に報道局のヘルプに行くように指示を出します。
 
「お前、今日、報道局へ行け」
「報道局?!」
「記者が七人、ウイルス性の胃腸炎で倒れたそうだ。しばらく、ヘルプで行って来い」
「なんで私が」
「即戦力がほしいと言われた。ま、せいぜい恩を売ってこい。ただし、喧嘩を売るなよ。どんなに腹が立ってもよその畑は荒すな」
 
少し複雑な表情で思案する稲葉。
空幕広報室にもその連絡が入りました。
 
「稲葉さん、当分こちらに来られないそうです。報道のヘルプに行くって」
「ああ、元は報道記者ですもんね」
「大喜びしてんじゃないの」
「どうでしょう。やっと情報局のディレクターに気持ち切り替わったところだから複雑なんじゃないかな」
 
比嘉と片山は稲葉が喜んでいるだろうと予想しますが、彼女の心境をおもって空井の表情は暗くなりました。そんな彼に片山は大きな声で荒ぶります。
 
「わかってんだねえ。モテる男は女心もわかるってやつかい!」
 
その後ろで槙は「高射隊の年次射撃訓練について」の資料を確認していました。資料内に古賀義正の名前を見つけた彼は、柚木を見つめるのでした。そこへ空井あての電話が入ります。それは航空自衛隊のテレビ企画を受けてくれる帝都テレビのバラエティディレクターからでした。
 
 
自衛官と男と女と
その頃の稲葉は、トイレで報道局へ行く心の準備をしていました。突然、トイレの個室から報道局の元同期である香塚ともみが赤い目をして出てきます。トイレを出ようとする彼女を稲葉は引き止めました。「まだ目が赤い」と伝えると彼女は慌てて個室へと戻ってしまいました。
 
稲葉が報道局に行くと、どこか大柄な態度の神崎が対応します。
 
「即戦力?!」
 
稲葉を足の先から頭の先まで眺めた神崎はそう言い放ちました。
 
「そうみたいです」
「まあ、いいや。人足りないし。何か当たり障りのない仕事あるでしょ」
 
明らかに不快な態度で対応するその男に稲葉も不服な表情。稲葉はトイレから戻ってきた香津を見つけて「あいつのせい?」とたずねましたが、「話しかけないで。女は無駄口が多いって言われるから」とあしらわれてしまいます。
 
VTRのセリフを書き起こす作業をする稲葉。その書き起こした原稿を神崎は添削しますが、すべての文章に難癖をつけられました。しかし、男性記者には「”てにをは”を気をつけろよ」と言っただけ。稲葉は眉をひそめて彼の原稿を確認します。
 
 
同じテレビ局内。空井はバラエティディレクターとの打ち合わせをしていました。ディレクターは飛行機が大好き。「他の番組に企画が取られてしまう前にと急いで受けた」と空井に満面の笑みで言いました。
 
「『爆笑セントラルパーク』で『クレユニ』の哲夫に乗ってもらおうと思ってるんですわ」
「『クレユニ』ってたしか、いま人気のお笑い芸人」
「そう、『クレイジーユニット』」
「番組内の罰ゲームでパンチのある乗り物を探してるんですよ。ゴールデンど真ん中、水曜夜8時、視聴率平均15%!」
 
戦闘機に乗せるのはお笑い芸人。人気のバラエティ番組で戦闘機を出せると空井はとても喜びました。打ち合わせ後、空井は情報局に顔を出しましたが稲葉はいませんでした。佐藤に教えられて局内の食堂に行くと稲葉とキャスターの藤枝が向かい合って昼食をとっているところでした。
 
「あれ、アナウンサーのーー」
「あの二人付き合ってます」
「え?」
 
佐藤の言葉に固まる空井。稲葉を見つめる彼の目は悲しげになりました。
 
「いや、女の勘です。しょっちゅう二人で飲んでるみたいですし、男と女の友情ってあるわけないじゃないですか。用があるなら待ちましょう。私とご飯を食べながらーー」
 
しかし、空井は佐藤の誘いを断って帰宅するのでした。
 
「『感傷的で合理性がない』冗談じゃないっての。あれ絶対、女が書いた原稿だって色眼鏡で見てるね」
 
稲葉は神崎に言われた言葉を繰り返し、藤枝に話していました。
 
「あの神崎って稲葉と入れ替わりで通信社から来たんだ」
「外の人か。女だからってなめられることよくあるけど、あそこまではなかなかいないよ」
「女が職場で戦うには2つの方法がある。女を武器にするか、女を捨てるか」
「その二択しかない社会なら、私は絶望する」
「絶望と来たか」
「男と女が男と女にしかなれない社会なんてつまんないと思うけど」
「男と女だからおもしろいんだろ」
 
 
うってかわって空幕広報室の室長室。槙は「入間基地での機動展開訓練」について室長に相談していました。柚木が行く訓練に彼も補佐で行きたいと申し出たのです。
 
「古賀准尉のこと?」と鷺坂室長は問うのでした。
そんな広報室に帰宅した空井。
 
「只今戻りました!」
「どうだった?」
 
比嘉と片山は期待して答えを待っていました。
 
「ゴールデンです!」
「「おおおお!」」
「お前、最近生意気!」
「大きな話なので、まずは室長に報告してきます。あれ、室長は?」
「あ、そうだ。今、槙三佐が」
「そうですかーーあ、柚木さん。週末に防衛大に行きませんか? 槙さんが剣道の指導に行くのに稲葉ーー。稲葉さんとついていくんです。柚木さん剣道部ですよね?」 
「行くわけないじゃん。めんどくさい」
 
その時、室長室から槙が戻ってきました。入れ替わる空井。
意気揚々と鷺坂室長に報告した空井でしたが、戦闘機搭乗を罰ゲームと同じ扱いをするのは良くないと伝えられます。それにやっと気づいた空井は大きく落胆しました。 
 
午後の帝都テレビの報道局では、稲葉が神崎に反撃していました。なんと男性記者の原稿と自身の原稿を入れ替えて添削してもらったのです。彼の反応は午前での添削とはまったく違うものでした。
 
「御子柴、”てにをは”も内容も問題なし。できるようになってきたじゃない。俺の指導の賜物か?」
 
男性記者の原稿を全面的にほめる神崎でしたが、その男性記者の手から原稿をひったくり稲葉が返答しました。
 
「お褒め頂き、光栄です。あ、私が書いたのこっちなんで」
「すいません!」
 
その状況を見て目を見開く神崎と大きな声で平謝りする男性記者。周りの人はその大きな声に注目しました。
 
「思い込みって怖いですねえ」
 
結局、一日で稲葉は情報局の方に返されてしまいます。それに怒る阿久津チーフ。
 
「たった一日で突っ返されるやつがいるかあ! 喧嘩を売るなっていっただろう!」
「売ってません! ハメただけで」
「一緒だ!」
「でも」
「でも、だって、だから! 女はすぐそれだ!」
「いま女とか関係ありません」
「ああ、関係ない。うちの女房の口癖だ」
「は?」
 
まくし立てた阿久津チーフは、疲れたように椅子に腰を下ろしました。自身を落ち着かせるようにお茶を一口飲みます。
 
「あのう、奥様となにかあったんですか?」
「実はなーー」
 
稲葉の語りかけに思わず乗ってしまう阿久津でしたが、最後には思い出したように彼女を怒鳴りつけるのでした。
 
「お前は反省しろお!」
 
翌日の空幕広報室には稲葉がいました。報道局であった顛末を鷺坂と空井に話しています。
 
「というわけで、早くもこちらに来られるようになった次第です」
「良かったというか、悪かったというかーー」
「後悔はしてません」
「強気だねえ」
「私は普通に働きたいだけなんです。男も女も関係なく」
 
稲葉の会話を耳に挟んで、柚木の頭に過去の出来事がよぎりました。過去に柚木は男性自衛官に女性だからという理由で特別扱いされたことがあったのです。
 
「だから、女を理由に馬鹿にする男がいたら、私はできる限り戦います。トイレで黙って泣くぐらいなら面と向かって理不尽だって言ってやったほうがいいと思うんです。じゃないといつまでたってもーー」
 
稲葉はまだ持論を語っていました。それに我慢できなくなった柚木は声をあげます。
 
「幸せなお嬢ちゃんだこと。まんまと相手をハメて、言いたいことをいって、さぞかし気分が良いでしょうねえ。自分はただのヘルプだしい。でも、同じ場所でずっと働かなきゃいけない子があなたみたいな軽率なことしたらどうなると思う? 理不尽だって叫べば叫ぶほど泥沼にはまることもある。自分の知ってる世界だけがすべてだって思わないで」
 
そのまま広報室をあとにする柚木。彼女は屋上へと向かいました。廊下で槙は彼女とすれ違いました。
 
「最初に配属された部隊で部下との折り合いが悪かったらしいんだ、柚木は気が強いから正面からガッツリやりあっちゃったみたい。男所帯で女たった一人、そりゃ孤立するって。そうなると女性だってことが邪魔にしかならない。次の部隊では上手くやろうって思ったみたい」
 
そう柚木の過去を説明する鷺坂室長。空井と稲葉の三人は室長室でその話を聞いていました。
 
「それから男みたいに」
「おっさんのフリが今ではすっかり板についちゃってるみたいだけどーー」
 
鷺坂はデスクの上にある新聞記事の切り抜きを見せます。キレイにまとめられた新聞記事の切り抜きには記事によって、柚木の字で説明とコメントが添えられていました。
 
「新聞記事をクリッピングするとき、柚木いつも俺が好きそうな記事までとっといてくれるの。几帳面にきれいにまとめて。本当は細やかな気遣いができる女性らしい人だと思う。女を捨てなきゃ勤まらない職場だと見切られるのは組織としてちょっと情けない。上司としては悔しいものがある。以前の柚木を知っている槙は、もっと悔しい思いをしてるんだと思う」
 
屋上で柚木は腕立て伏せをしていました。彼女の後を追った槙は、そのようすをただ見つめていました。槙は14年前の剣道部時代から女性らしい彼女のふるまいを知っていました。
 
「それ以上、男を磨いてどうすんですか」
「筋トレしてる? ケツたれてんじゃないの?」
「ケツとか言わんでください」
 
柚木は槙の言葉を笑って屋上を去っていきました。
 
 
その頃、室長室で稲葉はつぶやきました。
 
「私、柚木さんとちゃんと話してみたい。でも、嫌われてるから無理か」
 
鷺坂室長は稲葉を見ていいます。
 
「そうでもないと思う。いなぴょんのガッツ嫌いじゃないはずだし。運が良ければ、神風が吹くかもしれない。週末の天気、荒れるかもよ」
 
得意げに笑った鷺坂室長なのでした。
 
 
 
荒れる週末と剣道
数日後、電車で馬堀海岸まで来た稲葉。空は真っ青の晴天。乗り換えのバスを待っているとそこに来たのは柚木でした。
 
「悪い! 待たせた」
「なんで?!」
「ほんと、アホなんだからあいつら」
「え!?」
 
そんな二人の会話を槙と空井は影で見守っていました。室長の作戦で二人は遅刻というフリ、柚木がその代役を任されたのです。槙は柚木の口ぶりから気になり、空井に聞きます。
 
「室長、なんて電話したんですか」
「二日酔いで二人とも広報室でぶっ倒れてるって」
「酷いな」
「でも本当に来てくれるなんて」
「もともと、面倒見のいい人だから」
 
柚木はバスを待つ稲葉をおいて走り出しました。戸惑いながらも追いかけて走り出す稲葉。男性陣は大人しくバスに乗り、歩道を走る二人を眺めました。
 
「シゴキだ」
「稲葉さん頑張るなぁ」
 
「槙さんのポメラニアンみたいな民間の彼女ってーーあ、すみません。立ち入る気は」
「別れた。とっくの昔に。言うなよ。柚木三佐には」
「どうしてですか?」
「それぐらいの距離が丁度いいんだよ」
 
ほほえみながら言う槙の横顔を見て、空井は浮かない表情をしました。
 
ランニングでたどり着いた防衛大学校の前。稲葉と柚木は防衛大の中を歩きます。稲葉は彼女から防衛大の生活について聞きました。
 
「走ってる人たくさんいますね」
「全員、運動部への所属が義務付けられてるの。定期的に体力測定もあるし。夏は8キロ遠泳、冬はスキー訓練」
「勉強もするんですよね」
「もちろん。朝6時から22時半まで分刻み。起床して5分で畳んで点呼。3歩以上は走るべし。朝の清掃、朝食、朝礼。課業行進で校舎へ行き、座学やって戦闘訓練。終わったら掃除。昼食、午後の課業行進、再び授業。部活動、入浴、夕食、点呼のあとに自習時間がーー」
「あの、それ毎日?」
 
流れるように柚木の口から出る説明に稲葉はあぜんとしました。
 
「基本そうだね。4年もいれば慣れる。糞も出る。最初は便秘。タイミングがわかんないからさ。緊張もしてるしね」
「女子の倍率高いんですよね」
「学部によっては70倍くらい」
「70?!」
「毎年50人程度しかとらないから。私の頃はもっと少ない。職域開放の翌年だったし」
「職域開放?」
「戦闘職種以外のすべての職を女性に開放した。この防衛大も初めて女子の入学を認めた。私はその三期生」
「つまり、女性幹部が今以上に珍しかった」
「パンダ状態。たかだか10年ちょっと前の話よ。職種からして当然っちゃ当然かもしれないけど、そういう意味じゃ民間よりはるかに遅れてんの」
 
 
おっさんと過去
やっとたどり着いた武道場。柚木は防衛大だった頃、剣道部員でした。今日はその剣道の指導のため、防衛大に来たのです。剣道の練習をするたくさんの生徒の中で一人の生徒が、なんども怒鳴られては倒れています。面をとると、それは女の子でした。武道場をかけて出ていく女の子。目には涙がありました。思わず追いかける稲葉を柚木がとめます。女の子は武道場の影の木の下で泣いていました。
 
「ちょっと、ほっときな。入学して1ヶ月。へこたれて退学する生徒が一番多い時期が今なの」
「なおさら、ほっとけません。せっかく70倍勝ち抜いたのにもったいない」
「あのね、ここは普通の学校と違うの。学費も寮費もタダ。幾ばくかの給料も出る。それ全部税金なの。とっとやめたいやつにはやめてもらったほうがいいの」
「全員やめたらどうすんですか」
「あんたは防衛省の人間か!」
 
そんな二人の会話を聞いた女の子は口を挟みました
 
「私、やめませんから! やめたくて泣いてるんじゃありません!」
 
「じゃあ何よ。そんなとこでビービーみっともない」と柚木。
 
「女だから、体力も力も負けてて、ぜんぜん敵わなくて。でも、一番悔しいのはこんなことで、こんなことぐらいで泣いてしまう自分自身です」
 
女の子はそう言い捨てると涙を流しました。柚木はそれを聞くと黙って立ち去ります。後を追う稲葉。
 
「聞くだけ聞いて放置って、何か一言ぐらい」
「言うことなんてない。彼女の言ったことはそのとおりだし、ここは女だからって甘やかしてくれるような場所じゃない。今はいい、仲間もいる。でも、ここを出たら新米幹部として一人で現場につかなきゃなんない。待っているのは自分よりベテランの部下。右も左もわかんない女の上司なんて煙たがられることがほとんど」
「柚木さんの話ですか? 女だからって嫌がらせをされたんですか?」
 
柚木はため息をつくと近くのベンチに座りました。
 
「その逆、お嬢様扱いされた。お客さんみたいに。初めての女の上司。どう扱っていいかわかんなかったんだろうね。噛みついてやった。私は上司としてここに来てる。理不尽な扱いはしないでくれ。でも、言えば言うほど溝は深まった。誰もお嬢ちゃんの言うことはきかなくなった。ストレスで頭にハゲができた。それがいくつも。隠しきれなくなった頃、別の高射部隊にいた鷺坂室長に引き抜かれた。室長がいなかったら、たぶんそのまま潰れてた。ま、昔の話よ。その後はずっとうまいことやってる」 
 
「女を捨てることで? そうするしかないんですか? さっきの子にもそういうしかないんですか? 女を捨てるのって敗北なんじゃないですか。私は女を武器にするのも、捨てるのも、どっちも嫌です。普通に仕事をして、普通に認められたいんです。柚木さんがいる世界ではそれ無理なんですか? なにか、あの子にあげられる希望みたいなものないんでしょうか」
「希望ーー」
「私たち、あの子よりずっと長いこと女やってきたわけでしょう。なのに、女も案外悪くないよって言ってあげることできないんでしょうか」
 
「柚木先輩!」
 
影から見守っていた槙と空井。槙は突然、柚木に剣道の竹刀を投げ渡しました。
 
武道場で男の部員と手合わせする柚木。対等にどころか、まったく負けるようすのないとても強い柚木の姿がありました。稲葉と槙と空井の三人は彼女の姿を見て拍手しました。
 
「柚木さん強い」
 
稲葉は感嘆をもらしました。
 
「始めからから強かったわけじゃないんだよ。4年間、毎日道場に通ってたのあの人くらいじゃないかな。後輩に稽古つけながらよく言ってた。『訓練は勝ち負けじゃない。昨日までの自分を越えるものだ』って」
「戦うべき相手は男じゃなくて自分自身かーー」
 
槙の語る柚木の話に稲葉はそうつぶやきました。
柚木の力強い姿を見て、さきほど泣いていた女の子は励ましと元気をもらい、「柚木三佐、ご指導ありがとうございました」とお辞儀するのでした。
 
防衛大の屋上で稲葉と空井は、夕暮れの空の下で語っていました。
 
「柚木さん、かっこよかったですね」
「はい」
「今日の遅刻って、鷺坂室長の仕業ですよね」
「バレました?」
「バレバレですよ。チラチラ見えてるし」
「すみません」
「何が神風ーー」
「悪気はないんですよ」
「わかってます。鷺坂室長が柚木さんを助けてくれてよかった」
 
 
その頃、武道場には柚木と槙の二人だけがいました。
 
「あの頃、けっきょく槙には一度も勝てなかったよね。はあ、変わってないな。10年以上たつっていうのに」
「柚木先輩も変わっていません。あの頃と同じでした」
 
神妙な槙の言葉に、少し思案する柚木でしたが、気を取り直したようにおっさんをひろうします。
 
「ふ、何いってんの。私もあんたもすでにおっさんよ。さて、けぇるかあ! 稲葉たちどこいった? ああ、これ筋肉痛酷いわ。ケツかくのに一苦労だわ」
 
いつもの柚木のふるまいに、槙は我慢できずに大声をあげました。
 
「やめませんか! もう! 無理におっさんひけらかすの! 過去のことは越えればいいじゃないですか。キツい思いしたかもしれないけど」
「どっから聞いてたわけ、勝手に人の話」
「知ってました。ずっと前から。ずっと思ってました。いつまで過去を引きずっておっさんの芝居を続けるんだろうって」
「芝居じゃない!」
「そんなの!」
「あんたにはわからない! 恥かいたことない、あんたには!」
 
柚木は当時のようすをありありと思い出すのでした。古賀曹長の指示に従う自身の部下。古賀曹長に申し立てる柚木でしたが、女性一人でその状況をくつがえすことは難しく、彼女はトイレで黙って泣くしかなかったのです。しかし、空幕広報室の皆はそのままの彼女を受け入れています。だからこそ、槙は柚木のふるまいに悲しみを覚えているのでした。
 
 
「あの二人、うまくいくといいですね」
 
夕暮れの空を見ながら、稲葉は言いました。
 
「え?」
「私、槙さんやっぱり彼女いないと思います」
「女の勘ってやつですか?」
「ですかね」
 
稲葉の言葉に空井は動揺を隠せませんでした。帝都テレビの佐藤が言っていた女の勘が脳裏をよぎったからです。それでも稲葉との関係を終わらしたくない空井は、仕事という同じ目標に向かって進むことを宣言するのでした。
 
「僕たちはエレメントみたなもんなんで。最小単位。2機の編隊をエレメントっていうんです。互いを近くで感じて、五感をフルにつかって存在を意識しながら同じ場所を目指して飛ぶ。それがエレメント。僕と稲葉さん」
第4話の感想はここをクリック
自衛官として女性であることや男性であることの性差が働くにあたって大きな障害となってしまうことを実感する話でした。
 
どこの職場でも性差による問題はあると思いますが、稲葉と柚木がそれに向き合い各々の乗り越え方をしていることは対象的に見えておもしろかったです。職場によって程度の差はあれど、誰もが経験のある出来事なのかもしれません。多様化する社会について考えさせられる話で大変おもしろく見ることができました。
 
この回で空井が稲葉の男性関係について誤解してしまいました。
 
次回その話がどのように展開するのか楽しみです。
<見逃し動画>第3話 「覚悟のいる結婚…いつも笑顔でいよう」
 
TVerでの無料配信は終了しました
 
第3話の公式あらすじ

徐々に空幕広報室の人たちを理解し打ち解けていく リカ (新垣結衣) だったが、自分の担当である航空自衛隊の企画が思いつかず悩んでいた。同期の 藤枝 (桐山漣) や 珠輝 (大川藍) と相談をしているうちに “自衛官の恋愛事情” に観点を置くことをひらめく。
 
同じく、帝都テレビに企画を持ち込んだ 空井 (綾野剛) も企画に行き詰っていた。リカの企画の話を聞き、結婚を控えている戦闘機パイロットがいることをリカに話してしまう空井。すぐに飛びつくリカだったが、その結婚するパイロットとは最も空井が関わりたくない人物、元同僚の戦闘機パイロットの 峰永 (阿部丈二) だった。だが、少しずつ広報官として前向きになってきている空井は、峰永に勇気を振り絞って取材のお願いをすることに。
 
結婚式の当日を迎えたリカたちは、披露宴会場から峰永の婚約者・安奈 (川村ゆきえ) の両親がいないことに気付く。館内を探していると、安奈の父・紘一 (佐野史郎) と母・理恵子 (原日出子) が言い争っているところに居合わせてしまう。
 
今になっても峰永との結婚を認められないと言う紘一の理由とは?空井は過去を乗り越え、この取材をきっかけに峰永と無事に再会することが出来るのだろうか…。
 
<出典>空飛ぶ広報室公式

第3話のネタバレはここをクリック
「帝都イブニング」の街角グルメ企画を通して記者としての自身のおごりや間違いに気づき、過去の自分を受け入れることができた稲葉リカ。それとともに空井大祐や空幕広報室との距離も少しずつ近づき、空幕広報室との懇親会に参加したいと自ら申し出たのでした。
 
 
念願の懇親会
居酒屋で稲葉と空幕広報室の皆はテーブルについています。
 
「では、本日の懇親会の主役、稲葉リカさんに一言お願いします」
 
空井の言葉とともに稲葉は立ち上がりました。
 
「今更ではありますが、航空自衛隊さんを取材させていただくにあたり、皆さんをより深く理解したいと思いまして、今回参加させて頂きました。まだまだ勉強不足な私ではありますが、どうぞよろしくお願いします」
 
深くお辞儀をした稲葉。
 
「おい、殊勝になってるぞ」
「何が起こったんでしょう」
「きもちわり」
 
と片山と槙と柚木。以前とはまるで違う稲葉の言動に皆は驚きを隠せません。
 
「今まで以上によろしく、いなぴょん」
 
鷺坂室長は笑顔で稲葉に言葉を返しました。
同じように笑顔で応える稲葉。
 
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 
二人の受け答えにますます驚く皆。
 
「いなぴょん解禁?!」
「笑ってますよ」
「ええ、気持ち悪い」
 
「まさか、いなぴょんさんの双子の妹なんじゃ」と比嘉。
 
「それだ!」
 
「比嘉さんまで!」と空井はツッコみます。先ほどまで皆のはやし立てに乗らなかった比嘉一尉までが皆に加わってしまいました。少し表情が固くなる稲葉を見て、空井はフォリーします。
 
「ああーーギャップが、今までの」
「自業自得ですね。過去の自分の行いのせいですから、受け止めます」
「過去を真摯に受け止める。いいじゃないですか」
 
そういうと鷺坂は稲葉に座るように促すのでした。
乾杯の前に今回の会費を集め始める空井を見て、稲葉は「(会費額は)階級順なんですね」と問います。「自衛隊には接待・交際費が存在しません」と空井は、稲葉にも会費を募ります。また、広報室でのコーヒーといったお茶も自腹であると説明する比嘉。仕事の携帯代も自腹で、残業代も自衛隊には存在しません。「自衛隊は特別職国家公務員なので対象外なんです」と槙は説明しました。
 
「では改めて、空幕広報室にようこそ、いなぴょん!乾杯!」
 
こうして懇親会は始まりました。
わいわいと皆は楽しげに飲食に興じます。そんな中、稲葉は空井からテレビ番組用の企画書を渡されました。企画書を確認する稲葉。
 
「いいと思います。簡潔でまとまってるし」
「本当ですか?! ありがとうございます」
 
皆がガヤガヤと仕事の話をするのを鷺坂は止めに入りました。
 
「はいはいはい。仕事の話はもうおしまい。なんかこう、色っぽい話はないの?」
 
鷺坂の発言に挙手したのは片山です。
 
「はいはい! このメンツで色っぽい話ができんのは俺くらいっす」
「あんたのはフラれ話でしょ」
「それしか聞いたことがない!」
 
片山の自慢話に文句をつける柚木と槙。
 
「出たよ。自分は彼女いるからって」
 
「え!? いるんですか?」と仰天する空井。
 
「おかしいだろ。七不思議のレベルだろ」
「いや、そこまでは」
「どんな人なんですか?」
 
身を乗り出して問う稲葉は興味津々です。しかし、槙は面倒くさそうに答えます。
 
「僕の話はいいです」
 
代わりに勝手に答えだす柚木。
 
「なんかあ、こうちっちゃくて可愛い感じのポメラニアンみたな民間の女」
「会ったことないでしょうが」
 
二人の攻防はかまわず、興味津々に稲葉はまた問います。
 
「民間って普通の会社員の方ですか?」
「まあ、はい」
「ご結婚されてる方は?」
 
槙の話から一転して、皆に結婚の有無を確認しだす稲葉に比嘉が代表して答えました。結婚しているのは、比嘉と小暮と鷺坂室長だけでした。その他は皆、独身。自衛隊内では全体の1割未満しか女性がいないために良い人がいると争奪戦になってしまうそう。
 
「おっちゃん! ケツちょうだい!ケツ三本」
「ボンジリって言ってください!」
「鶏のケツでしょうが!」
 
居酒屋の亭主にボンジリを頼む柚木を見て固まる稲葉。柚木と槙は攻防を繰り広げます。
 
「もし彼女ができてもよ。転勤が多い。しかも、全国どこに行かされるかわからないのよ。離島のレーダーサイトに勤務したときは辛かったあ」
 
「国籍不明機の領空への侵入を24時間監視する場所です」と空井は説明します。
「まあ、どこも海っぺりで寂しいとこでね」と比嘉。
 
レーダーサイトに転勤になると彼女に全く会えなくなり破局まっしぐらになることを片山は苦しそうに語るのでした。
 
「空井はどうなの? 彼女」
「いないだろ、飛行機バカだし」
「いえーー」
 
と言いよどむ空井に皆が注目しました。
 
「すいません。いません。いないって決めてかかられるのも悔しかったので」
 
なぜか安心した表情の稲葉。
 
「いなぴょんは? 彼氏」
「え?! 仕事が恋人です」
「お相手にどうですか? 独身の自衛官」
 
鷺坂はそう勧めました。それに対して早とちりする稲葉はいらないことまでべらべらと話してしまいます。
 
「別に私はそりゃ助けてもらったりもしましたけど、空井さんに対してそういう気持ちは」
「いや、空井っていうか自衛官一般の話だったんだけどーー」
 
気づいた頃にはもう遅く、固まる稲葉。外野はそれをはやし立てます。
 
「二人怪しい」
「別になにもないです」
「あ、ムキになった」
「なってないし」
「ますます怪しい」
 
と皆のはやし立てに必死に答える稲葉を見て、空井は皆を止めようとしました。
 
「皆さんやめましょうよ」
「ここへは仕事できてるんです。自衛隊に仕事としての興味はありますけど、恋愛対象としての興味はまったくありません。別に不自由しているわけでもないし」
 
意地になって語ってしまう稲葉に固まる空井。そして、静まり返る懇親会場だったのでした。
 
帰り道、鷺坂は来週披露宴に呼ばれていると語ります。
 
「来週、披露宴呼ばれているけど、お相手は民間のお嬢さん」
「百里基地のパイロットでしたっけ?」
 
比嘉の質問に驚く空井。
 
「え?!」
「空井知ってるんじゃないの。峰永二尉」
 
その名を聞いて、空井は立ち止まってしまいました。
 
「あ、はい。よく知ってます。同期なんでーー」
「結婚の話は?」
「いえ、自分はもうずいぶん会ってなくて」
「そうかーー」
 
峰永二尉は、空井にとって元同期であり、すごく仲の良かった親友でもあるパイロットでした。交通事故での怪我以降に疎遠になっていたのです。自宅で峰永の番号を見て思案する空井でしたが、浮かない顔のまま床につくのでした。
 
 
自衛官と恋愛企画!?
翌日、空幕広報室にはクレームの電話が入りました。騒音被害に関するクレームです。当人は自衛隊基地の近くにあるアパートであることを承知した上で入居したのですが、思った以上に飛行時の騒音が酷くクレームを入れる自体に陥ったのでした。
 
クレーム対応を空井から変わる比嘉。
空井は鷺坂にクレームについて説明します。
 
「家賃が安かったから基地の近くに引っ越してきたんだそうです。いざ住んでみたら思ったよりも音がうるさかったってーー」
 
比嘉のクレーム対応を眺めつつ、二人は語ります。
 
「理不尽ですよね。元々住んでたなら、ともかく。あとから来て文句言われても」
 
空井の言うことは最もですが、鷺坂はそれにアドバイスしました。
 
「正義ってのはさ、人の数だけある。立ってる場所によって黒にも白にも見える。その中でなんとかご理解頂いてやっていくしかない。むしろ、ここに電話くれてよかったと思わにゃならん。こういうときこそ、うちの出番」
 
その頃、テレビ局の情報部では「働く制服シリーズ」について行き詰まった稲葉が自分のデスクでフリーズしていました。
 
「あれなに?」
「30分くらいフリーズしてます」
 
フリーズした稲葉を見て、藤枝は斎藤に聞きました。
 
「ああ、だめだ! 藤枝、何かない?」
 
唐突に動き出した稲葉は藤枝に振り向きます。
 
「主語を言え」
「航空自衛隊の企画!」
 
と稲葉はパソコンの画面を見せつけます。
 
「ああ、懇親会は?どうだった?」
「懇親どころか、関係をより悪化させて無事終了いたしました」
「無事じゃねえじゃん」
 
「稲葉さんらしい」と佐藤。
 
「絶対合コンなんてしませんからね」
「合コン?」
 
佐藤は空井との合コンを稲葉にお願いしているのです。
 
「あいつ、彼女いないの」
「そうみたいよ」
「だから合コン。向こうだって出会い少ないし、お互いにとっていい話じゃないですか」
「でも、自衛官と付き合うのって大変みたいよ。転勤多いし、それこそフラれネタにはつきないってーーああ! ネタあった!」
 
 
企画のネタを思いついた稲葉は、空幕広報室で鷺坂にインタビューしていました。企画書には「働く制服シリーズ~自衛官の恋愛事情編~」と記されています。
 
「転勤が多いですかね、その度に見知らぬ土地に行くことになります。奥さんからするとずいぶんと負担が大きいんです。でも、うちのワイフは行く先々で嬉々として散策に出かけるんです。スケッチブックをもって。で、私が休みの日にその散策の成果を披露してくれる。行く先々の土地が愛おしい場所になっていく。今では好きなところもたくさんあります。全部ワイフのおかげ」
 
そうインタビューに語る鷺坂さんの顔は穏やかです。「鷺坂室長って愛妻家ですね」と空井はしみじみと言いました。鷺坂室長から次のターゲットを探す稲葉ですが、広報室の皆は次々に逃げていきました。
 
テレビ局に戻った稲葉は、阿久津チーフに撮り終わったインタビュー映像の確認をしてもらいますが、彼は酷いインタビュー映像に黙り込みました。稲葉の企画説明を聞いていましたが、険しい顔で彼は言いました。
 
「面白そうな情報を並べてつなげるだけか? お前が批判してた唐揚げランキングと何一つ変わらんな。あれは、グルメ紹介だからあれでいい。だが、いまのは一体何を伝えたいんだ!?」
 
阿久津チーフは淡々と言っていましたが、最後は怒鳴り気味でした。
 
「何をってーー」
「こんな程度の低い質問を俺にさせるな」
 
 
同じテレビ局内。空井はテレビ番組用の企画をテレビスタッフに提案しているところでした。しかし、テレビスタッフはどこか興味なさげ。また、戦闘機に搭乗してもらうという企画内容のため、搭乗訓練にほぼ丸一日を要するということは人気俳優を起用するには大きな難題でした。
 
「興味のありそうなやつに配ってみますわ。私は自衛隊のたぐいのことはよくわからないもんで」
 
そういうとテレビスタッフは去っていきました。話し合いも終わった空井がテレビ局の休憩スペースに行くと稲葉がいました。声をかける空井。
 
「お疲れさまです」
「あ、お疲れさまです。どうでした? トップガンのデリバリー」
 
稲葉と同じテーブルにつく空井。
 
「やっぱり自衛隊って嫌われているんですかね」
「どうでしょう?」
「理解されないのは、自分たち広報の努力が足りないせいだって頭ではわかってるんですけど。でも実際、直接否定されると」
 
と暗い表情の空井に稲葉は同意しました。
 
「へこみますよね」
「はい。でも、よくよく考えたら、自分の場合ずっと基地勤務だったんで民間の人と直接せっすることってなかったんです。だから、自衛隊に対する直接的意見って本や新聞の文字の上でしか出会ったことなくて。あ、一度だけあったな。合コンで」
「合コン!?」
「僕たちが自衛官って知ったとたん。女の子たちがさーって。もうすごかったですよ。30分もしないうちに理由つけて帰られましたけど」
「あのう、うちの佐藤。ほら、あの、じゅえるって子。あの子がなんか空井さんと合コンしたいとかって言ってました。そういう人もいますよ。大丈夫ですよ」
 
気遣いにほほえむ空井。
 
「稲葉さんは自衛官と付き合うほど不自由してないけど」
「あれは言葉のアヤで」
 
空井は笑って答えます。
 
「わかってます。冗談です。勢いでいったんですよね。煽られて」
「わからないでください。勝手に」
 
少し不服そうな顔で稲葉は視線をそらしました。
 
「え?」
「私の方も企画詰まってます。言われてみれば確かにインタビュー並べるだけじゃ、番組として成立しないんですよね。何か中心になるネタがあればいいんですけど」
「中心ですか」
「なにかないですかね。自衛隊の大お見合いパーティとか、結婚間近の隊員が」
「あ、結婚ーー」
 
思わず結婚の単語に反応してしまった空井。
 
「いるんですか? 部隊は? どこの人ですか?
「戦闘機のパイロットーー」
「紹介してください。その話を中心にして、クライマックスは結婚式」
「向こうがオーケーするかどうか」
「聞いてみてください。お願いします」
 
困り顔の空井でしたが、その夜に百里基地の広報担当の大藪一尉に問い合わせるのでした。
 
「峰永二尉とお相手の方のご意向を最優先していただいてかまいません。だめならだめで、帝都テレビさんのほうにもご納得いただけますので」と空井は大藪に伝えます。
 
その後、親友の峰永に意を決して電話する空井でしたが、繋がらず留守番電話に伝言を残すだけとなったのでした。
 
 
スカイのライバル
後日、百里基地を訪れている稲葉と空井の二人。そこには一般の女性の方がいらしていました。彼女は峰永二尉の婚約者である滝川安奈でした。
 
「こちら滝川さん」と彼女を紹介するのは大藪一尉。
 
「はじめまして。帝都テレビの稲葉と申します。今回は取材を受けて頂き、ありがとうございます」
「いえ、私たちで良ければーー」
 
滝川は空井を見ると驚いたように目を見開きました。
 
「やっぱり安奈さんだったんですね」
 
「お久しぶりです」と滝川。
空井と滝川の口ぶりに大藪は聞きました。
 
「なんだ、面識あんのか」
 
「はい、以前ナッシュに紹介されて」と答える空井。滝川は近況を聞きます。
 
「空井さん、今は?」
「広報にいるんです、空幕の。帝都テレビさんの窓口を担当しています」
「そうなんですね。びっくりしました。圭ちゃん何にも教えてくれないから」
「ああ、あのう。峰永、取材のことなんてーー」
「受けるけどいいかって、それだけ」
「あ、そうですか。本日はよろしくお願いします」
 
空井はどこか寂しそうな表情でお辞儀しました。
 
撮影は基地の誘導路での準備から始まり、戦闘機が帰還するのを皆は待っていました。パイロットの峰永は今戦闘機に乗っているのです。滝川と稲葉は誘導路のそばで話をしていました。
 
「お二人はどこで知り合ったんですか?」
「ワインの試飲会です。峰永も私もワイン好きで」
「あ、ナッシュってブドウの品種からとったって」
「ええ、グルナッシュ。披露宴でも出します」
「へえ、こってますね」
「やっとここまでこぎつけたんで楽しいんです。父もなんとか納得してくれたし」
「反対されてたんですか?」
「少しだけ。でも、もうぜんぜん大丈夫です」
 
楽しげに語る滝川とそれを笑顔で聞く稲葉。
「でも、よかった。まさか、空井さんに会えるなんて」と滝川は喜びました。
 
「空井さんはスカイだったんですよねーー」
 
「あのう」と滝川は稲葉の顔を伺いました。
 
「あ、はい。聞いてます。事故のことも」
「二人は同期で、一番のライバルだったけど、一番仲が良くて。『披露宴に呼ばないの?』って聞いたら『呼べない』って。『来てほしいけど、俺にはそんな資格ない』ってそう言ってました」
 
峰永の言葉を代弁する滝川。
 
「資格がない?」
「残酷な約束をしてしまったってーー」
 
空井は空を見上げて、事故後の当時を思い返していました。
事故後、リハビリをしていた頃の空井に「お前とまたドッグ・ファイトするの空で待ってるから。俺、ずっと待ってるから。絶対帰ってこい」と峰永は言ってしまったのです。「わかった」と答えた空井。ですが、すでに彼の膝はもう努力でどうにかなる状態ではなく、それを彼は当時すでに知っていました。その後すぐに空井はパイロット罷免になり、峰永と彼は疎遠になってしまったのでした。
 
「峰永はずっと後悔しています」
 
そういう滝川。そのとき、空井が空を指差しました。
 
「来ます!」
 
豆粒のような戦闘機が遠くの空から基地へと迫ってきます。旋回しながら下降してくる戦闘機を眺めつつ、空井は戦闘機の着陸方法を説明していました。
 
「旅客機はストレートインですけど、戦闘機はオーバーヘッドアプローチ。周囲を周りながら着陸します。着陸時は一番攻撃されやすいから戦闘速度を維持するんです」 
 
着陸する戦闘機を眺める空井の目には涙がありました。無事に帰投する峰永。降りてきた彼に空井は静かに近づいていきます。正面から対峙する二人はじっと見つめ合い続けました。先に口を開いたのは峰永でした。
 
「よう!」
「おう!」
「背伸びたんじゃねえの」
「変わんねえよ」
「一年も経てばさ」
 
そして、二人は固く抱き合いました。
 
「待たせたな」
「遅いんだよ」
「結婚やるじゃん」
「へ、それだけは勝った!」
 
笑い合う二人ですが、空井は不意をついて峰永を投げました。
 
「おめでとう投げ!」
「てめえ!」
 
二人はじゃれ合うようにはしゃぎ回ります。それは空井がパイロットだった頃の二人とまったく変わっていませんでした。
 
 
ウェディング
峰永と滝川の披露宴、当日。たくさんの参列者に二人は祝われていました。しかし、新婦である滝川の父はどこか浮かない顔。披露宴は滞りなく進んでいきます。
 
「坂手さん、すみません。自衛隊っぽい物珍しい絵だけじゃなくて、彼らが笑ったり泣いたり、嬉しそうだったり、そういう普通の表情を中心に撮ってください。彼らのそういうところを見せたいんです」
 
ウェルカムボードを撮影していた坂手ですが、何も言わずに稲葉の申し出に素直に従うのでした。会場のようすを見ていた稲葉と空井。稲葉は新婦の滝川両親がいないことに気づきました。
 
「ずっといないですね。安奈さんのご両親」
「え? ほんとだ」
 
稲葉に言われて見渡した空井も気づきます。二人は会場内から外まで滝川両親を探し回りました。すると、外のテラス席で滝川の父である滝川紘一と母の滝川理恵子は話をしていました。稲葉と空井は二人のそばまで駆けつけます。
 
「十分話し合って決めたことでしょう」
「出たくないもんは出たくない」
「もう、ここまで来て何よお」
 
滝川母は滝川父を説得していましたが、断固として動かない滝川父。
 
「自衛官だぞ。しかも戦闘機のパイロットだなんて」
「圭介さん、いい人じゃない」
「あの男が悪いって言ってるんじゃない。仕事が悪いって言ってるんだ。毎日人殺しの練習をしてるようなもんじゃないか」
「あきれた」
 
二人の会話を聞いて、空井は苦しい表情をしました。稲葉も険しい顔で見守ります。
 
「圭介さんのことをそんなふうに。安奈が聞いたらなんていうか! 好きにしてください!」
 
そういうと滝川母は滝川父を置いて会場に戻ろうとします。そこで稲葉と空井がいることに気づきました。「すみません。あの人は他人ですから」というと滝川母は去っていくのでした。
 
空井は滝川父のいるテラス席に近寄り、名刺を出すと挨拶しました。テラス席に座ると稲葉を手招き。空井は誠心誠意に対応して、滝川父にわかってもらおうと自衛隊について説明します。
 
「わかってるよ。わかってるんだそんなことは。安奈にも散々言われた。それでも、それでもそんな命がけの仕事をしているような男のところに、どうして娘を嫁に出さなきゃいけないんだ!」
 
それは父としての心の叫び。しかし、後半の式に滝川父は参加していました。
披露宴の進行、次は鷺坂室長のスピーチとなりました。広報の室長がスピーチをするのは珍しいので、なぜ鷺坂室長がスピーチをするのだろうと稲葉と空井が話をしていると村瀬隊長が現れました。
 
「あ、隊長」と空井。
 
「私が鷺坂さんに頼んだんです。スピーチの鷺坂と言いまして、鷺坂さんがスピーチした夫婦は絶対に離婚しないってジンクスがあるんです」
 
「ご自身も愛妻家って感じですもんね」とつぶやく稲葉に村瀬隊長はしみじみ「そうでしたね」と返答しました。隊長の発言に引っかかる二人。
 
「でしたっていうのは?」
「ああ、失敬。鷺坂さんの奥さんは亡くなってるんです」
 
言葉を失う二人でしたが、特に空井は驚きを隠せません。
 
「なんだ、空井も知らなかったのか」
 
鷺坂室長は奥さんを亡くして15年がたっていました。
 
「峰永くん、安奈さん、この度はご結婚おめでとうございます。これから二人で幸せな家庭を築いていくことと思います。我々、自衛官というものは因果な職業でして、我々が活躍しないことがすなわち、世の平和でございます。
 
なので、普通のお宅では『あなた、もっとしっかり働きなさいよ』と妻が夫をどやしつけるところを『あなた、仕事で活躍できないんだから、せめて家の中で活躍しなさいよ』と休みの日にこき使われることもしばしば。これはうちに限った話かもしれません。
 
自衛官の男というものは家事一切ができるように教育されています。ですから、安奈さんチャンスです。遠慮なく峰永くんをこき使ってください。その代わりと言ってはなんですが、自衛官の妻となる安奈さんに一つだけお願いがございます。
 
峰永くんとどんなに大喧嘩したとしても、翌朝は笑顔で彼を送り出してあげてください。自衛官という職業はいつ何が起こってもおかしくない仕事です。そのとき、決して心残りのないようにとびっきりの笑顔で送り出してあげてください。
 
というのが、自衛隊の定番のスピーチなんですが、私これ、自衛官に限ったことではないと思うんです。どんな職業でも、どんなご夫婦でも。そして、送り出す方だけではなく、送られる方も必ず奥様に笑顔を返してあげてください」
 
鷺坂室長のスピーチを聞いた滝川父は、心にあった何かがとれたかのように娘夫婦を応援し、祝福し、泣いていました。そうして、無事に披露宴は終了したのです。披露宴の帰宅者を眺める稲葉と空井。
 
「稲葉さんがいなかったら、今日の幸せな日におめでとうも言えませんでした。ありがとうございました」
 
空井は稲葉に向かってお辞儀をしました。
 
「お役に立てたなら良かったです。余計なことしちゃったかなあって心配してたんで」
「余計なこと?」
「私いっつも勢いで言っちゃうというか、やっちゃうというか」
「大丈夫です。僕は広報官なんで、なんでもぶつけてください。そういうときこそ出番なんで」
 
 
夜、披露宴の打ち上げ。空幕広報室の独身グループは鷺坂に呼び出されていました。
 
「いやあ、いい式だったなあ。結婚式ってのはいいよねえ。ハッピーでさ。皆も早く結婚しなさいよ。休みの日だってのにデートもしないで。暇だなあ。寂しい!」
「確かに、寂しい。見事に独身ばっかり」
「誰が最初に結婚するかな。この五人の中で」
「この二人は無理じゃない? 方やおっさん、方やガツガツ」
 
片山は女性陣を指して言いました。それをきっかけに言い合いになる二人。二人を止めるために鷺坂はお酒をすすめましたが、それはある意味大変なことに。飲みすぎて泣き出す稲葉、おっさん柚木はそんな彼女を慰めるといった事態になったのでした。
第3話の感想はここをクリック
自衛官と結婚というテーマの話だったので、結婚式では花嫁の親の気持ちに感動して泣きました。
 
また、妻を亡くしている鷺坂室長のスピーチがとても心に残りました。自衛官という職業だけでなく、どんな職業であっても送り出すときは心残りがないように笑顔でというスピーチがすごくよかったです。
 
人間だからこそ、受け入れられない感情や境遇がありますが、それを乗り越えていく人たちの関わりはとても力強く輝かしかったです。
 
少しずつ距離の近づいていく稲葉と空井や空幕広報室の人たちの関係性を今後ももっと応援していきたいです。
 
次回、二人の関係の進展を期待しています。
<見逃し動画>第2話 「浅学非才・馬鹿丸出しの私…でも答えは自分で探す」
 
TVerでの無料配信は終了しました
 
第2話の公式あらすじ

空幕広報室を訪れた リカ (新垣結衣) は、柚木 (水野美紀) が落とした資料から防衛省で緊急記者会見が開かれることを知る。
大勢の記者たちがいる中、帝都テレビのクルーがいないことに気づいたリカは、柚木の制止も聞かず会見場に乗り込み 空井 (綾野剛) たちの前で報道記者として 空幕長 (モト冬樹) や 鷺坂 (柴田恭兵) に鋭い質問を浴びせる。
情報番組 「 帝都イブニング 」 で街角グルメ特集の編集中、リカは 阿久津 (生瀬勝久) から 「 そのままだと無能のままだぞ。」 と言われたことに納得がいかないでいた。
 
そんな中、番組企画の提案のため帝都テレビを訪問した空井にポツリポツリと自分の過去を話してしまったリカ。そのことを後悔していると、空井から連絡が入る。そして、空井との会話で自分の重大な間違いに気付く…。
 
<出典>空飛ぶ広報室公式

第2話のネタバレはここをクリック
「帝都テレビ」の稲葉リカは、「帝都イブニング」の「制服シリーズ」企画を通して空幕広報室の空井大祐と出会いました。今回「制服シリーズ」の企画対象は航空自衛隊。空井大祐は過去に戦闘機のパイロットでした。しかし、不慮の事故によってパイロットの資格を失っていたのです。傷心の空井でしたが、「稲葉さんの広報官として生きてみようと思います」と広報官としての新たな一歩を踏み出しました。
 
 
騙される稲葉とナポリタン
前回、ドラマ撮影を航空自衛隊の協力によって無事に成功させた稲葉。その協力のお礼に空幕広報室を訪れようとしていました。しかし、広報室から慌てて出てきた空幕広報室の報道班である柚木典子とぶつかってしまいます。
 
「ああ、もう!」
「すみません」
 
もっていた書類を散乱させる柚木を見て、稲葉はおもむろに書類を拾いました。拾い上げた書類には「ヘリコプター墜落事故について」の文字が。
 
「墜落?」
「あんたには関係ない」
 
そういうと稲葉のもっていた書類をひったくり、柚木は廊下を走り去っていきます。スクープの予感。稲葉は彼女の後を慌てて追います。
たどり着いた会場らしい部屋には、たくさんのカメラと報道の人たちが集まっていて、記者会見の準備がされていました。ちょうど始まる記者会見。突然にあらわれた稲葉に驚く空幕広報室の皆ですが、止める柚木の言葉も、空井の言葉をも聞かずに稲葉は席についてしまいました。
 
「これより、航空自衛隊所属の輸送ヘリ墜落事故について緊急記者会見を始めます」
「本日、10時12分、航空自衛隊入間基地に着陸しようとした輸送ヘリが制御不能におちいり、基地北部の稲荷山に墜落、炎上しました」
 
報告にざわめく会場。
 
「10時32分、入間基地消防小隊と地元消防本部により消火活動を開始」
 
記者たちは「民家の近くですよね?」「被害の状況は?」と矢継ぎ早に問います。
 
「消火活動は継続しております。この墜落により、操縦士と副操縦士が死亡」
 
空幕長の説明の後に、鷺坂室長が口をはさみました。
 
「すいません。乗組員についての情報に訂正があります。二名とも重体で病院に搬送され、操縦士のほうは間もなく死亡。ですが、副操縦士のほうは、いまだ治療中であります」
 
「どちらが正しいのか」と問う記者に対して、鷺坂は「空幕長の情報が誤りです」と説明します。
 
「発表に間違いがありました。申し訳ありません」
 
空幕長は平謝りしました。情報があいまいなところも多く、また未確認の情報がテレビ局にあるためにあまり詳しく説明のできない防衛省側に記者たちは苛立ちました。 
 
「先ほど近隣に被害はないとおっしゃいましたよね。帝都テレビの稲葉です。十分な確認をしないまま、被害はないと言い切ったわけですか?」
 
稲葉は立ち上がり、挙手して発言します。それに対して、鷺坂は空幕長に変わり、うけ答えました。
 
「現時点ではお答えしかねます」
「あまりに無責任じゃないですか」
「無論、あってはならないことだと認識しております」
「そのあってはならない万が一が起こったってことですよね」
「事実関係を確認し次第、しかるべき対応を取らさせていただきます。その上で改めて説明、もしくは謝罪の場をもうけさせていただきます。申し訳ありません」
 
記者会見が終わり、稲葉は帝都テレビの報道部に電話を入れつつ、部屋を出ようとします。声をかける空井ですが、話を聞かない稲葉。空井は彼女を無理やり引きとめ、「記者会見シュミレーション会場」の看板をみせたのでした。
 
記者会見後の空幕広報室、稲葉はぐったりとソファについていました。報道班の槙博巳は、そんな稲葉にシュミレーションの資料を差し出しました。今回の記者会見は、有事の際のマスコミへの対応を訓練するためのシュミレーションだったのです。
 
「自衛隊ってこんなことまでしてるんですね」
「報道班としても初の試みでした」
「報道班?」
 
報道班の槙の発言に首をかしげる稲葉は、空井に聞き返しました。彼の説明によると、空幕広報室は広報班と報道班の2つに分かれているそう。広報に関する仕事は片山、比嘉、空井たちのグループ。報道に関する仕事は、槙と柚木たちのグループが担当しているのです。
 
「あ、今日はどうされたんですか?」
「ああ!」
 
空井は思い出したように訪ねました。それで慌てて手土産を取りに行く稲葉。手土産は柚木とぶつかったときのままで廊下に忘れられていたのです。
 
「先日はドラマの撮影にご協力いただきありがとうございました。おかげで平均視聴率も18%で」
「こちらこそ」
 
互いに頭を下げ合います。ドラマの瞬間視聴率は20%と好評でした。
 
「で、これ、つまらないものですが」
 
と稲葉が出した手土産は落とした際に角が潰れてしまっていました。
 
「潰れているものの間違いなんじゃないの?」
 
手土産を見た柚木がツッコみました。その発言をたしなめる槙。
 
「このへこみに、いなぴょんのガッツを感じるね」
 
そういう鷺坂の発言をきっかけに広報室の皆は口々に稲葉のガツガツした態度をいじります。
 
「まさにガツガツ!」と柚木。
「質問もガツガツだったな」と呆れ顔の片山。
「痛いところをガツンとつかれまれましたね」と笑顔の比嘉。
 
「すごかったです。次から次で」
 
褒めるのは空井だけでした。「しかも、いちいち攻撃的」と最後に付け加えたのは柚木です。そんな彼らの言葉に戸惑いつつも、稲葉は「あれくらい普通です」と反撃します。
 
「ま、記者さんたちがよくやる手なんだよね」と鷺坂。
「わざと辛辣な質問をして、相手を追い詰め、美味しい反応を引き出すっていう、そういう卑怯な戦法のことだ」
 
片山は少し辛辣に話をまとめました。
 
帰り際、空井は「もっとお近づきになりたい」と稲葉を食事に誘いますが、それは空幕広報室と稲葉との懇親会のお誘いでした。彼の言葉に勘違いをする稲葉でしたが、お誘いの内容をしって落胆。そして、「今は情報局のディレクターですが、報道部に戻るつもりなので」と懇親会を断ります。
 
その日の午後は、街角グルメの企画で洋食ナポリでのナポリタンの撮影でした。稲葉は普通のナポリタンと変わらないレシピに困り、カメラマンに撮影で特徴をつけられないかと提案しますが、折り合いがつかずに普通に撮影することにするのでした。
 
 
ナポリタンと不器用な二人
「比嘉一曹、見て頂けますか」
「拝見さーーお、ほう。すぐに、読みますね」
「はい、おねがいします」
 
空井から差し出されたテレビ番組用の企画書に比嘉は言いよどみました。
 
「空井!」
 
突然呼び出したのは鷺坂です。
 
「はい!」
「どうだった。いなぴょんとの懇親会」
「あーー」
「何よ、女の子一人も誘えないわけ」
 
空井の失態に不服そうな鷺坂。
 
「いや、そういうことじゃ」
「次はデートのつもりで誘いなさい」
 
鷺坂のアドバイスに空井は戸惑いました。
 
「いや、それおかしくないですか」
「広報ってのはコミュニケーションが大事だ。女性にモテるぐらいじゃないと。誰とはいいませんが」
 
胸を張る鷺坂。
 
「でも、稲葉さん報道記者に戻るって言ってました」
「報道?」
 
語る二人の脇で、広報班の二人はワイワイと盛り上がっていました。
 
「なんだこりゃ!?」
「片山一尉!」
 
片山に空井の企画書を横取りされる比嘉。
 
「室長、これ傑作! 空井が書いたテレビ番組用の企画書。『航空祭 その概要と魅力』って大学生のレポートか!」
 
片山は冷やかすように室長に説明します。
 
「後半に来たね」
「航空祭って人気あるじゃないですか。テレビの特集とかで取り上げてもらえないかと思いまして」
 
クソ真面目に説明する空井。
片山は空井の書いたテレビ番組用の企画書の1ページ目の始まりを音読します。
 
「国防の意義! 航空自衛隊が社会に果たす役割」
「ちょっとガチガチだなあ」
「え、大事じゃないですか」
 
皆の指摘に国防の意義の重要性を語る空井ですが、片山はすぐさま口を挟みます。
 
「読まねえよ、誰も。もらってすぐ、はいドーン!」
 
「ドーン」の言葉とともに企画書はゴミ箱に投げ込まれました。
 
「片山一尉!ドーンしない!」
 
片山の行動をたしなめ、企画書を拾い上げる比嘉。「ものになるまで何年になるやら。期待して損した」というと片山は席を外しました。
 
「自分期待されてたんですか」
 
片山の言葉に驚いた空井は、鷺坂に問います。
 
「パイロットが来るって喜んでたよ」と以前の片山について説明する鷺坂。
比嘉は企画書の内容を訂正するように空井にアドバイスします。参考は片山一尉の過去の企画書です。空井の書いた企画書ではただの報告書でしかありません。
 
「これでは企画書というより報告書ですね。こちら、片山一尉が作った過去の企画書です。これを参考に直してみてください。国防の意義は省いて」
「でも、国防は自分たちの本分ですよね」
「あちらの興味はテレビの企画として面白いかどうかだけです」
「それじゃただの見せ物にーー」
「それでもいいんです。まずはとっかかり。興味をもってもらう、その先に理解があります」
 
比嘉のアドバイスを聞いた鷺坂は、さらに空井に提案します。
 
「いなぴょんに見せるつもりで作ったら?」
「ああ、いいですね。目標設定としては妥当です」
 
比嘉もその提案に賛同し、空井は稲葉のために企画書を作ることになるのでした。
 
その頃、テレビ局で稲葉は街角グルメの収録をしていました。その状況を見ていた阿久津チーフは稲葉に問います。
 
「稲葉、この店なんでコールスローがついてんだ?」
「なんでって、店によっていろんなサラダがセットでついてます。どこでもなんかしら」
「念の為聞くが、これ誰の気持ちだ? 懐かしいって」
 
ナレーションのセリフの一文を指し示して、阿久津は問いました。
 
「気持ちもなにも、一般論です。他に特徴ないんで、何か問題でも?」
「問題はない。ないが、お前そのままだと、一生無能のままだぞ」
「は?」
「客が来てる。終わったら隣にいけ」
 
そのまま阿久津チーフは去っていきました。
 
「阿久津さんの別名知ってる?」
 
ナレーションの収録を終えた藤枝がとうとつに言います。
 
「何よ?」
「阿久津守、またの名を街角グルメの仙人」
「仙人って枯れちゃってんじゃん」
「たしかに。なんでだろうね」
「仙人とか詐欺師とかうさんくさいのばっか」
 
収録を終えて向かった先にいた客人は空井でした。空井は稲葉にテレビ番組用の企画書を見せに来たのです。二人は局内の休憩・談話スペースで語ります。企画書を確認する稲葉は、「戦闘機の訓練は護身術である」という一文に興味を持ちました。
 
「こないだ、稲葉さんは言ってたじゃないですか。戦闘機は人殺しの道具だって。どういったらわかってもらえるかなって。護身術を学んでる女性は、誰かと戦いたくてやってるわけじゃないですよね。僕たちも同じなんです。誰かと戦いたくてやってるわけじゃない。いざというとき、守れるよう訓練してるんです」
「守る。国を?」
「僕の場合は人ですね。国って大きすぎて複雑だし、それより、友だちとか家族とか大切な人たちがここにいると思うと、それを守りたいって思えるんです。わかっていただけますか?」
 
静かにうなずき、返事をした稲葉に彼はほっとして「良かった」とうなずきました。
 
「でもこれ、この航空ショー、番組になりません。これだとただ飛んでる飛行機やヘリを順に映すだけですよね」
「あ、それでも面白いんですよ」
「航空ファンにとってはそうでしょうけど、ほとんどの人が違います。空井さんの常識と私たち一般の認識って空井さんが思ってるより遠いと思います」
 
打ち合わせが終わって帰ろうとする空井は、改めて稲葉を懇親会に誘おうと声をかけようとしましたが、そこへ報道部の稲葉の元同期である香塚が来てしまいます。彼女は勝手に稲葉の過去を語り出しました。場違いと感じた空井は立ち去ろうとするのでした。そんな空井を追いかける稲葉。
 
「空井さん!」
 
彼を呼び止めた稲葉は、過去にあった自身の失敗を語りだしました。
 
「取材相手に訴えられたんです。それで報道局から飛ばされて。記者に戻るなんていっても、戻れるかどうか」
「あの、もし話したくなければーー」
 
辛そうに語る稲葉を見て、空井は止めようとします。しかし、稲葉はかまわずに話します。
 
「ある事件の容疑者を追っていました。記者の間で逮捕も間近だって話で。各社ともコメントを撮ろうって躍起になっていました。本人がだめなら、周囲の人間。私は容疑者の奥さんに狙いを定めて、いつもどおり粘りました。何日かしたある日ーー」
 
稲葉は執拗に容疑者の奥さんに張りつき、毎日質問攻めにした過去を思い返しました。ある日、その奥さんは稲葉に追われつづけたことで発狂してしまったのです。
 
「いくら粘っても何も出るわけがなかったんです。彼女の夫は逮捕はされたけど、起訴はされなかった。犯人は別の人でした。それで、うちの局にーー」
 
稲葉の行動に迷惑をこうむった元容疑者の夫は、テレビ局まで来て訴えたのでした。
 
「お詫びはきちんとして、示談で収まりました。でも、社内での評価はひっくり返った。たしかに、やりすぎたのかもしれません。あってはならないことだともわかってます。でも、あの人たちは、あの時点では容疑者とその妻だった。私は自分の仕事をしただけです。運が悪かったんです」
 
 
その夜、空井は居酒屋に集まる空幕広報室の皆に頭を下げていました。
 
「すいませんでした。稲葉さん連れてこれなくて」
「いいよいいよ。一緒に飲んでも不快指数、高そうだし」
「あのガツガツと懇親しても意味ないしね」
 
柚木は面倒くさそうにします。
 
「広報にとっては大事なお客様ですよ」
 
そんな柚木をたしなめる比嘉。
 
「ならそっちでやってよ。あのお姉ちゃんの相手すんの、おたくら広報班の仕事でしょ」
「女性の方がいたほうが、来やすいと思いまして」
 
空井はただ一人の女性である柚木にそう言いました。
 
「誰が女だって?」
「ついに性別まで忘れましたか」
 
柚木の問題発言に槙はすぐさま反応します。
 
「私に女を期待すんなってこと!」
「なんですか、その足!」
 
槙は片足を立てて座り直した柚木をたしなめるのでした。そんな部下たちを眺めつつ、鷺坂は空井を手招きして呼びました。
 
「二人、いいコンビですね」
 
柚木と槙のかけあいを見て、空井は鷺坂に言います。
 
「意外とね、複雑なのよ。歴史があるからな」
「ああ」
「しかし、空井はいなぴょんに二連敗か。手強いね」
「今日は余計なことをしました。たぶん、見られたくないであろう姿を見てしまいました」
 
その頃、「人はどうして、話さなくていいことまで話してしまうんだろうね」と稲葉は後悔していました。いつものバーで藤枝と飲みながら、語る稲葉。
 
「そりゃ、聞いてほしいからじゃないの。または、自分をわかってほしいとか」
「あの人に?」
「どの人? あ、悲劇のパイロットーー」
「違うよ! ただ勢いで話しちゃっただけで」
「局に来たんだって?って聞こうとしただけ。あいつかあ、早くも弱みを見せるとか、稲葉にしちゃ急展開だな」
「先に見せたのはあっち。同病相哀れむってやつかな」
 
 
空幕広報室と報道記者
翌日、情報部に出勤した稲葉。阿久津チーフは、稲葉に「制服シリーズ」企画の進行状況を確認します。彼女は悲劇のパイロットを題材にした企画をチーフに提案していたのです。
 
「『働く制服シリーズ』はどうなってる。こないだ来た自衛官だろう? 例の悲劇のパイロット」
「あのネタをやめようとおもって、すぐにすぐ、別のネタ考えますから」
 
稲葉をじーっと見つめる阿久津ですが、話をナポリタンに突然変更します。
 
「ナポリタンはあのままか?」
「そうですけどーー」
 
阿久津は何も返答しないまま自分のデスクへと戻っていくのでした。そこへ空幕広報室から電話がかかってきました。そのまま稲葉は防衛省へ出向くことに。
 
防衛省へ呼び出された理由は、先日あったメディアトレーニングの記者会見シュミレーションの口供のためでした。稲葉はマスコミ代表として呼ばれたのです。防衛省の人たちと共に記者会見の映像を確認しながら、皆は今後の対策と注意点を話し合いました。
 
ミーティングが終わると空幕長は、稲葉に挨拶に来ました。
 
「帝都テレビの稲葉リカさん、カッコよかったです。真実を追求するという強い意思を感じました。いや、難しいよね、記者会見って。まあ、慣れなきゃならないんだろうけど、慣れすぎちゃってもね」
「もうちょっとだけ慣れていただかないと、フォローが大変なんですから」
「こりゃまいったな」
 
笑い合う鷺坂と空幕長。
 
「じゃ、これからもよろしく」
 
「どうも」と稲葉はお辞儀しました。
空幕長が去ったあと、稲葉は広報室の人たちに問いました。
 
「今の方は航空自衛隊のトップの方ですよね」
「はい、航空幕僚長です」
「まあ、親しみやすいお人柄でしょう」
「どうぞ」
 
片山はソファーに彼女を促しました。「空自の体質ってのもあるよな」と片山。
 
「体質?」
「たとえば、記者会見で幕長の発言にミスがあったとき、『幕長それ間違ってます」と記者の前でもヅケヅケ指摘するのが空自です」
「してました、さっき」
 
先ほどの幕長たちのふるまいを思い出して稲葉は言います。
 
「各自衛隊の体質をあらわす標語がありましてね。陸自は『用意周到・動脈硬化』、海自は『伝統墨守・唯我独尊』、そして我が空自は」
 
そこまで言うと、片山は空井に答えを促します。
「『勇猛果敢・支離滅裂』」と答える空井。
 
「鷺坂室長がまさにそれだな。私もその筋を受け継いでます」
「支離滅裂?」
 
片山の発言に稲葉は冗談めかして言いました。
「勇猛果敢です!」と食い気味に言う片山。
 
「この標語を考えたのはですね。何十年か前に防衛省に出入りしていた記者だって話です」
「あ、そうなんですか」
「なんだ、知らないのか」
 
この話を知らなかった空井は興味深げです。
 
「たしかに記者が言いそうな皮肉ですけど、よく皆さん怒りませんね」
「ちゃんとね、オチがね、ありますからね」
「記者会の標語はなんと『浅学非才、馬鹿丸出し』」
「一番酷いじゃないですか」
「だから、いいんじゃないか。自衛隊を皮肉りつつも、マスコミの立場を笠に着ないで自分たちを一番落とす」
「そうか、かっこいいっすね」
「これ考えた記者は信用できそうだろう」
 
 
懐かしいナポリタン
その日の防衛省での予定が終了しました。稲葉は防衛省から帰るために、空井とともに基地の誘導路の近くにいます。滑走路に出る手前では国産輸送ジェット機C-1がゆっくりと走行していました。そのジェット機は飛行のために『ラストチャンスエリア』と呼ばれる位置で機体の最終確認を行うところでした。
 
空井は『ラストチャンスエリア』で行う最終確認について稲葉に説明します。
 
「『ラストチャンスエリア』は戦闘機が離陸する前の最終点検エリアです。もちろん、あそこに出るまでにも烈戦整備員が飛行前点検を行い、パイロット自身も百項目を超える点検を行います。それでも、最後の最後にまた点検を行う」
「だから、ラストチャンス」
「はい。稲葉さんも言ったように、万が一があってはいけないんです。何かあったとき、運が悪かったといっても誰も納得してくれません」
 
そういうと空井は彼女の過去を思い出し、自身の発言について慌てて謝罪します。稲葉も先日の自分の過去の話について謝罪するのでした。しかし、とうとつに空井は話題を変更しました。
 
「街角グルメ、そんなにだめですか?」
「へ?」
「僕この前行っちゃいました。見てたら食べたくなって。石川さんとも話しましたよ。亭主の。二代目だっていうから、お父さんの跡を継いだのかと思ったら養子なんですってね」
「そうなんですか」
「石川さん、小さい頃、戦争で身寄りをなくして、先代夫婦に引き取られたそうです。先代のおかげで一人ぼっちじゃなくなったって。家族ができたって言ってました。ここのナポリタンって普通より味付け甘いですよね。僕子ども味覚なんで、すごく美味しかったです」
「え、甘いんですか、普通より」
「え、稲葉さんーー」
「私食べてないんです。時間なくて」
 
そのとき、阿久津に聞かれたコールスローのことを思い出した稲葉。
 
「あの、コールスローはどんな味?」
「ああ、甘かったですよ。普通のマヨネーズより」
「両方甘い? なのに、一番人気ーー空井さん、行き先変更してください」
 
空井の運転で稲葉は洋食ナポリに急ぎました。ナポリにつくと、稲葉はナポリタンを注文します。出てきたナポリタンを味を確かめるように食べる稲葉。
 
「石川さん、このマヨネーズって甘いですよね」
「自家製です。クリーミーでしょ」
「ナポリタンも甘くて子供向けの味付けですよね」
 
「これ、使ってみてください」と亭主が取り出したのはタバスコでした。
 
「普段使わないんですけど」
 
「ちょっとだけでも」という亭主の勧めでタバスコをかけたナポリタンを食べる稲葉。
 
「ん!」
 
稲葉の表情は激変しました。
 
「うちのはタバスコを使って、初めて味が完成するように作ってるんです」
「すごい、口の中が香りが!タバスコって辛いだけだと思ってました。美味しい! あ、でもかけすぎた」
 
「そういうときはこっち」と亭主はコールスローを指します。
 
「こうすれば、小さなお子さんから大人まで家族皆が楽しめるでしょ。これがうちの店のこだわりです」
「家族皆が幸せになれる味」
 
稲葉は、お店にいる家族を見つめて静かにつぶやきました。
 
「はい、先代から頂いた大切な宝物です」
 
そこへ、空井が店内にやってきました。大盛りのナポリタンをみて、「手伝います、稲葉さんだけじゃ無理でしょ」と一緒に食べ始めます。稲葉は自身のさまざまな間違いに気づき涙を流し始めました。
 
「なにもわかってませんでした。わかろうともしなかった。報道のときも同じです。正義を笠に、いつの間にかスクープさえ撮れればいいって無神経になって。相手が人間だってことも忘れてーー報道に戻るどころか、記者失格です。まさに『浅学非才、馬鹿丸出し』。今の今まで自分は馬鹿じゃないと思ってた。大馬鹿です。」
 
空井の運転で、稲葉は急いでテレビ局に戻りました。今日は街角グルメ放送の日なのです。先ほど作成した素材とセリフの台本をかかえて放送局にかけこむ稲葉。ナレーションのすべてを差し替えた映像を阿久津チーフに差し出し土下座しました。
 
「ナレーションの全面差し替え!?」
「はい、絵もテロップも差し替えました。これで行かせてください。お願いします」
「馬鹿か。責任者のVTRチェックもなしに放送できるか!」
「前のじゃだめなんです」
「お前は、あれでいいといった。クソ面白くない仕上がりだが、今更遅い」
「でも、まだ放送されていません。辞表をかけというなら書きます。お願いします」
「そんな勝手通るか!」
 
凄まじい剣幕の阿久津チーフですが、怯むことなく稲葉はお願いし続けました。
 
「お願いします」
「だめだ!」
「お願いします!」
 
阿久津チーフはOKを出してくれませんでしたが、他のスタッフの機転のおかげで阿久津さんはしぶしぶ承諾するのでした。稲葉のもつビデオに手を差し出す阿久津チーフ。
 
「ありがとうございます!」
「次はない。二度とな」
「はい。人のせいにも、運のせいにも、もうしません」
 
稲葉の顔をじーっと見つめる阿久津は、稲葉の口元を指して指摘しました。
 
「稲葉、ケチャップついてる」
「え?」と口元を拭う稲葉。「今のうちからロンロン茶飲んどけ」というと、阿久津はVTRチェックのために去っていきました。
 
「ロンロン茶?」
「血糖値下げんだよ。あの人、20年くらい街角グルメ食い続けて血管ボロボロ。今は食事制限食らってる」
「だから、街角グルメの仙人ーー」
 
放送は大成功。無事に洋食ナポリの良さを世に伝えることができたのでした。外はすでに真っ暗でしたが、空井は車に忘れられた稲葉の携帯を渡すためにテレビ局の外で待っていました。
 
「空井さん!」と駆け寄る稲葉。稲葉に気づいた空井はお辞儀しました。
 
「すみません、こんな遅くまで」
「いえ。ラストチャンス、間に合ってよかったですね」
「空井さんのおかげです。本当にありがとうございました」
 
稲葉は携帯を受け取りつつ、頭を下げました。
 
「いえ、僕は何も」
「あの、お願いがあります」
「はい」
「広報室の懇親会、参加させてもらえませんか? 今更なんですけど」
 
空井は少しびっくりして言葉につまりました。しかし、稲葉の申し出には喜びの表情。
 
「あ、いえ、大丈夫です。大歓迎です」
 
空井の言葉にほっとして笑う稲葉。
 
「まずは知ってください。僕らのこと」
「はい!」
 
稲葉が素直に笑う姿に空井は目を奪われるのでした。慌ててベンチに座り、テレビ企画の提案をします。
 
「あの、僕、思いついたんです。テレビの企画。空自の航空機に実際乗っていただくってどうでしょう。たとえば、人気の俳優さんとかに。ただ見るだけより、実際乗ってもらったほうが、伝わることたくさんあると思うんです」
「いいと思います」
「ほんとですか!?」
「はい、空井さんらしいアイディアです。パイロットならでは」
 
稲葉の言葉に彼は少し寂しい目になります。
 
「元、ですけどね」
 
彼の寂しそうな言い方に少し悲しい顔をする稲葉。
 
「私も元報道記者」
 
稲葉の消沈した空気に彼は少し思案して、言いました。
 
「稲葉さん、記者って職を失ったんじゃなくて、ディレクターって職を新たに得たと考えるのどうですか?」
「え?」
「僕もね、パイロットだったこと生かせるなら、そんな広報官になれるとしたら、なんかワクワクするなって。前のこと振り返ってばかりいても、僕の人生って30手前でもう余生になっちゃうし、そんなのつまらないです」
「すっごい前向きですね」
「飛行機って車と違ってバックできないんです」
「ああ、そうなんだ」
「そうなんです」
 
笑顔の空井の横顔を見つめる稲葉。前に進みだしている空井の瞳は輝いていました。
 
「なんか悔しい。一人でどんどん進んじゃって。この前までメソメソしてたくせに」
「め、メソメソ!?」
「私にナデナデされて号泣してたじゃないですか」
「いやいや、自分だってさっき泣いてたくせに!」
「泣いてません!」
「ボロボロ泣いてましたよ」
「タバスコがききすぎたんです!」
「ああ、よくもそんな堂々と嘘つけますね」
「嘘じゃないです。見解の相違です! 今日はありがとうございました。では」
 
稲葉は有無を言わさぬ勢いで去っていきました。
 
「あのう!ーーさっきはちょっと可愛かったのになあ」
 
置いてけぼりを食らった空井はつぶやくのでした。
第2話の感想はここをクリック
少しずつ理解し合っていく空井大祐と稲葉リカの姿を見ていると視聴している私もなんだか嬉しくなっていきます。
 
今回は、穏やかな二人のシーンも多く、見ていてとても和みました。また、稲葉のおっちょこちょいな失敗や広報室の皆にいじられる会話シーンもとてもおもしろかったです。
 
もっと稲葉と空井が仲良くなることを期待しています。
 
空井のちょっと天然な性格が最高なので、稲葉がもっと振り回されてくれればいいです。二人とも不器用ですが、根っこは誠実でまっすぐなところが好感を持てます。
 
理解する、わかり合うこと、に関して学びの多い場面が多かったですね。
 
前向きになれるドラマとして皆さんにオススメしたいです。
<見逃し動画>第1話 「人生どん詰まりの二人…君の涙が私の未来を変えた」
 
TVerでの無料配信は終了しました
 
第1話の公式あらすじ

帝都テレビ局勤務の強気な美人ディレクター・稲葉リカ (新垣結衣)。幼い頃からの夢だった報道記者として、警察庁付きの記者となれたリカは、誰よりも意欲的に仕事に邁進していた。取材対象が怒るくらい喰らいついてマイクを向けるスタイルを信条とし、社会の真実を暴き出すという使命感を持ち、有望な新人として高く評価されていた。しかし使命感と情熱からとはいえ、リカの強引過ぎる取材は取材対象とトラブルになることが多く、入社5年目に、本人としては不本意ながら夕方の情報番組のコーナーディレクターへと異動になる。そこで、リカは制服特集企画の担当となり、自衛隊を取材するように命じられる。
 
一方、空井大祐二尉 (綾野剛) は、念願の戦闘機パイロットになれたものの、不慮の事故で足を怪我し、ブルーインパルスに乗るという幼い頃からの夢を目前で絶たれてしまう。失意のまま一年を過ごし、航空幕僚監部広報室という思いもよらなかった部署に配属され、広報の仕事をすることになった空井は、事故以来、一度も自分の感情を出さず荒れることもなく、『 寝ぼけたように笑うヤツ 』 と言われるようになっていた。だが、空井が“当たり障りのない穏和な能面”をかぶっているだけと見抜いた上司の 鷺坂 (柴田恭兵) は、周囲からまだ無理だと言われる中、空井にリカのアテンド役を任せることで状況は一変する。
 
空幕広報室に通うようになったリカは、夢に破れた苛立ちと取材で何かスクープを物にできたら記者に戻れるかもしれない… という気負いから、空幕広報室のメンバー、特にアテンド役である空井に対して挑発的な言動を繰り返す。そして空井に対して、絶対に言ってはいけない言葉を言ってしまい…。
 
<出典>空飛ぶ広報室公式

第1話のネタバレはここをクリック
人生は出会い
2009年の春。航空自衛隊の訓練所では戦闘機によるドッグファイト(空対空の戦闘訓練)が行われようとしていた。戦闘機に搭乗する空井大祐(TACネーム:スカイ)は、仲間のパイロットに手でサインを送ります。空で行われた激しい戦闘訓練のあと、彼に負けた峰永圭介(TACネーム:ナッシュ)はタックルをしかけてきました。
 
「ナッシュ、お前。空で負けて、陸でリベンジか?! ウィングマークが泣くぞ!」
 
ナッシュを羽交い締めにして地面へとなぎ倒し、激しい陸上戦闘を繰り広げるスカイ。そこへ上官が現れるのでした。
 
「何をやってるか!」
 
上官の登場に慌てて彼らは整列し、敬礼しました。
 
「状況を報告!」
 
上官の命令にスカイは説明します。
 
「はい。敵の急襲にあい、やむを得ず自衛権を行使した次第であります」
「はい。スカイの栄転を祝しまして、少々手荒い餞別をおみまいした次第であります」
「すぐにディアブリーフィングだ。お前らも散れ!」
 
皆がさっと散っていく中、昇進するスカイに上官は祝福の言葉を告げました。
 
「スカイ。念願のブルー、楽しんで乗ってこい」
「はい。松島基地に行ってもこの百里で学んだことは消して忘れません」
「寂しくなるな」
「空は繋がってます」
 
空を指差し、彼は自信にみちた表情で上官を見つめました。
 
 
その一年後、2010年の春。
「帝都テレビ」のディレクターである稲葉リカは、街角グルメの企画で昔ながらの商店街に撮影で訪れていました。彼女は撮影の方法でカメラマンと対立し、言い合っているところでした。
 
「だから、この空からここまで、カメラをパンしてくれればいいんです」
 
稲葉は空から商店街までをワンカットで撮影してほしいのですが、カメラマンの坂手は貧乏ゆすりを激しくし、眉間にシワを寄せ、そっぽを向いて話します。そして、カメラアシスタントの大津に撮影を任せようとしました。
 
「カメラマンは坂手さんですよね」
「ただそれだけなら、誰が撮っても同じだろ」
「そういう問題じゃーー」
「ちょっと何やってんの! あっちずっと待ってますよ」
 
二人の仲裁にキャスターの藤枝敏生が入りますが、稲葉も坂手カメラマンも口が止まりません。稲葉は自分の持論をひたすらに語り続けました。
 
「こういう商店街は日本各地でなくなりつつある。真新しいビル群と商店街を一つのカットで見せることによって、変わりゆく街の姿を象徴的に見せる。そういう社会的な視点、大事だと思わない?」
「一つ聞かせてもらうけど、今日の取材は何だ?」
 
坂手はそう言いながら企画書を突き出しました。
 
「ただの唐揚げをただの唐揚げとして撮ったら、ただの平凡な唐揚げですよ。だから、せめて社会的な視点をーー」
「なんだろ。唐揚げに社会性はいらないでしょ」
「唐揚げ特集に社会性があっちゃいけないって誰が決めたんですか?!」
 
帝都テレビの情報局は、忙しいディレクターやキャスターで溢れかえり、皆が慌ただしく働いていました。商店街から戻ってきた稲葉は、チーフディレクターから唐揚げ特集の映像をチェックされています。
 
「しずる感は? しずる感がまるでない。寄りも足りない、湯気もない。パカフワはどうした?」
 
単調な唐揚げの映像にチーフは険しい表情。
 
「パカフワ?!」
「取り直せ。あと、これ。お前担当な」
 
そう差し出された企画書には「働く制服シリーズ」と記されていました。
 
「阿久津さん、この二週間ずっと思ってたんですけど、もうちょっとまともな企画ないんですか? この制服萌えシリーズもですが、こんなことよりもっと大事なニュースがたくさんあると思うんですけど」
 
そう真剣に伝える稲葉ですが、チーフディレクターである阿久津は彼女を別室へと呼び出すのでした。
 
「お前の部署はどこだ? 言ってみろ」
「情報局です」
「お前の言うところの大事なニュースを扱うのはどこの部署だ」
「報道局です」
「そうだ。もうお前の部署じゃない」
「でも、ここでだってーー」
「お前に企画をきめる権利はない」
気まずそうな稲葉。
「異動が不服か? 誰のせいだ。自分がしでかしたことの結果だろうが、違うか? 給料分の仕事はちゃんとしろ」
「わかりました。どんな萌制服を取材すればいいですか?」
 
 
その頃、航空幕僚監部の総務部広報室でも新しい企画として制服イケメン男子について語っていました。
 
「この度私、素晴らしい企画を思いつきました。はいドーン! うちのイケメン集めて制服ビシーッと着させて、写真集にして発売。女性は、すなわち、F層を味方につければ自ずとうちの好感度も上がる!」
「うちでやって売れますかね?」
「イケメンと制服出しときゃ、女子は食いつくんだよ。入れ食いなんだよ! 覚えとけ!」
「そういえば、今度来る担当者ってどんな人?」
 
そう問われた比嘉哲広でしたが、少し気まずそうに視線をそらしました。どうやら、新担当となる稲葉の評判はあまり良くない様子です。しかし、比嘉は答えません。詰め寄る片山。
 
「女性だってさ」
 
答えない比嘉の代わりに上司の鷺坂正司は口を挟みました。皆は彼に振り向きます。担当者が女性であることを知ったとたんに態度を変える片山。しかし、比嘉は何も言いません。結局、「吐いちゃいなよ」と鷺坂に言われ、比嘉は口を開きました。
 
「ガツガツしている人だと。なんでも報道局で若くして敬称付きの記者をやっていたとかで。ただ、前任の方いわく、少々ムカつくこともあると思いますが、よろしくおねがいしますとのことです」
「はい、俺、関わるのやーめた。比嘉くんよろしく」
 
先ほどまで興味津々だった片山でしたが、一瞬で逃げます。
 
「空井どこいった?」
 
鷺坂は突然、空井がいないことに気づきました。
 
「えーそういえば」
「いつからいない?」
「やらせてみるか。空井に。よし! 決めた!」
「えーーそれは」
「空井二尉は来て間もないですし、難しい方の担当は難しいと思います」
 
周りは口々に反対しましたが、鷺坂は「俺はさ、人生ってのは出会いだと思うんだよね」と言うのでした。
 
そうして稲葉リカと空井大祐の二人は航空幕僚監部の総務部広報室で出会います。ソファーに向かい合って座る三人。鷺坂は広報部について説明すると空井二尉を紹介しました。
 
「はい。この空幕広報室が本部になってます。今後こちらの空井二尉が帝都テレビさんの窓口になります。じゃんじゃん電話しちゃってください」
「そらいにい?」
「二等空尉の、この二尉です」
「空井はここに来て間もないんで、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」
 
「よろしくお願いします」と空井。
 
「珍しいお名前ですね。空井って」
 
彼女の発言に空井は頷きました。
 
「空井大祐で空が大好き。航空自衛隊にうってつけの名前でしょ」
 
鷺坂のギャグを笑顔で受け流す稲葉。
 
「自衛隊なんかより、民間のエアラインにでも勤めたほうがよっぽど名前が映えたんじゃないですか。パイロットとか」
 
稲葉の発言に対して空井は苦笑いしました。彼らの会話に聞き耳を立てていた空幕広報室の人たちは、この発言にコソコソと耳打ちし合います。
 
「なんか? いま、自衛隊なんかって言ったぞ!」
「早くもムカつく。噂以上の攻撃力」
 
「帝都イブニングでは働く制服シリーズを定期的に放送してまして、今回は航空自衛隊を取り上げたいと思っています」
「ご協力いたします。ほしい素材を言ってくだされば、もうなんなりと」
「あ、では、取り敢えず資料をいただけますか。空軍に所属する各セクションの一覧があると助かります」
「空軍?!」
 
空井も鷺坂も固まりました。しかし、鷺坂は空井に資料を出すように指示をします。煮えきらない態度の二人に稲葉は「何か問題があるなら、はっきり言ってください」と申し出ました。
 
「自衛隊に空軍は存在しません。空軍って空で展開する軍隊のことですよね。そうなると、日本に軍隊が存在することになっちゃいますけど」
 
しぶしぶ説明する空井。
 
「我々は専守防衛。国を守るだけに存在する自衛隊なんです。呼び方としては空軍ではなく空自、陸上自衛隊は陸自、海上自衛隊は海自となります」
 
引き継いで説明する鷺坂の言葉に彼女の苦笑いはひきつりました。
 
「失礼しました。言葉のアヤです」
 
周りは彼女の態度に嫌味をつぶやきます。
 
「負け惜しみ!」
「聞こえましたよ!」
 
周りのガヤガヤに稲葉は少し怒りの表情。
 
「まあ、一般の方にはよくある間違いです。マスコミの方にしては珍しいんですけど」
「では、勉強不足の私に教えていただけますか。空自さんは帝都イブニングにいったいどのような素材を提供してくださるのでしょうか?」
「よく聞いてくださいました!」
 
鷺坂はその質問に自衛隊のさまざまな装備を説明しました。
 
「これらすべてが我が航空自衛隊の取り扱う商品です。物品だけではありません。全国の基地や4万人に及ぶ隊員に至るまで、要請が適切であればご要望のままに全商品を無償でドドーンとご提供いたします」
「あの、今商品とおっしゃいました?」
「はい」
「そんなふざけた言い方していいと思ってるんですか?どれもこれも国民の血税で買ったものですよね。それを商品だなんて、非常識じゃないですか」
「いやいや、あくまで民間企業の広報になぞらえた表現ですよ。柔軟なマスコミの方にはこういう言い回しのほうが伝わりやすいかと思いまして」
「でも、税金で買ったものを無償で提供なんて利益供与に当たるんじゃないですか。ことによっては自衛隊の問題発言として報道のほうで取り上げることも可能ですが」 
 
「ガツガツだなー」
「ガツガツですねー」
 
「要請が適切であれば、と前置きしたはずです。我々、空幕広報室の使命は国民の皆様に航空自衛隊の活動を理解してもらうこと。そして、稲葉さんのおっしゃるとおり、すべては血税でまかなわれております。だからこそ、航空自衛隊の装備、いろいろな装備。きちんと運用されているということを国民の皆様にできるかぎりご報告せねばなりません。つまり、報道という公共の使命をおったメディアに対し、無償で取材協力ということは不当な利益供与ではなく、公共の利益といったほうが適切かと思いますが、いかがなもんでしょう」
その夜、稲葉は同期のキャスターである藤枝とバーでその日のことを振り返っていました。
 
「その室長、『いつでも遊びに来てねえ』だって。んな暇あるかっつ」
「いやーありえない」
「でしょう」
「空軍はないわ。常識なさすぎて、同期入社として恥ずかしいわ」
 
藤枝の悩ましげな言葉に彼女は不服そうです。
 
「私はね、武器とか銃とか、そういう暴力っぽい匂いがする映画が大嫌いなの。あの、タランティーノとかさ」
「自衛隊とアクション映画を並べて語んな」
「だいたいね、軍隊持っちゃいけないから自衛隊なんて詭弁じゃない」
「大人しくしておけよ。またなんかあったら今の現場も外されるぞ。ま、そんときは俺が先に昇進して、お前のことこき使ってやるよ」
「昇進する気あんの!? だったら女子アナ食い散らかすのやめなさいよ」
「俺は人よりも愛の数が多いだけ」
「うん、安い愛だね」
「じゃあ、お前はどんな男がいいんだよ」
「私のことを全身全霊で守ってくれる人」
「そんな、どこにいんだよ」
「今、男とかどうでもいいの、問題はどうやったら報道記者に戻れるかってことよ」
「スクープでも撮れば。自衛隊ならなんかありそうじゃない」
 
その頃、空井二尉は夢にうなされ、眠れない夜を過ごしていました。
 
 
ガツガツな稲葉
次の日も稲葉は防衛省に向かいます。局を出る際に報道局時代の同期と鉢合わせてしまいました。稲葉のことを気遣うように発言をする彼女でしたが、どこか鼻にかかるような物言い。稲葉と彼女はライバルのような関係なのです。絶対にスクープを取ると意気込む稲葉。
 
空幕広報室。新しい企画として萌キャラを作ろうと意気込む片山の話に稲葉は圧倒されていました。「CMでもしたら良いのに」とアドバイスする稲葉ですが、広報室の予算は航空自衛隊の予算の中でも微々たるものであるため手が届きません。航空祭から広報室の公式サイトまで、すべてを広報室がまかなっているのです。「CMなんて夢のまた夢」と鷺坂は少し悲しい顔をしていました。
 
「まあ、ゆっくりしていってね。いなぴょん!」
「いなぴょん!?」
 
そういうと鷺坂は去っていきました。
 
「あの、もっと何かないんですか?」
 
立ち尽くしていた空井に向かって急かすように稲葉は言いました。向かい合って座る空井。
 
「あ、はい」
「萌キャラとかそういう生ぬるい話じゃなくて、もう少し絵になるネタというか」
「絵になる?」
「事件性の高いものです」
「事件って言われても」
「空井さんにかかってるんです」
 
必死に語りかける稲葉に少し戸惑う彼。
 
「何がですか?」
「すいません。こっちの話です。何かありませんか」
「うちで事件となるとーー事故や領空侵犯、災害時の出動。そういうことになりますけど、そういうことが起きるのを期待してるってことですか? テレビの方って物騒ですね」
 
稲葉はきまり悪そうに話題を変えます。
 
「制服シリーズのほうですけど、何か面白いアイディアありますか? 新人隊員に密着とかーー」
「パイロットどうでしょう?」
「パイロット?」
 
空井はさっきとはうってかわって、饒舌に語りだしました。
 
「戦闘機のパイロットになるのってすごく難しいんです。花形だから競争率も高くて、航空学生からなる場合、入隊するのに40倍の倍率。その中でもF-15に乗れるのはわずか二割。乗るのにウィングマークが必要なんです。ウィングマークを取るのには各操縦過程の段階試験がすべて、失敗は一回しか許されないんです。視力はもちろん、体力も筋力もアスリート並みに必要です。上空では最大9g。つまり、体重の9倍の重力がのしかかるんです。それに耐えられる丈夫で健康な体じゃないとーー」
 
彼の脳裏には過去の病院での出来事がよぎりました。
 
「とにかく、戦闘機のパイロットになるのってすごく難しんです。絵にもなるし、いいじゃないですか。航空学生が戦闘機のパイロットになるまでの長期企画」
 
少し思案しましたが、稲葉は少し含みをもった断り方をします。
 
「お断りします。せっかくのご提案なんですけど、企画としてはちょっとーー」
「ちょっとっていうのは?」
「だって、戦闘機って人殺しのための機械ですよね。そんなものに乗りたいなんて、そんな願望のある人を取り上げるなんてーー」
 
空井は激しく取り乱し、机を強く叩いて立ち上がりました。彼の豹変に驚く稲葉。
 
「人を殺したいと思ったことなんて一度もありません! パイロットが人を殺すために戦闘機乗ってるって言うんですか?! そんなことのために! 俺たちがそんなことのために乗っているっていうんですか!?」
 
空井は周りの隊員に取り押さえられました。
 
その夜、稲葉は自宅で取り乱した空井と過去にあった報道局での惨状とを思い出していました。空幕広報室の比嘉からその日の謝罪がありましたが、彼の「自衛官も人間ですから」という言葉が稲葉の中で引っかかっていました。それは、報道局での惨状のときにも聞いた言葉だったのです。
 
その頃、比嘉と鷺坂は居酒屋で語り合っていました。話題はもちろん、空井のことです。パイロットだったころの空井はとても元気で明るい人間だったのだと、空井の元上官から聞いていた鷺坂。今、空井の心は過去に囚われたままになってしまっているのではと比嘉に言うのでした。
 
次の日、稲葉は阿久津チーフにドラマの企画に協力するようにと言われます。乗り気ではない彼女でしたが、阿久津に強く押し付けられる形に。しかし、空幕広報室で鷺坂は乗り気です。なぜなら、それは視聴率18%の人気ドラマだったからでした。ドラマで航空自衛隊のヘリを飛ばすだけででなく、主演俳優のセリフに「航空自衛隊」の五文字を言わせることまで取り付けようとします。
 
一日の仕事が終わり、防衛省を後にしようとする稲葉を鷺坂は引き止めました。
 
「いなぴょん、撮影までうちに張り付いてみれば? たかが制服シリーズかもしれませんが、自衛隊を取材するならうちの仕事をよく見ておくのもよろしいかと」
「利益換算して私に利があると?」
「あ、これ、うちの広報誌。よろしかったらプレゼント」
 
そうして、室長は彼女に空幕広報室の広報誌2009を渡すのでした。
 
翌日、帝都イブニングの街角グルメの撮影に追われる稲葉は、再度唐揚げの取り直しをしていました。唐揚げを開き、そこから湯気のあがる美味しいシーンのパカフワ動画をチェックしている稲葉。阿久津チーフは、彼女にドラマ企画の進行状況を確認しました。
 
「ドラマの件どうなった?」
「許可が出るかはわかりませんが、鷺坂室長はやる気満々です」
「なら上手くいきそうかな」
「そうですか?」
「詐欺師、鷺坂」
「え?」
「あそこの室長の異名だ」
 
その頃、鷺坂は防衛省を奔走していました。すべての部署に根回しして一週間後のドラマ撮影を成功させようと巧みな弁によって皆を説得して回っているのでした。
 
空幕広報室の広報誌2009によって、空井が過去に戦闘機のパイロットだったことを知った稲葉。その日の夜に自宅で彼のことを調べていました。彼の夢は、幼いときにみた航空祭のブルーインパルスに乗ること。彼はブルーインパルスのパイロットになるはずでした。しかし、空井はその年に不慮の事故に巻き込まれてしまったのです。彼はその事故のせいで足を骨折する重傷を負いました。それによって、彼の夢は奪われてしまいました。
 
次の日、稲葉は、制服シリーズの企画で悲劇のパイロットである空井に密着することを阿久津チーフに提案します。
 
 
飛べないパイロット
稲葉は自身のコンパクトカメラで空幕広報室の空井に密着取材を開始していました。
そんな中、鷺坂は上層部との話し合いを成功し、ドラマ企画の撮影許可を無事手に入れたのでした。あとは空井と比嘉とが航空自衛隊百里基地をつなぎ、ヘリの撮影時の詳しい予定を組むだけとなりました。
 
航空自衛隊百里基地を訪れる空井と比嘉、そして稲葉。戦闘機が飛行しているのを見て、空井は呆然としました。空井は久しぶりに元上官である第305飛行隊飛行隊長の村瀬勝彦に会います。
 
「スカイ!」
 
村瀬の声に敬礼する空井。
 
「久しぶりだな。元気にやっているか?」
「はい。元気ですよ。見ての通り」
 
薄く笑った生気のない空井の瞳と表情に村瀬隊長は言葉を失いました。
 
「スカイ、お前ーー」
「隊長。もうスカイじゃありません。失礼します」
 
去っていく空井の背中を村瀬隊長は静かに見つめているのでした。
 
打ち合わせは順調に進んでいましたが、百里基地にいる空井はどこか上の空です。呆然と戦闘機を見つめ、自身のTACネームであるスカイが決定した思い出の日を思い返します。スカイはブルーインパルスと空井という名前をかけた思い出のTACネームなのです。そんな空井を撮影する稲葉に彼は不快感を示しました。
 
「それやめませんか? 僕なんか撮っても仕方ないと思うんですよね」
「許可はとってます」
「意識しちゃってやりにくいし」
「気にしないで自然にしててください」
「自然にったって」
「テレビは映像がないと成立しないんです。新聞記者にとってペンが武器であるように、テレビの記者にとってはカメラが武器ですから」
「たしかに、さっきからずっと銃口を突きつけられている気分です」
「銃口ってーーあなたたちこそ、山ほど武器弾薬もっているじゃないですか。たとえじゃなくて本物の。どんなにきれい事いったって武器は武器だし、人を傷つけるための機械です。カメラと一緒にしないでください」
 
彼は顔をゆがめ、鋭い視線を稲葉に向けますが何も言いませんでした。
その夜、空井は鷺坂に彼女の担当をやめたい意向を伝えます。
 
「それで稲葉さんの担当をおりたいと」
「このままだとまたーー」
「切れちゃう?」
「しなきゃいいじゃないか。我慢」
「は?」
「我慢なんかしちゃいかんのよ。戦闘機は人殺しのための機械であり、パイロットには殺人願望がある。そんな暴論を黙って聞いてちゃいかんのよ。俺たちは航空自衛隊の広報なんだから」
「腹を立ててもいいんですか」
「いいよ。ただし、キレるな。正しい主張だからこそ、怒鳴っちゃいかんのよ。怒りを相手にぶつけるな」
 
鷺坂は室長椅子から立ち上がりました。
 
「空井、俺たちの心情はなんだ? 専守防衛。守りきってなんぼ、だろ? 俺たちはいつでも撃てる。撃つ能力もある。それでも、極限まで撃たないことを命じられている。広報も同じだ」
「怒りをぶつけるのは攻撃するのと同じ」
 
鷺坂の言葉を噛みしめ、つぶやくように空井は言いました。
 
「それにな、そんな不本意なことを言われるのは俺たち広報のせいなんだ。わかってもらおうという努力が足りてないからだ。努力もせず、理解しろってのはそりゃあ、虫が良すぎるって話だ」
 
翌日、撮影本番の日。
相変わらず稲葉は空井を撮影していました。空井の心情は変わっていませんが、もう怒りをぶつけたりしません。
 
ドラマの撮影は何の問題もなく始まりました。主演の桐谷も到着し、現場は黄色い声援で盛り上がります。
 
「皆、普通ですね。テレビ局に集まるアイドルのファンみたいです」
「皆普通ですよ。自衛官も人間ですから」
 
しかし、ドラマ撮影の備品の抜けが発覚します。白のヘルメットを撮影班が忘れてしまったのです。監督は明日の撮影にできないかと横暴な要望を言い出しますが、自衛隊のスケジュールは今日しかありません。
 
「無理なら、ヘリのシーン諦めるしかありませんね。絵は地味になるけど、トラックでの救助にかえよう。残念だが、無理ならしかたがない」
 
それに対して稲葉は黙っていませんでした。
 
「それは脅しですか? 一週間と無茶いって、ここまで協力させて、明日にしろとか使わないとか何ぬかしてんですか? この人たちは今日のために遅くまで書類作ったり、手続きしたり、方々に頭下げたり、準備してくれたんです。ちょっと話が繋がらなくても今ここで撮るのが筋だと思いますけど!」
「ドラマをわかってねえ奴が口出すなよ。いい加減なもん作れるか!」
「こうなったのは誰の責任よ! 自分たちの責任でしょ!」
 
しかし、太陽は待っていてくれません。皆が途方に暮れていたそのとき、空井は他にヘルメットの備品があることを思い出しました。
 
「あ! あった! あります、メット。このまま準備しててください」
 
そのまま、彼は走り出しました。備品のある倉庫にたどり着き、稲葉と二人で探すとそこには白のヘルメットがあったのです。そうして空井が見つけたヘルメットによってドラマ撮影は無事に開始できました。あとには、足を引きずる空井が残りました。彼に静かに語りかける稲葉。
 
「最初、普通に走っていたから案外平気なのかと思っていました。すみません、調べました。交通事故にあわれたんですよね」
「怖いな。マスコミの人って」
「パイロットにはもう戻れないんですか」
「日常生活には問題ないんです。でも、膝の半月板が三分の一しか残っていなくて、激しい運動は無理で。まあ、戦闘機に乗るより激しい運動なんて探すほうが難しいです。プロペラでもなんでも飛べるなら、乗せてもらえるならって思ったんですけど、P免になっちゃいました。パイロット罷免。免許の剥奪です。お前はもうパイロットじゃないよって。操縦席にはもう二度と座れないよってそういう通知です。今日は久々に全力疾走しました。なんだか楽しかったな」
 
語る空井に稲葉はカメラを向けます。
 
「事故の瞬間のことを聞かせてもらえませんか」
「後ろからいきなりだったんで覚えてないんです。本当にぶっつり。目が覚めたら病院のベッドの上で、目が覚めたら全部無くしてた」
「じゃあ、事故のフラッシュバックとか夢に見たりっていうのは」
「夢はーー夢は毎晩見ます。でも、事故の夢じゃなくてーー」
 
そのとき、空井は彼女の方を振り向き、向けられているカメラに気づきます。
「何の夢を?」また問う稲葉。
 
「夢はもう見ません。全部忘れました」
 
薄くほほえみ、彼はそう言い留まったのでした。ドラマ撮影は、日没までに無事に終了しました。皆が達成感に包まれる中、空井に一般の幼い男の子が声をかけました。 
 
「あのう、パイロットにはどうしたらなれますか?」
 
男の子の目線の高さまでしゃがむ空井。
 
「そうだな。一所懸命勉強して、運動もして、目が悪くならないように気をつける。そしたら、きっとパイロットになれる」
「ブルーインパルスに乗れるかな? 航空祭で見たんだ。超かっけーの」
 
男の子の笑顔と言葉に空井は涙を流しました。それは空井の過去の夢と一緒でした。
 
「大丈夫。ブルーインパルスきっと乗れるよ。信じ続けて頑張れば、必ず夢は叶う」
「うん、ありがとう」
 
涙をこらえて夜空を見上げる空井。彼はその場を後にしますが、稲葉は追いかけました。彼の涙はまだ止まりません。上を見上げたままの彼に稲葉は話しかけます。
 
「空井さん、夢の中で今も飛んでるんですね」
「こんなとこ撮って楽しいですか? いい歳した男がみっともなくこんな!」
「カメラはもうしまいました、しまいましたから」
 
振り返る空井の目には涙が光っていました。稲葉の言葉を聞いた途端に彼はたくさんの涙をこぼし、崩れ落ちます。
 
「なんで俺なんだよ。他にもいるだろう。この足でも十分なやつがいるだろ。俺はブルーに乗れたんだ。乗るはずだった。乗れたのにーー目が覚めると空じゃない。真っ暗な天井しかない。もう二度と飛べない。二度と空は飛べないんだ、俺は」
 
それは彼が今まで抱えていた心の叫びでした。
 
「ちくしょう!」
 
稲葉は彼の頭に手を置き、そっと撫でました。
 
「ごめんなさい」
 
稲葉の言葉を聞き、涙でぐしゃぐしゃの顔で見つめると、空井は静かに首を横に振ります。またそっと頭を撫でる稲葉。彼はただ泣きつくすだけでした。
 
後日、当のドラマは予定通りに放送され、空幕広報室の皆が喜びました。このドラマの広告価値は2億ほどあると鷺坂は空井に教えます。
 
情報局では稲葉が空井の取材映像をチェックしていました。映像の空井を見た同期の藤枝が興味深げに話しかけてきました。
 
「ん? この人。へえ、いい男じゃん。稲葉の好きそうな。全身全霊で守ってくれそうな」
「自衛官なんだから、守るのは国でしょ」
「てことはさ、自衛官って究極の選択にさらされるわけだ。いざというとき、国か、愛する人か」
「重いね」
 
映像が空井の泣き顔にさしかかったとき、稲葉は慌てて映像を停止しました。そして、自分に語りかけるようにつぶやいたのです。
 
「カメラが踏み込んじゃいけないとこってあるのかもしれない」
 
そのとき、情報局に電話が入りました。それは空井からのものでした。
 
「はい、稲葉です」
「こんにちは。空井です」
「どうかしましたか」
「あ、あの、自分、稲葉さんのために生きてみようと思います。そういう第二の人生もいいんじゃないかって」
 
その発言に言葉を失い、戸惑ってしまう稲葉。彼は稲葉に問いかけます。
 
「もしもし、稲葉さん聞いてます?」
「はい、あ、あの、あのう。国は?」
 
混乱した稲葉は意味のわからないこと言ってしまいます。空井も戸惑います。
 
「あ? は?」
「あなたには国を守るって使命があるでしょう」
 
阿久津チーフは稲葉のわきでそれを聞いて口をあんぐりと開けました。
 
「もちろんそうですけど、まずは稲葉さんにわかっていただくことが広報の仕事なんだと思うんですよ」
「はい?」
「稲葉さんのための広報官になるところから始めようと思います。だって稲葉さん、基地と駐屯地の違いすらわかってないですよね」
 
彼の発言の意味を理解して、稲葉は呆れ顔でため息をつきました。
 
「はあ、わかりませんねーー」
 
空井は基地と駐屯地の違いを説明し始めましたが、稲葉は「言い方が紛らわしいのよ!」と電話に対して言うのでした。
第1話の感想はここをクリック
全く共通点のない男女二人が同じように仕事で挫折を味わい、出会うことで次の一歩を歩んでいく姿に清々しい青春を感じました。夢を失っても新たな人生を歩み始めた空井が今後どのような転身をしていくのか期待しています。また、稲葉の過去の失敗がどのようなものなのか気になりますね。
 
まだ頭が固い稲葉ですが、次回それが変わっていくことを願っています。最後の二人の戸惑いと不思議な会話に爆笑することができました。
 
所々、コメディのような表現がとても面白いのでぜひ見ていただきたいです。

空飛ぶ広報室の内容

公式サイト

美人テレビディレクターと航空自衛隊の元戦闘機パイロットという異色コンビが、考え方も立場も違いながらも、「 幼い頃からの夢を絶たれ、ただ今人生の壁にぶち当たっている 」 という共通点から、お互いに理解を深め惹かれ合い、成長していく姿を描いていく。そして、そんな2人を軸としながら、ひと癖もふた癖もある航空自衛隊の 「 チーム広報室 」 の個性的なメンバーが、ある時は衝突したり、ある時は感化し合いながら、自分たちの仕事への姿勢を見直し、新しい目標を見つけ、プロとしても人間としても成長していくという群像劇も描いていく。
 
<出典>TBS公式

<出演者>

稲葉リカ:新垣結衣
空井大祐:綾野 剛
柚木典子:水野美紀
片山和宣:要 潤
槙 博巳:高橋 努
比嘉哲広:ムロツヨシ
藤枝敏生:桐山 漣
坂手はじめ:渋川清彦
香塚ともみ:三倉茉奈
大津裕一:前野朋哉
佐藤珠輝:大川 藍
桐谷隆史 (キリー):桐谷健太
峰永圭介:阿部丈二
村瀬勝彦:池内博之
阿久津 守:生瀬勝久
鷺坂正司:柴田恭兵

<各話の視聴率>

第1話 人生どん詰まりの二人…君の涙が私の未来を変えた 14.0%
第2話 浅学非才・馬鹿丸出しの私…でも答えは自分で探す 13.5%
第3話 覚悟のいる結婚…いつも笑顔でいよう 11.6%
第4話 美女がオッサンになった理由 11.1%
第5話 過去との再会・初めての告白 10.6%
第6話 伝説のあぶない名コンビ復活!? 13.4%
第7話 いざという時そばにいられない男だけどそれでもいいか? 12.1%
第8話 運命が変わる2秒間 12.1%
第9話 つのる想い・あふれる涙 12.5%
第10話 君の隣で見えた景色 11.7%
最終話 2年後の再会〜二人で大空に描く未来 15.3%

第1話から最終回まで全話配信中です

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空飛ぶ広報室の感想

30代女性

この作品は「自衛隊とは?」と「自衛隊で働く人達」にスポットを当てた、当時では珍しいドラマだ。その主題をもとに、ヒューマンドラマとラブコメ要素をはらんで展開していき、見れば見るほど引き込まれていく。「自衛隊」は現在でこそ、東日本大震災や、様々な災害でヘリコプター等で救助活動を展開し、その活躍や貢献度は世間に知られるようになったが、当時の私は恥ずかしながら浅い見識と偏見で、「自衛隊=軍隊=戦闘機など(税金の無駄遣い)=戦争」というような悪い印象が漠然してあった。(多くの一般人にも多少なりそういう見方があったように思われる)けれど、このドラマを見てから自衛隊の印象や認識が大きく変わったように思う。見どころは、豪華キャスト陣(主演の新垣結衣をはじめ、綾野剛、水野美紀、要潤、ムロツヨシ、高橋努、柴田恭兵など)の個性豊かな登場人物、そして一人一人のキャラがかなり濃く、そのやりとりを見ていて思わずニヤニヤと笑ってしまう場面も。自衛隊に内在する問題点(課題)などにも目を向けながら、一人一人にスポットを当ててストーリーが進められていき、一話一話見ごたえがある。お堅い印象ではなく、人間の温かみを感じられる、とても入り込みやすい。今見返しても十分楽しめる作品だ。個人的にはガッキーファンで、「空飛ぶ広報室」はこれまでの「リーガル・ハイ」や「逃げるは恥だが役に立つ」に並ぶ秀作ドラマなので、ぜひ見てほしい。

50代女性

私はこのドラマを観る前は、主人公のサクセスストーリーかと思っていました。しかし、実際のストーリーは違っていました。彼は小さいころからパイロットになり、ブルーインパルスを操縦したいとずっと思っていました。なので、それ以外の夢や目標は全くなかったのだと思います。しかし、思いがけない出来事がきっかけで、彼はその夢を絶たれてしまいました。かれはかなりそのことで悩み、苦しみ、時には自暴自棄になったと思います。ですが、彼には新しい夢が生まれました。広報の仕事を通じて、ブルーインパルスを応援していくと言うものでした。それも素晴らしい夢や目標だと思いました。人生はなかなか思い通りにはいかないものかもしれません。ですが、本当に好きなものがあれば、何らかの形でそれに関わって行くことはできるでしょう。大きな挫折があるからこそ、周りに優しく出来るでしょうし、相手の痛みも分かるようになると思います。この主人公のように、小さいころからの夢が叶わなかった人の方が多いかもしれません。ですが、それよりも大きな夢が見つかるかもしれないですし、後になってみれば、こうなってよかったと思える時が来るかもしれないと思いました。また、広報室のメンバーたちの爽やかな感じが特に印象に残っています。素敵なドラマでした。 

50代女性

報道記者を目指すもトラブルを起こし情報番組に移動させられたヒロインのリカ(新垣結衣)。ブルーインパルスのパイロットを夢見ていたが事故で広報室へ移動になる空井(綾野剛)。2人の挫折からの再生と淡くてかわいいラブストーリーです。第一話は、2人挫折物語でけなげな姿に泣けました。でも、新しい環境での切り返しが早い。同僚にも上司にも恵まれていましたし、なにより2人とも優秀な頭のいい子たちでもあったんですよね。一生懸命に生きている人たちは、報われて当然と思いました。凡人の自分とは違うのだからと思いつつも、何度も見返しては励まされたドラマです。なにより、広報室の個性ある面々がユニークなのに驚きます。特に柴田恭兵の広報室長鷺坂は最高!随所に「危ない刑事」を彷彿させてくれ、ほかのキャストもそれを楽しんでいてうれしかったです。鷺坂と奥さんとのエピソードがステキで、インタビュー場面は泣けました。リカと空井とのラブストーリーは、空井の変な癖でもある誤解を招く言い回しがおもしろかったです。自衛隊の協力のもと、そのバックヤードなどが随所に知ることができるのが見どころでした。「一番大変なときに大切な人のそばにいれない」という、自衛隊の仕事の大変さや役割がわかりやすく理解でき親近感がわきました。航空自衛隊だって普通の人だと、あらためて教えてくれました。

20代男性

もともと原作小説が有川浩さんという好きな作家さんでどの作品も好きだったので、実写化されると聞き絶対に見ようと思っていました。この作品は航空自衛隊のブルーインパルスを扱ったものですが、全然知識のない私でもすっと世界に入っていけます(そこが有川浩さんの魅力です!)
大きくは、ブルーインパルスのパイロットになりたかったけれど事故で諦めざるをえず広報にまわった男性(空井)を、社会報道をやりたかったけれどうまく成果を出せず情報部門に異動になった女性(リカ)が取材するという構図です。最初は噛み合わず分かり合えない2人ですが、取材を重ねるうちにブルーインパルスの魅力、広報として誇りを持って働く空井の人間性を知り、取材できる喜びをリカは知っていきます。この流れがとにかく面白くてワクワクします。仕事に対する真面目さ、真っ直ぐさを描くのがうまく自分も頑張りたい!と素直に思わせてくれるドラマです。仕事ドラマという面もありつつ、2人の恋模様も描かれます。有川浩さんは恋愛ものがお上手で、互いを尊敬し大切に思い合う、ほんとうに微笑ましく羨ましい!と思える恋愛を描かれます。原作小説もわりとボリュームがありますが、ドラマになっても良さを十分に表現されていて、一気に観たくなるドラマです。

20代女性

有川浩さんの原作も読んでいて好きな作品だったのですが、キャストのみなさんがぴったりでよかったです。リカを演じる新垣結衣さんがとても可愛く、毎回癒されました。ブルーインパルスのパイロットになるという子供のころからの夢を叶えるために努力し、やっと操縦資格を手に入れたのに、不運によってその夢が絶たれてしまうというのは、絶望としか言い表せられないと思います。そんな中リカに出会い、広報室の仕事にもやりがいを見つけて空井が変わっていって本当によかったなと思います。リカ自身も空井と出会ったことで取るに足らないと思っていた情報局の仕事にも誠意をもって取り組むようになって、お互いに高めあえる人に出会えるのは素敵だなと思いました。このドラマは名セリフが多く、特に鷺坂室長のことばは胸を打たれ、考えさせられるものが多くありました。その中でも鷺坂室長がよく言っている「意思あるところに道は拓ける」というのは本当にその通りだと思います。私も思い通りにいかなくてやる気をなくすこともありますが、このことばを思い出し、自分ができることをがんばろうと元気をもらえます。さらにブルーインパルスの飛行シーンもあるので、見どころ満載のドラマです。

40代女性

航空自衛隊という全く馴染みのない世界を描いた作品ですから、単純に「こんな感じなんだ」と興味深く観ることができました。主演は新垣結衣さん、いつも明るく可愛らしいイメージの彼女ですが、この作品の最初は苦手でした。自分の考え方はどうあれ仕事とプライベートはきちんと分けてもらいたいもの、ガツガツと突き進んでいったりせっかく忙しい仕事の合間を縫って対応してくれている相手に挑発的な態度をとるなんて社会人として失格です。でも次第に変わっていく姿が微笑ましく、爽やかな物語となりました。そして、綾野剛さんがはまり役、男って仕事場では何割か増しかっこよくなると言いますがまさにそうです。子供の頃から抱いていた夢を失って抜け殻になっていたはずなのに、変わらずきちんとした対応でガッキーとは対照的に大人で、自衛隊員ってかっこいいなと思えました。その職場内にいるのは柴田恭兵さんにムロツヨシさん・要潤さんとこれまた豪華俳優陣、いい職場だなっていうのをすごく感じさせられます。自分たちは広報室ですから命懸けのお仕事っていうのは関係ないかもしれませんが、共に頑張ってきた同僚や上司・部下などがすぐ近くで前線で戦っている、そんな中でこの雰囲気を作り出せるって実はすごいことです。

50代女性

新垣結衣さんが、最初は憎たらしい嫌な女だったけれど、だんだん性格が丸くなって成長していく稲葉リカを熱演していて、とても可愛くて良かったと思いました。綾野剛さんが、はじめは抜けがらのような状態だったのに、広報の仕事を頑張っていく空井を熱演していて、とても良かったと思いました。すごくカッコ良かったです。リカと空井が結ばれるまでの恋愛模様にな、いつもドキドキしながら見ていました。水野美紀さんが、女性隊員として頑張る柚木典子をカッコ良く演じていて、素敵だと思いました。柴田恭兵さんが、リーダーシップのある鷺坂室長をとてもうまく演じていて、存在感があったと思いました。裏方である航空自衛隊というものを、きちんとアピールしつつ前に出過ぎない形で頑張っている姿に感動しました。ブルーインパルスの勇壮さが、ほんとにカッコ良かったです。毎日一生懸命生きていても、落ち込むことは多く、恋愛も思うようにうまくいかなくて、同僚と憂さ晴らしのために飲みに行ったりと、自分自身と重ねて見ることができてほんとに共感する部分が多い、とてもいいドラマだと思いました。キャスト、映像、脚本全て頑張って最高で人生の中で、大好きなドラマのベスト3に入る傑作のドラマです。最後に、純粋過ぎるゆえに別れを選んだ2悲惨が、鷺坂室長に背中を押されて、空井とリカがかけ出して行って素直になり幸せをつかんで、ほんとに良かったです。見ていてとても幸せな気持ちになれるドラマでした。

40代女性

私は有川浩さんの作品が大好きなのと、父親が航空自衛隊に勤務していたのでとてもこのドラマに興味があり見始めました。最初は航空自衛隊でも影になっている広報室をアピールするだけのストーリーかと思っていたのですが、航空自衛隊の内情や先輩との関係性がとてもリアルに描かれていて面白かったです。またテレビ局員の新垣結衣さん演じる主人公はよくいる新人という感じですが、頑張り屋でとても前向きで私も新人の頃はあんな感じだったなぁと懐かしく思いました。とにかくこのドラマは人と人との交流が大切であることを気付かせてくれます。そして主要キャストの二人は夢破れた同じ境遇ですが、新しい道を受け入れていく姿が素敵です。その為、若い世代には絶対に見てほしいドラマの一つです。また出演者はとても豪華です。初々しい綾野剛さんやまだあまり売れていない頃のムロツヨシさん、そして今や大河の主演を演じるまでになった鈴木亮平さんも主演しています。また柴田恭兵さんも出演していて未だに渋くてカッコイイなあと思いました。そして、やっぱり新垣結衣さんは可愛いです!健気で頑張り屋の主人公役がとてもよく似合っています。これだけの豪華出演者なので面白いこと間違い無しのドラマです。

30代女性

新垣結衣と綾野剛が理想のキャスティングで、役柄にがっちりはまっていた。新垣結衣は気が強くて頑張り屋な役が多く、このドラマもそういった役で思ったことをすぐ口に出してしまったり、真面目に取り組むもからまわったりするシーンがよく出てきた。そのたびに怒られたり呆れられたりして、仕事に対するあり方を問われていたけれど、周りの助言を得て失敗を取り戻そうとしていて、もちろん新垣結衣の場合は美人でエリートなのだけど、その姿が何となく普段の自分とダブってしまって、思わず感情移入してしまった。一方の綾野剛の役もまた純粋そのもので、佇まいが本当に新鮮。最初こそ新垣結衣の役と反発するけれど実は二人の境遇が似ていることが分かり、ぎこちなく胸の内を明かしていくところなどは、綾野剛の本来持っている繊細さみたいなものが垣間見えるような、そんな風に錯覚してしまうような演技でギュッと心を掴まれた。またドラマ全体の構成については、細かい部分までとても巧みで、自衛隊側とテレビ局側の双方の立場からの思いが丁寧に描写されている。事実を伝える所は伝えて、くだけたシーンも押さえていて、バランスが心地いい。終盤には広報メンバーに愛着が湧き、終わってほしくないな、という気持ちになった。

30代女性

小説が原作となった作品。リアルタイムでは見ていませんがネットオンデマンドで見ました。逃げ恥やらんま1/2でのコミカルな新垣結衣ちゃんを見てからこのドラマを見ると全く違う感じもします。髪型やメイクも違うので尚更そう思うかもしれません。綾野剛くんもコウノドリのさくら先生まではいきませんが爽やかだけど過去の悲しい事故でパイロットの夢を諦めるという経験を抱えて悔しい気持ちを抱きつつも広報の仕事をしている青年を演じています。二人とも色々と悩みながらも与えられた仕事をこなしていく姿を見るとかっこいいな、仕事を今してないけど、していたら勇気が出る作品かと思います。あまり描かれることのない自衛隊、そのなかの広報という世間にはあまり縁のない世界の話ですがとても興味が持てました。脇の役者さんたちもいい味があり、ムロツヨシさんも相変わらず面白い役所で硬くなりすぎず見ることができたのも彼の演技があったからかもしれません。柴田恭平さんは優しく見守る上司を演じているのも良かったです。全て見終わった後に、仕事と向き合う大変さが重々伝わっていました。あと個人的に綾野剛さんがとてもかっこよく思えてしばらく恋に落ちた気分でした。